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2007.5.7
 
 


「やらせ」調査結果を眺めて…

 “やらせ”番組の話題でひとしきりわいた。

 コレ、報道番組や科学ドキュメンタリーではなく、エンターテイメント番組の話。
 小生は見たことがないから、どんな番組かよくわからないが、虚偽と演出が紙一重の“面白”番組というだけに映るのだが。
 ショッピング番組に対して、報道ドキュメンタリー番組同様なセンスを期待するのが無理なのと同じ理由で、この手の視聴率を狙った“面白”番組の内容が当てになる訳がないと思うが。
 なにせ、公共の電波で、長々と占い師のご託宣を取り上げてもかまわないのである。倫理感より、視聴率重視する方針は公認されているということ。
 そもそも、ストーリーに合わせ、都合の良い映像を切り張りして繋げるのがテレビの基本手法であり、そのまま信用する訳にはいくまい。
 どうも、そのような前提で視聴する人が少なくなっているようだ。これは危ない。

 思わず、1977年〜1985年に放送されたバラエティ番組「川口浩探検隊」を思い出してしまった。
 特にことわりは無いが、どう見たところでフィクションそのものの番組である。しかし、それを曖昧にして放送するのが、日本のテレビ業界の慣習である。“やらせ”など当たり前の世界だった。その姿勢を改めるとの発表も一度も聞いたことがない。
 このことは、視聴者もそれを知りながら楽しんだということと思っていたのだが。

 嘉門達夫氏の傑作「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」(1)のヒットが、それを物語っていると思う。

 ただ、そんな風土が製作現場の腐敗の温床になっているようだが。(2)

 エンターテイメント番組では、嘉門達夫氏のように笑いとばす、批判のキワドサとパワーを追求すべきだと思う。

 例えば、食品添加物名称満載のラベルを眺めて、「こんな訳のわからんもの仰山入ってて、メチャ安くて、コリャ凄いワ」と語るのがお笑いのセンス。真面目に考えている人には、不愉快な発言かも知れぬが、これが人間社会。おかしな事象に、一発ガツンと衝撃を与えるのがプロのエンターテナーだと思う。
 素人でも作れるような、勉強臭い番組などちっとも面白くなかろう。

 しかし、“やらせ”摘発活動は、放送業界をの番組製作費用の歪みを白日のもとに晒したという点では、大きな成果をあげたと言えよう。

 全国ネットワークの放送枠(日曜日21時)を持つキー局と、このネットワークに属する地方局の既得権益の凄まじさが知られてしまったということ。

 お蔭で、問題の本質が語られるようになった。
 例えば、NHKの記者だった池田信夫氏が、日経ビジネス オンライン 水野博泰副編集長によるインタビュー(3)にこたえて、放送業界の体質を言い切っている。
 「守ろうとしているのは、現場の著作者の権利ではなくて放送局の“搾取権”」と。

 それにしても、番組1本のVTR制作費用が860万円(4)なのだから、驚異的だ。演劇業界なら、不安定な雇用状況で、薄給でも喜んで働く人が大勢いておかしくないが、番組制作の現場も同じようなものだということは、俳優同様に上手くいくと膨大収入がありえる職業なのかも知れない。
 なにせ、スポンサーが支払っているのは、推定1億円である。(5)

 一体、なにに使われているのか、誰でも気になる。一寸、覗いてみよう。

 番組製作費は1時間もの1本で3,000万円程度と言われている。
 そして、概略の配布は、広告代理店の取り分が20%。その残り80%から、キー局が20%。その残り64%から、製作会社が20%ということらしい。(6)
 ここからスタジオ経費を抜いた残りが、孫受け企業のVTR制作費用ということになる。それが、“860万円”ということ。

 調査結果(3)を見ると、以下の状況。
  関西テレビの粗利益率は約3.7%。
  番組製作費は3,243万円。
   ・製作会社(テレワーク) 委託費: 3,162万円
   ・放送局のプロデューサー経費:  81万円

 製作会社(テレワーク)委託費委託費はだいたい次のような配分だ。
  ・出演料:23%
  ・VTR制作請負会社(テレワーク子会社アジト)委託費: 27%
  ・テレワークの粗利益: 19%
  ・従って、スタジオ経費: 31%

 なるほど。
 俳優が高収入なのがよくわかる。出演するのは5〜6名だろうが、一般的な出演者への報酬にしては高額だから、1名の有名人に回る額が500万円近いということだろう。視聴率稼ぎの鍵を握るのだから、ここが一番重要ということ。
 製作会社も自由になる多額のお金を抱えていることがよくわかる。プロデューサーへのキックバックがあってもおかしくない構造だ。(2)
 一番弱い立場が、VTR制作請負会社だ。
 製作会社が、それこそアイデア競争をさせて、良さそうな下請けを選んでいるのかと思ったら、なんと子会社。安価にするための仕組みに見える。なにせ、10年前に、13,766,000円支払われていたものが、8,878,000円にまで削られたのである。ところが、驚くことに、全体の予算は余り変わっていない。

 要するに、人集めの鍵を握る部分にはお金をかけるが、後は、できる限り安あがりに作れという方針に他ならない。新しいアイデアに期待する番組作りではないということ。

 しかも、大企業にもかかわらず、金払いの悪さは特筆もの。12月26日納品分が1月7日に放送される。月末締めの翌々月払いだから、委託料が支払われたのは3月10日。75日後である。もちろん違法行為。

 この数字だけ見ていると、キー局の収入は僅かに見える。
 しかし、番組製作費は3,243万円で、スポンサー支払いが約1億円なのである。つまり、過半は電波料に流れている訳だ。まさに巨大な金額である。
 これこそが、池田信夫氏が指摘する“搾取権”と言えよう。

 携帯電話と比較すれば、ほとんど無料に近い形で電波を使用しているのがテレビ。しかも、CSのように、狭い電波領域で多数の番組を流すのではなく、広い電波領域で少数の企業が独占する仕組み。そんな特典がありながら、この状態。
 全国ネットワークに所属するローカル局など、キー局の放送内容を流すだけだ。ほとんど何もしないで儲かる仕組み。黙っていても、自動的に、キー局からお金も流れてくるのだ。
 こんなことを何時まで続けるつもりなのだろう。

 言うまでもないが、政治家が絶対に手をつけようとしない既得権益分野である。

 --- 参照 ---
(1) [歌詞] http://music.yahoo.co.jp/shop/p/53/196942/Y003672
(2) 「テレ朝豪遊プロデューサーのあきれた横顔…接待漬け」 ZAKZAK(産経新聞グループ) [2006.9.29]
  http://www.zakzak.co.jp/gei/2006_09/g2006092912.html
(3) 「誰のためのデジタル放送か?(後編)」 日経ビジネス オンライン [2007.4.23]
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070423/123412/
(4) 「発掘!あるある大事典」調査委員会:『調査報告書』
  http://www.ktv.co.jp/aruaru/070323/chousahoukokusyo.pdf
(5) 全日本テレビ番組製作者連盟「これが捏造TV番組の現場だ」 文藝春秋 2007年4月号
(6) 碓井広義:「テレビの教科書―ビジネス構造から制作現場まで」 PHP新書 2003年


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