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2009.11.19
 
 


伝染病対策の質をあげるには…

伝染病対策がお粗末な原因は政治家にありそうだ。
 2009年11月6日の参院予算委員会で新旧厚労相が議論したというのだが、舛添前厚労相の質問内容には恐れ入った。
 “新型インフルエンザワクチンの容器を大きくして製造の手間を減らすことで出荷量を増やす方針について、安全性に懸念はないのかと追及した。”(1)
 大臣主導で、豚インフルエンザ罹患阻止する水際作戦と称して、空港で大騒ぎしたが、再び、耳目を集めたかったようだ。
  → 「厚労相人気がわからぬ 」 (2009年9月14日)

 旧厚労相の発言が圧巻。“大臣が頑張って、官僚にだまされないようにしないと”という。
 官僚主導とは、耳目を集めたいし、つまらぬ失敗話は隠蔽したい大臣に合わせて、都合のよい話をしているというだけのこと。旧厚労相のような体質が、官僚主導を生み出してきたのである。

 流行阻止より、阻止に総力を挙げて奮闘していることを見せることを最重要視せよと指示すれば、どうなるかわかるだろう。なんでもよいから、お金や人の大盤振る舞いだということになるのは当たり前。地味な政策や、中央政府が行ったように見えないものは、どうでもよいことになる。

課題整理ができる政治家を登用して欲しいものだ。
 素人からみれば、豚インフルエンザに関しては、大臣が、最初にすべきことはかなり前の段階ではっきりしていたと思うが、それがわからないのか、できないのか、実に不思議である。
 これが、政治を商売にする人達の宿命なのかも知れぬ。

 重要なのは、まず情報周知である。飛沫感染性で低毒性の伝染病と断言する必要があったのに、ついに一言も発しなかった。それなら強毒性として扱うのかと思えば、それも語らず。
 実に無責任な大臣に映ったが、マスコミ対策に力を入れていたから、逆のイメージを作ることに成功したようである。

 「飛沫感染性で低毒性」なら、すべきことは自明。ところが、呆れたことに、マスク不足に供えた対処策さえゼロ。シナリオを自分勝手に描いて自発的に動けない官僚システムなのだから、当然の結果。大臣による目的・課題の整理が行われていれば、こんなことにはならない。マスク備蓄が必要であるとの理屈がつくなる、官僚システムは動けるのだが、目的も曖昧で、課題もはっきり提示されなかれば、適当にやるしかない。

 この状況で伝染病対策を進めるのだから、成果は限定的である。

結核の場合、何が課題なのだろう。
 感染症ということで、歴史があり、成功裏に感染者を激減させてきた結核については、今、どうなっているか、見たくなった。
 そこで、審議会の資料を眺めてみた。「今後の結核医療のあり方について<論点>」(2)との表題であるが、なんだかさっぱりわらず。企業の感覚では理解不能。何を目的として、どう議論したいのか、どこからも読み取れないのである。
 だた、参考資料として「第13〜14回結核部会における議論の要約」が添付されており、厄介な問題があることだけはわかった。結核病棟の病床利用率は30%台だということがイの一番に書かれているからだ。しかも、注意点として、実稼動していないものが多いから、利用率と見るなというのだ。
 なんとなくわかったのは、それだけ。課題への落とし込みはどうなっているのか皆目見当もつかない。何を審議しているのだろうか。

   病床利用率30%台ということを初めて知ったが、まあ患者が減っているなら結構な話。1999年頃だったか、緊急事態宣言が発せられたことを思い出すからだ。
 気になったので、調べてみると、2008年の結核発症者数は24,760人。順調に減っているようだ。

 しかし、半分以上が65歳以上。
 う〜む。

 どうも、問題点(3)は、以下のようにまとめることができそうだ。
  ・高齢層患者が増える。
    老化で過去感染者が発症
  ・都市部の社会経済的に劣悪状況に陥っている層の罹患が増える。
    体力・栄養状態悪化
    診断機会喪失

