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2003.12.31 
 
 


黒船「Wal-Mart」の役割…

 「Everyday Low Price」で知られるWal-Martの経営は賞賛され続けてきたが、最近は、巨大化の弊害が語られることも多い。
 売上高が2,450億ドル(2002年)にもなれば、その力を下手に使えば、問題を引き起こすことになる。これからは、マイナス部分が語られるようになるのだろう。

 BusinessWeekは、2003年10月6日号で、いくつかの問題点を指摘した。
  (Is Wal-Mart Too Powerful? http://www.businessweek.com/magazine/content/03_40/b3852001_mz001.htm)

 まず指摘されたのが、低賃金方針だ。
 Wal-Martは140万人を雇用しているそうだが、賃金は同業他社より2割低く、米国では貧困層レベルの報酬に当るそうだ。
 従業員の創意工夫を重視した経営で有名だが、実態からいえば、スキルが低く低賃金労働以外の職に就けそうにない人達の職場を作り出したとも言える。(低賃金であっても、従業員のモラル向上の仕掛けが働いているのは驚きである。)
 IT活用で、社内プロセスを徹底的に自動化し、高度なスキルが必要な業務を一気に消滅させた結果でもある。こうした生産性向上施策が奏効し、1990年代の米国経済の全要素生産性向上の8分の1を占めるまでになった。難点はあるが、驚異的な貢献といえよう。

 Wal-Mart進出の深刻な影響も指摘されている。競争相手が退出するため、地域経済が衰退するという。地域全体で見ると、雇用も税収も不調になる訳だ。
 小商圏のドミナント戦略を採用しているのだから、当然の結果である。これは、地域における非効率性の是正と見ることもできる。独占して、価格を吊り上げるのなら問題だが、価格は下がるのである。問題はWal-Mart進出ではなく、産業振興ができない地元の方と見るべきと思う。

 ミクロで見れば、Wal-Martの動きが賞賛されるのは当たり前だと思う。
 低賃金でも働きたい人達に職を奪われないようにしたり、高コスト体質の業者を助成するような、既得権益者擁護政策が打ち出せる筈がない。

 しかし、よく考えると、こうした見方をしていると、将来は暗い。
 と言うのは、マクロで見れば、以上の状況は、米国産業がドン詰まりに負い込まれたとも言えるからだ。
 商品の価格を下げられるだけ下げ、賃金も下げれば、企業の収益性は高まる。しかし、雇用は増える訳ではないし、膨大な利益を手にしても、投資先はさらなる効率向上施策しかない。経済の発展性は何も無い。最後に、ペンペン草が生えるだけだ。

 とは言え、IT技術による生産性向上では、さらなる先を目指し、果敢な投資を続けるのは間違いない。
 すでに、2005年末までに、納入トップ100社のすべてのパレット/ケースを電子タグで管理することに決めている。これで、さらなる低価格が実現される訳だ。
  (http://www.rfidjournal.com/article/articleview/642/1/1/)

 「Wal-Mart is America.」と言われるまでに巨大化してしまえば、活路は海外投資しかあるまい。
 国際的なInternet EDIシステムのネットワーク構築への積極的な投資は、その土台作りといえよう。
  (http://www.harbinger.com/emea/press/05272003.htm)

 要するに、米国内と同じことが、海外でも順次発生するのだ。

 2003年12月5日にNewYorkTimesに掲載された評論「Wal-Mart Invades, and Mexico Gladly Surrenders」(Tim Weiner)がメキシコでの、こうした現実を描いている。
  (http://college3.nytimes.com/guests/articles/2003/12/06/1128709.xml)
 メキシコではすでに10万人を雇用したという。最大の雇用者である。もちろん、低賃金だ。
 米国同様に、小売りのバーゲニングパワーで、安値調達を実現し、コスト削減を徹底て「Everyday Low Price」を実現したのである。進出地域ではデフレーションが進み、雇用は増えず、地元小規模商店の廃業で経済状況は悪化するのだ。
 すでに、Wal-Martのシェアは、スーパーマーケットの30%を占めており、GDPの2%に達している。

 これを、NAFTAのメキシコにおけるWal-Martの成功と見てはならない。
 Wal-Martは、英、独、カナダでもトップ企業なのだ。南米でもアルゼンチンやブラジルでも圧倒的競争力を誇る。韓国でも力を発揮している。

 その力の凄さは、2002年の中国からの輸入額を見れば一目瞭然だ。なんと120億ドルである。米国の対中国輸入額の10%に当るそうだ。

 Wal-Martを「黒船」と語る人がいるが、正にその通りである。
 (日本でも、西友が、2002年12月12日に、Wal-Martが筆頭株主になるとの発表を行った。)
 鎖国などできる筈はない。
 新産業や新市場を興す動きを急ぐ必要があるのは言うまでもなかろう。


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