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2004.10.27 
 
 


野球経営学の不思議…

 「経営学の見地から提言」(1)を読んでみたが、全く理解できなかった。
 プロ野球の話である。

 もっとも、よく似た意見を耳にすることが多いから、多くの人達は納得しているのかもしれない。

 そこで、一言、記載しておくことにした。

 この論説記事は、「1リーグ制」に警鐘という題名になっている。
 先ずは、ここから、違和感を覚える。

 経営学の見地からいえば、「1リーグ制」はそれほど異常な方針とは言えまい。
 保守的な経営者ばかりの産業なら、ありそうな方針である。

 直面している状況は、はっきりしているからだ。

 プロ野球興行全体では、1,100億円の売り上げがあり、12社の利益合計がほぼゼロ。
 この状態で、これから売り上げ減少が見込まれる訳だ。

 そうなれば、解は単純だ。

 手っ取り早いのは、赤字体質の企業を解体し、企業数を減らすことである。そうすれば、小さなパイでも確実に利益が出せる。
 つまり、「1リーグ制」で、赤字企業を浮かびあがらせ、負け組みを撤退させ、勝ち組だけで生き残ろう、との方針を打ち出したに過ぎない。

 従って、「1リーグ制」にすると、赤字企業が増えるのが問題、という指摘そのものがピント外れである。

 しかも、大リーグの例を引いて、「経営学の見地から提言」するという。そんなことがどうしてできるのかも疑問である。

 どう見ても、大リーグの人気は低下傾向だ。パイの拡大に成功しているとは思えない。(日本市場は別で、人気沸騰のようだが。)
 ここまでやっても、観客は増やせなくなっている、という例でしかない。
 そこから何を学ぶつもりなのか、皆目わからない。

 とはいえ、この程度の話なら、そう気にならないが、次の一言で驚いた。

 今の構造では、「貧乏球団はいつまでたっても貧乏」だという。

 知恵を絞って、貧乏から脱するのが経営学の大きな役割だと思っていたが、そう考えてはいけないらしい。

 貧乏球団を皆で救おうという施策を打ち出すことが最重要、との主張が展開されている。要するに、杜撰な経営をしている企業でも、生きていける構造にせよ、というのだ。
 これが、「経営学の見地から提言」とされる。

 納得できかねる。

 この主張の核は、実は、最下位球団から新人を指名するドラフト(完全ウエーバー制)の導入である。これなら、すぐに導入できる、ということで推奨しているようだ。
 しかし、言うまでもないが、完全ウエーバー制は、経営学上で見れば、恐ろしく異常な制度である。まともに経営努力をしなかった企業に褒章を与えるという、逆立ちした仕組みになるからだ。
 各チームの戦力を同じにすると、ファンが増えるという、何の根拠もない主張で、やる気のないチームを助けようとするのである。

 しかも、米国の制度と日本の制度の違いも全く考慮に入れない主張がなされている。
 日本の3倍もの数のチームが、「卵」でしかない1000人を採用するために作った制度と、すぐに一軍に登用する選手が含まれる100人を選ぶ制度とは、意味が全く違う。

 だいたい、Ichiro がドラフトで騒がれた選手だったか、考えて見るべきだろう。

 にもかかわらず、完全ウエーバー制が素晴らしい成果に繋がるらしい。

 そもそも、金に飽かせて選手を集め、圧倒的に強いチームを作ることに反対して、どんな意味があるのか教えて欲しい。

 現実に、有力選手を集めたチームが、楽勝だったか、思わず質問したくなる。優勝どころでないのが実態だろう。
 しかも、有力選手が出場しても、視聴率は低下一途である。  これでは、興行としては失敗と言わざるを得まい。

 一方、負けが込んでいても、観客が集まるチームもいれば、地元の根強いファンで生きているチームもいる。
 興行とは、そのようなものである。プロスポーツはビジネスであることを忘れるべきでない。

 どのように進めようと、各社各様で結構ではないか。
 そして、その進め方を議論するためにあるのが、経営学だろう。

 不振を逃れたいのなら、それぞれの企業が、本気で知恵を絞ればよいだけの話だ。観客に「嬉しさ」を感じさせる、魅力的な「興行」を練りに練るしか残れる道はない。それができなければ、落ちこぼれるだけの話である。

 今の日本のプロ野球の問題は、本気で、顧客獲得を考えた企業経営を追求する気力がない、という点に尽きる。
 従って、「1リーグ制」だろうが、「2リーグ制」だろうが、なにも変わらない。
 完全ウエーバー制を入れたところで、変化する筈がないのである。

 ・・・と見なすなら、たいした経営努力もせず、ファンが去っていってしまったチームが消えることは、経営学的視点からいえば、改革への一歩といえそうだ。

 しかし、次の一歩は前進とは限らない。
 下手をすると、タニマチの登場になりかねない。そうなると、ますます経営学的視点から遠ざかる。

 --- 参照 ---
(1) http://www.mainichi-msn.co.jp/sports/pro/news/20040707dde012050001000c.html


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