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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2016.2.16 ■■■

桜花とは思えぬが

桜に魅せられた西行法師命日。
心に沁みる風景とはどのようなものだったのか気になるところだ。冬寒の山の木々のなかに春到来を見つけたと思っているうちに、一斉に咲き始めるから、命の息吹を感じさせられる訳で、それが無上の歓びということだろうか。どうあれ、精霊感覚であろう。
   「春の精気を感じさせる木」[2013.4.28]
ドナルド・キーンさんのように、桜の中尊寺金色堂の傍らで、突如心を動かされることもある訳で。コンクリートの覆堂無き頃だろうから、残念ながら追体験はできぬ。
   「今年のお花見で考えたこと 」[2012.4.17]
「さくら」の「さ」は穀霊で,「くら」は霊が座する場所どの説があるそうだが、[出典は、和歌森太郎「花と日本人」草月出版 1975らしいが、本が無いので、確かめていない。]少なくとも、天上の陽光を感じさせる常緑照葉樹の神籬とは相当に異なる感覚と言えよう。どうあれ、山の「咲等」であり、大山津見神の娘である木花之佐久夜毘売の依代であるのは間違いなかろう。

常識的には、そんな桜信仰を感じさせる場所と言えば、吉野山。小生も開花期に訪れたが、予想通りの人塵で閉口した。雪がチラホラの吉野山千本に泊まったこともあるが、お客さんゼロ状態でその落差は凄いもの。それ以来ご無沙汰。
   「衰退路線を走る桜の名所」[2005.4.14]
東京は山桜ではなく、里桜であり、しかももっぱら染井吉野。それとは違うタイプを愛でる習慣にも触れてみたくなって、京都で好まれる枝垂を見に行ったこともある。このタイプだと一本を愛でる方がしっくりくる。いかにも王朝好み。
   「【古都散策方法 京都-その28】京都の桜に活力を貰う。」[2010年3月11日]
早咲きを眺めるなら伊豆の熱海や河津。風景が素晴らしいというより、初物の歓び。

このように、桜といっても色々。ヒトの好みも様々だろう。
   「桜の品種と花見文化」[2014.4.12]

しかし、コレ桜かいナという樹種がある。素人向けのサクラご紹介本の索引に掲載されているから、必ずしも、植物学上の分類でそうなっているということでもなさそう。

要するに、下記の「真正サクラ類」だけではないということ。
確かに、林檎系のズミとかコリンゴの花は白色の五弁であり、サクラの一種としか思えない。しかし、ブラシのように10数個の花が穂状に咲く木はどう見てもサクラとは思えない。しかし、名称はサクラなのだ。中国での呼び名は「稠李」だから、漢字で当て嵌めるならサクラにする必要があるとはとうてい思えないのだが。
そういうことで、犬桜という呼び名になっているのだろう。

しかし、そうまでして桜の範疇にいれたくなる理由がよくわからぬ。
なんとも不思議なことと思っていたが、解説を読んでいたら、わかった気になった。犬桜の類縁の、ブラシ型穂の種の古名が記載されていたのである。・・・「波波迦[ハハカ]」。なんだ、コレ、古事記に登場する樹木ではないか。イザナキ-イザナミの国産み失敗の解決策を得るため、天ッ神が太占を行うくだりである。天岩屋戸でも"天香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて、天香山の天波波迦を取りて,占合まかなはしめて"とある。要するに、鹿の肩甲骨を、ハハカの木で焼いて、骨にうまれる割れ目模様を見て意思決定する古代の習わし。そのためには不可欠な極めて神聖な木なのである。弥生時代の遺跡出土品からも、鹿骨占が広範に行われたのは間違いなさそうで、この樹木が特別視されていたのは明らか。

そんな木が、何時から、サクラとされたのかはわからぬが、植物分類学が始まってからであろう。ハハカではなにがなにやら用語なので、○○桜と命名することになったと思われる。現代なら、ブラシ桜としたいところだが、由緒正しき樹木に対してそのような呼び方は失礼極まりないから、ウワズミ桜に落ち着いたようだ。
上溝[ウワズミ]とはもちろん鹿骨に割れ目をつけるとの意味である。

そんなことを知ると、突然、この木の世界が開けてくる。と言うのは、それこそ、至るところで見かける樹木だからだ。ほとんど誰も関心を示さないのは、まとまって生えている訳ではなく、里では他の樹木に混じって一本だけ咲いていたりするし、雑木林や、山中でも必ずと言っておいほど見かける。野生のように見えるが、実は、古代の人々が植えた子孫の可能性も。

木花之佐久夜毘売は山桜の精とされるが、もともとはハハカを指していた可能性もあろう。(開花期は晩春なので、春到来には該当しないが、岩と花の対比であるから初春咲きを指すとは限るまい。)
その精霊が宿るのは花ではなく、あくまでも幹。依代に宿った結果が開花に結びつく訳で、靈の活発化の神ということではないか。
木を燃やして神の御意向を伺う風習は止めたが、そのかわりに、花見が始まったと解釈できるかも。当初は眺めたのではなく、花が咲いている枝を身にあてたのだと思う。そのうち、小枝を髪に挿すとか、室内に飾るという形式に仕立て上げられたのではないか。
ただ、そんな感覚がもともと存在していたことは間違いなかろう。桜という文字は「櫻=木+貝x2+女」である。現代的に解釈すれば、女性の貝殻アクセサリーの代替となる樹木ということ。海人は、貝の装飾品を愛用していた訳だが、それが桜に替わったのだから。

もっとも、桜の花見が本格的に始まったのは、多分、渡来の梅の「にほい(匂い)」を愛でる流行が一段落してから。渡来の高貴な梅が一般化しすぎ、平城京をなつかしむようになってのことだと思う。嵯峨天皇の頃だろう。

そんな流れが見えてくると、梅干の元祖はハハカ干だったのではないかという気がしてくる。

─・─・─広義"薔薇"族植物の分類全体像─・─・─
真正薔薇類
■長之助草
その他
  <山吹系>
  <雪柳系>
  <柳桜・扁核木系>
  <梨・花梨・林檎・車輪梅・木瓜系>
     or 酸実 蝦夷小林檎、等々が含まれる.
  <桃・梅・桜系>
   ●桃 扁桃(or 巴旦杏)/Almond
   ●梅 李 杏 Prune Blackthorn
   ●真正サクラ類
    「山桜//櫻花」「霞桜」「大島桜」「大山桜」
     霧立山桜@宮崎県白岩山
    「江戸彼岸」「豆桜」「丁子桜」「寒緋桜」
    (雑種"里桜")
     *****
    「深山桜」
    西洋実桜 支那実桜
   
    庭梅/Japanese bush cherry
    梅桃[ユスラウメ]/Nanking cherry
    Sand cherry
   ●"稠李"類
    上溝桜//灰葉稠李
     蝦夷上溝桜 Bird-cherry/稠李
    犬桜//木稠李
     シウリ桜(深山犬桜)
   
    柊樫 or 鱗木/-/刺叶桂櫻
    博打木[→]/-/黄土樹
    西洋博打木/Cherry laurel

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