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2000.2
 
 


インターネット行きのバスに乗り遅れるな…

 日本でインターネット・ベンチャーというとネット販売の話しばかり聞こえてくる。衝撃的な新しい流通チャネルが登場という視点の意見が多い。そのため、「立ち上げて、ほんの数ヶ月で月商数百万になった」という類の事業に目を奪われがちだ。
 研究者はこうした表層ではなく、インターネットの底流をしっかりと把握する必要があろう。
 特に、インターネット登場で研究開発型企業の基盤が根本から揺らぎはじめたことを理解する必要があろう。この理解如何で、企業の将来が決まる。
 
 ところが、こうした発言をしても、ピント来ない人が多いではないか。日本では、情報通信インフラ整備と利用の両方で、極端に遅れているからである。---インターネットが普及してくると研究開発型の企業がどういう動きをするかを説明しておこう。

 特殊な産業だが、海外の薬業界がこうした動きを理解するのには最適だ。
 
 この業界でもWebMD、Healtheon、Drkoop.comといったドット・コム型事業の動きが急である。一般消費財でなく、プロを対象としたハイテク産業内でもインターネット関連事業の動きが活発なのだ。一方、90年代後半から、欧米の製薬大企業も、続々とホームページ構築やインターネットによるコミュニケーションに予算投入を始めた。その規模は1社で数百億円にものぼる。こうした動きを支えるために、製薬企業ホームページのPR戦略構築業まで登場している。間違ってはいけないのは、こうした新しい業務は、大企業の単純な下請け仕事ではなく、高度な知識をベースにした高付加価値な仕事という点だ。この業界では、次々と、知的な産業が生まれつつある。主婦にもできると宣伝されるインターネット小売業の繁盛とは全く質が違う。しかも時間、地域に無関係にこうした産業が拡大しつつある。今や、こうしたPRのプロが日本に住んでグローバルに活動していても誰も驚かない。
 それにしても、何故このような動きになるのか?---この動きが理解できれば、他の業界へのインターネットの衝撃もアナロジーができよう。

 消費者や医者がインターネットに接続したため、自分達で情報収集ができるようになったことは誰でも知っている。素人が無料のデータ・ベース検索で、医者より治療の現状を知る事態まで現れる位だ。当然、こうした動きで、市場は今までと違う動きをする。これを黙って見ていれば、自社のシェアは落ち込む可能性が高い。一方、積極的に情報を提供すれば、シェアが向上するだけでなく、全体のパイも拡大する。従って、インターネットを活用できない企業は競争力を失っていくのが流れなのだ。
 といっても、こうした理屈は誰でもわかる。問題は、やり方がよくわからないことだ。どのようにして、消費者や医者に対して、インターネットを通して語り合うべきかを明確に語れる人はいない。残念ながら、先生はいないのだ。そうなれば、自学自習が当たり前ではないか。
 しかも、解ってきたのは、後から学ぶのは難しいという点だ。というのは、「学ぶ」のは、企業だけではないからだ。消費者、プロ、企業すべてが学んでいく。従って、この学習プロセスを作ることが重要なのだ。プロセスなので、後発は学習すること自体が難しい。成功企業の真似だけでは成果があがる保証は全くない。
 それなら、どうするべきか?---答えは自明ではないか。
 
 「バスに乗り遅れるな」という方針は正しい。もちろん金はかかる。

 今は、学べるチャンスがある。この成果を生かせば、飛躍実現の新しい仕組みを作れるだろう。しかし、2〜3年後にはこのチャンスはなくなってしまう。欧米の大企業が必死になってE-ビジネスを議論する理由はここにある。
 インターネットの効用をサプライ・チェーンを中心に見ていると、グローバルな研究開発型企業は沈没する可能性がある。顧客との関係をインターネットでどう構築するかが問われている。研究開発の方向性を決めるニーズ把握や、不可欠となる新しい付随サービスを探し出す仕組みを、インターネット活用で構築できるかが勝負なのである。


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