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2006.1.4
 
 


「姉歯偽装」で感じたこと…

 2005年12月は「姉歯偽装」で明け暮れた感じだった。

 驚きといえば、驚きだが、まだやっているという感じがした。
 もともと、「シャブコン」という用語が飛び交う業界だから、さもありなんである。(1)ただ、偽装のレベルが常識を超えていた。

 1980年代初めに、新型強化コンクリートの可能性を探るために、様々な人に会ったのを思い出してしまった。
 その時、一番驚いたのは、コンクリート強度検査の話。強度不足でもビルは建つのが業界の常識と聞かされたのである。

 なかには、ビジネス構造を徹底的に調べたり、あからさまな発言は慎むようにと、親身になってアドバイスしてくれた業界人もいた。
 要するに、単なる金儲けのための腐敗の次元ではなく、日本社会の構造に根ざす、様々な問題が絡み合っているのだ。

 とはいえ、こんな体質の割りに、実際お会いする技術屋さん達は、真面目な人が多かったので、時間はかかっても、次第に良い方向に進んでいくと思ってしまった。
 こうした考えは間違っているのだが、わかっていても、つい期待してしまうのである。

 思わず、New YorkTimes の1992年の10本に選ばれている映画、“ The Crying Game”を思い出してしまった。(2)
 映画ファンでもないのにたまたま知っているのは、Writer/director のNeil Jordanがアカデミー賞を受賞したからである。感覚的にいえば、ストーリーそのものが秀逸とか、話題性ある題材というより、主人公のIrish Republican Army の“volunteer”の人物描写が素晴らしいということだろう。愛すべき人柄だが、所詮テロリストはテロリストでしかなく、そこから離れられないのである。

 およそ建築設計偽造問題とは無関係な話だが、人間の性(さが)を感じさせる点では同じようなものだと思う。

 素人のつまらぬ映画談義は止めよう。

 そのかわり、演出家、八木光彦氏が「KAMATA行進曲」のパンフレットに記載した文章を引用しよう。(3)

ある所に一匹の蛙がいた。
その蛙が川を泳いでいると、川辺に一匹の蠍がやってきて、蛙に話し掛けた。
「向こう岸に渡りたいんだ。僕を乗せて連れて行ってくれないか?」
蛙は答えた。
「君を乗せたら、僕は君に刺し殺されてしまう。だからダメだよ。」
蠍は言った。
「ばかだなあ。君を刺したら僕も一緒におぼれてしまうじゃないか。」
「・・・」
その言葉を信じて、優しい蛙は蠍を向こう岸に連れて行く決心をした。
蛙は蠍を乗せ、ゆっくりと川を渡り始めた。
だんだん向こう岸が近づいて見えてきた。
その時、蛙は、突然背中に激痛を感じた。蠍が蛙の背中を刺したのだ。
薄れていく意識の中で、蠍に尋ねた。
「どうして僕をさしたの?」
蠍は言った。
「仕方がないんだよ、これが蠍のサガなんだ。」
二匹は静かに川の中へ消えていった・・・。
これは「クライングゲーム」という映画の中に出てくるエピソードです。
人には、自分の力ではどうしようも出来ないサガというものがあります。
そうなりたくないのに、そうしたくないのに逃れられない自分。
毒を刺すのが蠍のサガなら、蠍を乗せてしまうのも、蛙の悲しいサガだったのでしょうか。

 確か、これは、イソップ童話の蠍と蛙のお話である。

 伝承話にはブラックで恐ろしい題材が多いが、現実の方が余程恐ろしい。

 --- 参照 ---
(1) 「姉歯偽装」のGS藤沢、水分多いコンクリ使う?
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051223it01.htm?from=top
(2) 「View Trailer」リンク
  http://movies2.nytimes.com/gst/movies/movie.html?v_id=11705
(3) プロデュース集団(非劇団) 東京灼熱エンジンのウエブ
  「KAMATA行進曲」[1994年9/30〜10/2 銀座小劇場]
   http://www.page.sannet.ne.jp/shakunetsu/kiroku.htm


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