 さあ、これでどんな対策がとられているかだ。
 実は調べなかった。審議会の資料を眺めて、そんなことをしても時間の無駄だと思ったからである。

 課題を整理しようとしない政治家が統治すれば、どうなるかは想像がつく。課題は、「高齢者対策と、都市の若年層対策を急げ」とされ、官僚は耳目を集める手を考えるだけのこと。要するに、効果のほどはわからぬモグラ叩きで終わる。

結核対策の課題設定がピント外れかも。
 どうして、こんなことが気になったか、ご説明しておこう。

 先ず、病気の特徴。
 年齢ベルの罹患率のデータを図示したが、ここから先ずわかるのは、成人すると罹患が発生すること。・・・無理をした生活を続けていたり、体力が弱い人だと、罹患するということ。おそらく、BCG接種しているだろうから、免疫効果はたいしたものではない。
 そして、世の中に、結核菌はそこらじゅうにいるということ。ただ、体力があり、栄養と休息を十分にとっていれば、滅多にかからないだけ。しかし、罹患に気付かず、ほったらかしにしていると、どうにもならなくなる。50歳代だと、患者の7%が死亡するそうだ。

 一方、老齢側は、全く違う。感染しても未発症とか、すでに治癒した人の再発。伝染して発病した訳ではない。高齢者は、死亡者数万人レベルの時代を生きてきたのだから、誰にでも発症のリスクはあると見てよいだろう。
 “私自身,かつてストレプトマイシンやヒドラジッドなどの新薬の恩恵に浴したものの一人です。”(4)というお言葉には驚かされたが、かつては身近な伝染病だったのである。

 さあ、これがわかったら、結核感染を減らすためになにをすべきか。
 素人の常識で考えれば、まずは「菌のバラ撒き」を抑える運動を進めることになる。咳き込む人がマスク一枚すれば済むことなのだから。
 だが、そのような課題設定はされていないないのは間違いない。そんな話を聞いたことがないからだ。

昔からの伝染病対策続行はピント外れでは。
 「菌のバラ撒き」を抑える方策を最優先するなら、もっと色々な動きがあってしかるべきと思う。知恵を絞ればいくらでもアイデアはでてくるだろう。

 実につまらぬ施策だが、それが重要なのではないか。
 昔のことだが、児童を持つ米国駐在員にインタビューしたことがある。海外派遣者が力を出せる環境作りのために、職場から家庭まで、こまったことを聞いただけなのだが、そこに突如結核の話が登場したのである。

 現地の学校に通う子供が咳きをしたため、学校側から、即刻医者に連れて行けと言われたというのである。その程度ならよいのだが、医者でツベルクリン反応陽性となり、結核感染の疑いとされ、えらく厄介だったという。
 これだけでおわかりだろう。米国では、児童にBCG注射などしないのである。にもかかわらず、米国の罹患率は比較にならぬほど低い。
 BCG接種でツベルクリン反応で感染確認もできなくなるのでマイナスという判断かも。接種しても、成人で発病するのなら、こちらの方が合理的といえそうだ。日本ではBCGを続けてしまったから、無縁な感染診断方法を使うしかないが、おそらくやるまい。

 コレ、実に、つまらぬ逸話だが、これだけで伝染病対策の本質的な違いがよくわかる。米国では、早期発見で保菌者による菌のバラ撒きを防止させようという仕組みが学校にまで根付いていることがよくわかる。
 そして、ここでわすれてならないのは、米国では、日本と違い老人の罹患率は低いという点。米国の老人は圧倒的に恵まれた環境にいるとは思えないが。

 ここから考えられるのは、社会風土の違い。
 日本では、どこへ行っても、必ず咳き込む老人に出会う。もちろんマスク着用など皆無に近い。おそらく、医者に行ったか尋ねる人もいまい。老人はそれが当たり前で済まされるのだ。
 児童、学生、サラリーマンにしても、発熱しても家で休まないことを誇る人も少なくない。
 モラル感が米国と全く違うことがおわかりだろう。
 開業医の狭い診察室に行けば、マスクもしない発熱患者と慢性病患者が向かい合っているのを目にすることもできる。誰も、それをなんとも思わないのである。

