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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2016.2.2 ■■■

モンスーン地域の山に生える針葉樹の代表

御柱祭で有名な諏訪大社には本殿が無いことから、古代の樹木信仰が現代まで継承されていると考えることができよう。それに、675年に肉食禁忌のお触れが出たにもかかわらず、日本一社鹿食免の勘文(業盡有情 雖放不生 故宿人身 同証佛果)を発行していたのだから。

御柱だけでなく、「諏訪七木」という、樹木信仰の場所も存在している。今はほとんど消滅状態だが、昔は、鉄鐸を鳴らす神使廻湛[タタエ]という行事があったそうだ。その対象樹木は、以下の通り。いかにも代表的な樹種の7つ。生えている場所や樹種に意味がある訳ではなく、古木を崇めていると見てよさそう。
 「櫻」湛・・・天白社@茅野市栗沢
 「真弓(檀)」湛・・・流鏑馬社@諏訪市真志野
 「峯(桂か?)」湛・・・@茅野市宮川高部
 「干草(檜)」湛・・・七社明神社@茅野市神之原
 「橡(栃)」湛・・・闢廬社@原村室内
 「柳」湛・・・石田祝神社@茅野市矢ヶ崎
 「松」湛・・・大祝邸@諏訪市中洲神宮寺

そんな風に考えるのは、この地域は寒冷だから、常緑の針葉樹信仰となるのが自然なのに、落葉樹が入っているから。
   コニファー類[2014.4.10]
しかも、諏訪の地で執り行われている神事で用いられる樹種と一部しか一致していないし。
 樅ノ木巨木・・・諏訪大社御柱祭
 梶・・・諏訪大社御神紋
 杉・・・諏訪大社下社春宮御神木(結びの杉)
 一位の木・・・諏訪大社下社秋宮御神木
 大欅・・・諏訪大社上社本宮贄掛
尚、上社(前宮+本宮)のご神体は宝殿背後の林である守屋山と言われている。南アルプス連
山の北端に当たる。この辺りの樹種はわからぬが。
おそらく、八ヶ岳(主峰赤岳:2,899m)も同様に信仰対象だったろう。
こちらは、御祭神があり、岩長姫とされるが、国常立命を祀る場合もあるとか。なんとも複雑で理解しにくいが、山男に人気があるのは前者である。コニーデ型の美しさだけの、木花佐久耶姫がご祭神の富士山より、見栄えはガラゴロでも八つが一番ということで。(大山積見神には二人の姫君のうち、妹の木花佐久耶姫は美しいのでニニギノ命の后になったが、姉は帰されたとされており、その理由は見栄えが今一歩だったというのだ。)それに、八つは、来ただけ(南アルプス主峰の北岳)で終わらず、景色を眺めるのも楽しみの一つだし。

そうそう、樹木という点では、神社の神紋も木葉である。それが神の印なのか、はたまた祭祀を司る神職の家紋なのかはわからぬが、どういう訳か落葉樹の葉である。
柏なら、常緑樹の伊吹[イブキ]/柏槇[ビャクシン]や側柏/児手柏[コノテガシワ]になりそうなものだがそうではないところを見ると、葉皿を示しているのかも。梶の葉の場合は、葉皿だけでなく、文字を書く葉紙としても使用されていたから、祈祷用ということだろう。
 梶(桑の仲間)・・・諏訪大社
 (無神紋)・・・土着の御石神[ミシャグチ]を祀る神社
 柏・・・土着の洩矢神を祀る洩矢神社@岡谷市川東

このように眺めてみると、諏訪地区では、特定の樹種への拘りはたいして強くなさそうである。
しかも、松杉檜系への傾倒は全く感じられない。
おそらく、愛着のある木々とは樅栂類。・・・ハつに生えている、白檜曽[シラビソ]、裏白樅、米栂[コメツガ]、唐檜。
もちろん、特段に珍しい木ではない。と言うか、低山でも落葉広葉樹と混ざって生えているので、極く身近な種と言ってよいだろう。
古くから知られている木なのである。

  かき数ふ 二上山に 神さびて
   立てる栂の木・・・  
[大伴家持 萬葉集#4006]
  あしひきの 八つ峰の上の 栂の木の
   いや継ぎ継ぎに・・・  
[大伴家持 萬葉集#4266]

にもかかわらず、この栂の木だけがご神木になっていない。不可思議である。別名が咎[トガ]の木であり、いかにも処刑用の木という印象を与えるからなのだろうか。
しかし、考えてみると、この文字は樹木の「母」という意味だ。樹木信仰の原点であると宣言しているようなものでは。

この、「栂=木+母」という漢字だが、中国では全く使われていなかったと思われて来たそうだ。国字であるとされたのである。ところが、馬王堆漢墓竹簡に記載されており、竹笥には梅の種子が残っていた。そこで、栂は「梅=木+毎」に代替されてしまったと考えられるようになったようだ。(「苺=艸+母」と「=艸+毎」の関係からの類推だろう。)

栂は日本固有種だが、雲南や台湾に類縁の種(鐵杉)が生えている。火山性土壌で湿潤気候に合った高木で、3,000m近辺の地域で林を形成したりする。いかにも、モンスーン地帯の「山」を象徴する針葉樹といえよう。

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