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2003.3.7
 
 


日本マクドナルドはどうなるのか…

 2003年3月、日本マクドナルドの名物経営者が引退した。藤田田氏である。(http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt52/20030305AS3K0503J05032003.html)

 技術屋は、経営一般、しかも外食産業分野には興味がないかもしれないが、異分野を知ることで洞察力も高まるから、こうした情報にも、たまには目を通しておいた方がよい。
 しかも、マクドナルドなら誰でも知っているから、好材料といえる。

 ざっと眺めておこう。

 日本マクドナルドは、2010年代の売上高1兆円を目指し、急成長路線で走り続けてきた。(外食産業シェア5%程度に該当する。)
 藤田田経営で、特に注目されたのが、1998年末に試行した、ハンバーガー半額セールだ。低価格戦略で、一挙にシェアが上昇したのである。
 このため、時代の先を行く経営者として、マーケティング学者やジャーナリストの賞賛の嵐にみまわれた。

 ところが、ジャスダックに上場した翌年、2002年度決算では一挙に赤字に転落した。

 価格の上げ下げで、消費者の不興をかったと言われている。
 一方、藤田田経営の賛美者は、デフレ終息の読み違えで、価格政策を誤った、との意見のようだ。確かに、藤田氏は、2003年年頃にはインフレ突入と考えていた。(http://www.nikkei.co.jp/money1/20011224c54co000_24.html)

 一見もっともに思えるが、本質は違うのではないか。

 確かに、低価格ハンバーグの威力は凄まじかった。2001年の夏には、「都心を中心に昼食時の店内は30歳代、40歳代の男性でいっぱい」になった。(http://www.nikkei.co.jp/money1/20011211c54cb001_11.html)
 低額で腹を満たそうと考える人が、大挙して押し寄せたのである。

 ここで注意すべきは、このシーンが都会という点だ。今まで来店しなかった、昼食代を気遣う中高年サラリーマンや、低所得者層が、初めてマクドナルドを訪れたといえる。セールによって、都会の潜在需要を掘り起こしたのである。
 新しい顧客層への拡大だから、ミクロで見れば大成功と呼ぶことができる。

 これに合わせて、事業の仕組みも大きく変えているなら、経営的大転換を果たし、飛躍に繋がると見ることもできる。
 ところが、仕組みの方は、低コスト提供システム以外は、何も変わらなかった。店の作りも同じだし、椅子の数が増えた訳でもない。「勝利の鍵」と自称する店員教育も変わったようには見えない。

 一般論で語れば、このような状態なら、遠からず問題が発生する。

 少なくとも、新しい顧客層に乏しい地域(郊外や地方)では、顧客層拡大が繁盛に繋がるとは思えないから、売価低下による不採算店が多数発生することになろう。
 もっと本質的な問題も発生する。新顧客来店の影響だ。店が満員になれば、一挙に雰囲気が変わる。今までの、店員の心地よいサービスの意味がなくなる可能性が高い。

 つまり、低価格戦略によるブランドイメージ変化によるマイナス効果である。

 素人でも、その効果が激甚なのは予想がつく。
 今までのマクドナルドのイメージは、若い夫婦と子供がくつろぐ店だった。モノが溢れるアメリカ文化への憧れ感がミックスされ、「安価」だから入店との気分を覆い隠してきたのである。実際、週末の家族支払い額は、少額とは言い難かった。
 といっても、普段の実態は、若い主婦や生徒達への便利な場所提供業であり、ブランドイメージ変化の前兆はあったのである。
 それでも、来店者が持っている平均的なイメージは「若い家族が好む店」だったと思われる。店員の心地よい態度が幸福感を与えていたことは間違いあるまい。
 このイメージは、「安価」を求めて来店する顧客層とは相反する。店のイメージは一気に変わる。(ハンバーガーの食としての不健康イメージの悪化も加速されかねまい。)
 心地よさは失われたのである。

 今のままなら、失われたイメージは取り戻せない。従って、どのようなブランドにするか、問われているといえよう。

 もともと、マクドナルドは、新システムでナンバーワンの地位に上り詰めた企業ではない。他社のシステムが効力を発揮するのを見定めてから導入してきた。
 徹底的な店員教育によるブランドイメージの確立を優先してきたのである。ブランドイメージに合わせて、威力が判明しているシステムをとり入れ、競争優位を実現した企業である。

 ブランドイメージを変えれば、今まで奏効してきた仕組みの威力は半減する。


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