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2003.1.27
 
 


理解し難い旅客機開発プロジェクト…

 日本航空宇宙工業会[SJAC](http://www.sjac.or.jp/)の西岡喬会長が「航空宇宙産業への期待と責務」とのタイトルで「エンジニアとして50年の概観」を発表している。(http://www.meti.go.jp/discussion/topic_2002_8/kikou2_02.htm)

 記載に基づけば、この業界の成果は以下のようにまとめるとができる。
  軍事用航空機については、
  ・ 米国の戦闘機のライセンス生産事業が主体
  ・ この技術を援用しながら、極く一部だが、
    練習機T-2/支援戦闘機F-1/2の製造体制確立に成功
  民間航空機については、
  ・ 国産旅客機YS-11(60席級)事業は消滅
    [現在76機運行中なので、部品補給事業は続行中]
  ・ 小型ビジネス機事業も過去のもの
    MU-2は事業化成功(1987年まで生産)[現在450機運行中]
    MU-300(10席級)は軌道にのりかけたが撤退(海外に売却)
  ・ ボーイング機の下請け事業確保
  ・ ボーイング機の一部設計受託
  衛星システムについては、
  ・ 宇宙開発事業団のH-IIAプロジェクトが進行中
   (打上市場参入機会の検討段階)

 外部から見ても、下請け事業中心で、独自技術での挑戦が極めて少ない歴史に映る。業界人も、このままでは先の夢が描けないから、挑戦すべき時が来た、と考えているようだ。・・・先人は大変苦労して業界再興を果たしたが、その割りには、世界のなかで確固たる地位を占めることができず残念、といった無念さがにじむ。

 しかし、第2次世界大戦後の復興に苦労したのは、日本だけではない。ドイツも似たようなものだ。ところが、欧州勢は成果が上がっている。

 大型民間旅客機部門では、ボーイングに対抗して作られた欧州企業のコンソーシアム、エアバス・インダストリーが互角の競争を繰り広げている。2002年のシェアは54%だという。[仏アエロスパシアル・マトラ+英BAEシステムズ(旧ブリティッシュ・エアロスペースBAe)+独ダイムラー・クライスラー・エアロスペース(DASA)+西CASA](http://www.airbus.com/airbus4u/articles_detail.asp?ae_id=123)
 そして、この成功を土台に、BAe以外はヨーロピアン・エアロノーティック・ディフェンス・アンド・スペース(EADS)に結集した。

 EADSは、エアバス以外も、民間ヘリコプター分野で米国企業と対抗するユーロコプター(仏アエロスパシアル+独DASA)、衛星システムのアリアンヌ、等々を揃えており、航空宇宙産業の雄として確固たる地位を確立したといえる。(http://www.eads.com/eads/index_nof.htm)
 今や、AECMA(欧州航空宇宙工業会連合会)を通じて、産業側が体制を整えたのだから、政府側もこれに対応した動きをとるように、とECに対して提言するまでになった。 [2002年7月:21世紀航空宇宙産業戦略「STAR21」](http://www.aecma.org/Publications/STAR_21_350kB.pdf)

 これで、欧州はEADSとBAEシステムズの2社、米国はボーイング(マクドネル・ダグラスを合併)とロッキード・マーチンの2社、という世界4強体制になった。(3強になる可能性が高い。)冷戦消滅による、90年代の大幅な軍事予算縮小に対応した、徹底的なスリム化と、リスクが高い開発プロジェクトを企業集約で乗り越えてきた結果である。

 海外では、このようなダイナミックな動きが進んだが、日本だけ全く変化がない。「オールジャパン体制」と称される秩序の下、機体メーカーの3重工+2中堅企業の体制が維持されている。(三菱重工、川崎重工、富士重工、新明和、日本飛行機。特殊分野もいれると昭和飛行機も加わる。)
 中国航空機市場の勃興を考えれば、ボーイングが中国と組む時代がきてもおかしくない。防衛予算が膨張することもないだろう。

 従って、外部からは、将来の産業構造をどうするか意思決定に迫られている産業に見える。

 ところが、こうした環境下にもかかわらず、理解し難い開発プロジェクトが進行している。

 2001年から始まった、海上自衛隊の対潜哨戒機P3C後継機PXと、航空自衛隊の輸送機C1後継機CXの、同時並行開発プロジェクトだ。それぞれの計画が理解できないのではない。同時推進により、開発コストを削減するという考え方が理解できないのである。
 軍事技術なので詳細はわからないが、報道を総合すれば、翼や操縦部分を共通化してコスト削減を実現するらしい。しかし、これは新型機開発であり、同一プラットフォームの装備変更プロジェクトではない。・・・異なるコンセプトの航空機の基幹部分に折衷設計を持ち込み、コスト削減を図ることになる。素人には理解し難い動きだ。

 圧巻は、2002年11月24日の日経新聞のトップ記事だ。国産旅客機開発とある。軍事機開発プロジェクトに、民間機開発プロジェクトを相乗りさせる流れができたようだ。
 一般的な意味では、軍用機から民間航空機へと、技術の使い回しは可能だ。と言うより、これこそが成功の鍵といえる。しかし、あくまでも技術利用であって、軍事機の設計図を旅客機に直接転用することができるとは思えない。
 ところが、日本では、並行開発を進めるらしい。仰天である。

 このような話しが登場するのは、YS-11(日本航空機製造)を引き継いだ日本航空機開発協会(JADC)の30-50席級小型ジェット旅客機YSX開発プログラムを表に出すための作戦としか思えない。(http://www.jadc.or.jp/h14jigyoukeikaku.pdf)
 なんとか技術開発したい技術者の気持ちはわかるが、曖昧で中途半端なプログラムは間違いなく破綻する。

 しかも参入予定の分野には、小型旅客機からシリーズ化を図る成功企業が存在している。
 このような企業の製品群を越える商品を開発できる根拠はあるのだろうか。

 カナダのボンバルディア・エアロスペースは地方路線向け航空機シリーズで確固たる地位を築いており、業績好調だ。(http://www.aerospace.bombardier.com)
 ブラジルのエンブラエルも十分な受注量を誇る。(http://www.embraer.com/english/content/home/)

 この2社の存在は、日本企業にも飛躍のチャンスがあったことを示している。YS-11以降、日本企業はハイリスクな「賭け」を避け、チャンスを逃したのである。

 ところが、今まで避けてきたのに、政府/民間ともども財務状況が悪くなった時点で、後発/販売チャネル無しの状態から、ハイリスクな「賭け」を手がける。

 状況を考えれば、勝てる根拠がわからないプロジェクトは中止し、業態変更等の、高収益企業への変身方策案出に注力するのが、筋とはいえまいか。


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