 日本の場合、こうした社会状況に合うような医療体制が続いてきた。それでも、社会の衛生状態は良いし、人々の栄養状態も悪くないため、大きな問題は発生してこなかったにすぎない。しかし、そうも言えなくなってきたのが、今、直面している豚インフルエンザ問題。
 これを期に、「菌のバラ撒き」抑制策を本格的に進めたらようさそうなものだが。

先ずは、大阪市で伝染病対策を打つべきでは。
結核死亡率 2008年
(人口10万対)
全国 1.8
大阪市 3.8
神戸市 2.5
都特別区 2.3
広島市 1.8
福岡市 1.3
新潟県
石川県
高知県
0.8
 間違ってはこまるが、それでは政治主導で「菌のバラ撒き」抑制策をはじめたら事態は変わるというものではない。中央政府には直接現場を動かす権限がなく、地方政府は状況に合わせて指示の範囲内で勝手に動くから、そう簡単に変われる訳ではない。中央政府が全国一律施策を打ったところで、その浸透度はバラバラ。これを見て、ご不満を感じない大臣はいない。それを避けるには、2つしかない。始めから地方でできることを決めておく「デキレース」か、権力を行使するとか飴を別途容易して指示通りに動かすとなる。これが「官僚主導」と見なされる。
 それならどうしたらよいかね。
 頭で考えるのではなく、現実に、どの機能を中央政府が担当するかを決めていくしかないのである。それを進めるのが「大臣」の役割だろう。

 こういうものこそ「特区」が向いている。例えば、罹患率も死亡率も圧倒的高い大阪市を指定して、国と地方が連携して動けば、何をすべきかすぐにわかるのではないか。
 (大阪市は50.6。冷涼な気候とはいえ、長野0.2の5倍。全国は19.4。)

 --- 参照 ---
(1) 「新旧厚労相、新型インフルエンザ対策で議論」 日本テレビ [2009年11月6日] [Videoあり]
   http://www.news24.jp/articles/2009/11/06/04147275.html
(2) 「今後の結核医療のあり方について<論点>」 第15回厚生科学審議会感染症分科会結核部会資料 [2009年9月10月29日]
   http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/10/dl/s1029-10e.pdf
(3) M. Ohmori 他: “Current epidemiological trend of tuberculosis in Japan”Int J Tuberc Lung Dis. 6(5) [2002年]
   [日本語要旨/図表] http://www.jata.or.jp/rit/rj/ohmoriekigaku.pdf
(4) 「天皇陛下のおことば 財団法人結核予防会創立70周年記念第60回結核予防全国大会 平成21年3月18日(水)」 宮内省
   http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/okotoba/okotoba-h21e.html#D0318
(結核罹患率 2008のデータ)
   「結核年報2008 Series 1. 結核発生動向速報」 結核 84(10) [2009年10月]
  http://jata.or.jp/rit/ekigaku/index.php?plugin=attach&refer=%E7%96%AB%E5
  %AD%A6%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%8B%E3
  %82%89%E3%81%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%2F%E7%B5%90%E6%A0%B8%E7%96%AB%E5%AD%A6
  %E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%AE%E8%A7%A3%E8%AA%AC&openfile=no1%E9%80%9F%E5%A0
  %B1%EF%BC%88%E5%8E%9F%E6%96%87%EF%BC%89.pdf
(結核死亡率2008年のデータ)
  http://jata.or.jp/rit/ekigaku/index.php?plugin=attach&refer=%E7%B5%90%E6
  %A0%B8%E3%81%AE%E7%B5%B1%E8%A8%88%2F%E5%B9%B4%E5%A0%B1&openfile=08%E7%B5
  %90%E6%A0%B8%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E7%8E%87.pdf
(結核予防会結核研究所の解説)
  大森正子: 「結核の統計2009を読む ーわが国の結核の現状と課題ー」
  http://jata.or.jp/rit/ekigaku/index.php?plugin=attach&refer=%E7%B5%90%E6
  %A0%B8%E3%81%AE%E7%B5%B1%E8%A8%88%2F%E5%B9%B4%E5%A0%B1&openfile=329p4.pdf


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