↑ トップ頁へ

2006.4.18
 
 


ラドンの謎…

 ここ数年、ラジウム温泉、あるいはその崩壊物名のラドン温泉、に急激に人気が集まっている。様々なところで、治療効果が喧伝されているからである。

 そこで、この人気にあやかる動きもでてきた。2005年に大ブレイクした岩盤浴は典型といえよう。遠赤外線効果ならわかるが、放射線効果まで謳う宣伝を時として見かけるようになった。マンションの一室に装置を入れるだけでもビジネスになるし、カルテル価格が通用する産業らしいから、雨後の筍状態になり、競争激化で、差別化のためならなんでもござれなのかもしれない。実態は、よくわからないが。

 それにしても、放射線の効果とは一体なんなのだろう。微量放射線を浴びると、体に良いとの理屈が理解しがたいのだが。
 一般に、放射線は確率的に変異を発生させることが知られている。微量なら、その確率は低いというだけのことである。
 ワクチンのように、弱毒物を投与すると免疫能力がつく訳ではない。従って、微量暴露が健康に寄与するとの説は理解しがたい。

 と言っても、放射線のリスクが解明されている訳でもない。
 確証といっても、明らかな被害のデータしかない。確実に被害を被る危険値と被爆ゼロの理論上のリスクフリー値を直線でつなぎ、内挿法で、放射線の影響を推定するしかないのが現実である。
 極めていい加減な推定ではある。
 しかし、だからといって、微量なら、放射線被爆が健康にプラスになるとの理屈は、常識を超える発想と言わざるを得まい。
 もっとも、こうした考えは、日本だけではなく、独/墺でも根強いようだ。

 米国にしても、昔は、ラドン効果を謳った商品があったらしい。しかし、その後、ラドンはガス性で肺に吸着することがわかり、しかも発癌リスクが高いと指摘されたため、見方は一変したのである。(1)
 今や、ラドンはハイリスク物質だ。これが、米国の常識である。
 “No serious scientist doubts that exposure to very high concentrations of radiation increases the risk of cancer. Additionally, there is evidence that radon is much more dangerous to smokers than to non-smokers. ”(2)

 そして、2005年1月、ついにラドンの危険性が表立って語られるようになった。(3)
 自動車排ガスと同じレベルで対処せざるを得ないという姿勢と見てよいだろう。

 なにせ、癌を減らそうと、喫煙問題に徹底的に取り組んでいる国である。発癌抑制を考えるなら、間違いなく、ラドンは重要因子となる。
 そのため、どの地域にラドンが多いかの全国地図がつくられた。(4)
 わざわざラドンを吸いに温泉に行くというムードの日本とは逆である。それどころか、住んでいる家のラドン濃度を計測して、許容できる状態か調べるべきと考えているようだ。(5)
 米国は、本気で、ラドン被爆対策を考えているのである。

 当然ながら、WHOも、昔から、この問題にとりくんでいる。1996年には報告書をまとめたし、International Radon Projectも立ち上げた。
 そして、ラドン濃度のグローバルなデータベース作成、ラドン被曝のリスク警告のガイドライン作成、疾病発生の推定、を進めているようだ。(6)

 これに対し、日本は逆行しているように見える。
 米国ならリスク限界を超えていると問題になりそうなものでも、黙認状態のようだ。おそらく、指摘しても、それは自己責任の問題と言うだけだろう。
 WHOプロジェクトは、ラドンのリスク警告を重視しているようだが、この精神とは正反対である。

 よくある話であるから、驚きではないが。

 しかし、普段は、放射線については驚くほど神経質な人達が静かにしているから不思議である。自然放射能レベルでも、原子力施設周辺で、数値が若干揺れるだけで大問題になるのだが。
 日々の生活を支えるエネルギー供給施設に対しては、嫌悪感をあらわにするのだが、ラドンには関心がないようである。

 言うまでもないが、ことを荒立てたくない人達も多い。こうした人達は沈黙を守り続ける。

 --- 参照 ---
(1) http://www.epa.gov/radiation/radionuclides/radon.htm
  http://www.epa.gov/radiation/radionuclides/radium.htm
(2) http://eande.lbl.gov/IEP/high-radon/FAQ.htm
(3) http://www.surgeongeneral.gov/pressreleases/sg01132005.html
(4) http://energy.cr.usgs.gov/radon/rnus.html
(5) http://www.stat.columbia.edu/~radon/
(6) http://www.who.int/ionizing_radiation/env/radon/en/index.html


 侏儒の言葉の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2006 RandDManagement.com