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2002.9.4
 
 


東電隠蔽事件…

 長銀で苦労された箭内昇氏が「東電隠蔽事件」について意見を述べている。(http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/colCh.cfm?i=t_yanai18a)

 経営トップは「原子力部門がブラックボックス化し、・・事業のリスクについて理解・・できなくなっていたのではなかろうか」との主張だ。そして、長銀破綻や三井物産事件と同類として、トップが知らない所で発生する不正問題について語っている。
 体験論に基づくものであるから、納得させられる点が多いが、東電隠蔽事件に関しては違和感を覚える。他の不正事件とは本質的に異なる問題に言及していないからである。

 電力事業は国策であり、電力会社にとって原子力発電遂行は最重要事項である。
 にもかかわらず、基本技術は海外企業が抑えたままだし、厳格な規制があり、しかも反対運動に囲まれている。経営手腕が発揮できる状況ではない。
 そのなかで発生した不正である点を忘れるべきでない。

 シュラウドの応力腐食によるひび割れ発見が東電の発電所で指摘されたのが1994年だ。世界的に同型炉で同様な現象がおきているから、遠からず、すべての炉で発生するのはわかっていた。(http://www.fepc.or.jp/shikihou/shikihou03/p14.html)
 ひび割れれば、取り替えになるが、大規模で危険が伴う工事が必要だ。このため、遠隔操作の自動溶接機を用いた取替工法が開発された位である。(http://www.toshiba.co.jp/product/abwr/techno/newtech/shroud/shroud001.htm) おそらく、100億円レベルの費用がかかる。

 これほどの大工事を、ひび割れが現実化していない状態で、「予防」のため、急いで行うことはありえまい。
 急ぐとしたら、その理由は2つしかない。抜本的な設計ミスか、安全係数上取替必至のひび割れが発見された場合だ。前者とみなせば、原子力行政が破綻するので、そのような理由が認められることはあるまい。取り替えは、後者しかありえないのだ。

 従って、「予防」工事が申請されれば、ビジネスマンや当局は、すぐに察しがつく。しかし、どの道取り替えるのだから、皆、知らん顔をしたにすぎない。原子力発電をスムースに続けるために、余計な問題発生はできる限り抑えたいからだ。
 東電隠蔽事件は、企業内の一部がおこした不正ではなく、原子力発電の政策そのものに由来すると考えるべきである。

 おそらく、経営トップは「知らなかった」のではなく、「知りたくなかった」のだろう。


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