■■■ 多摩動物公園の見所 2013.6.18 ■■■

   チンパンジー

多摩動物公園のチンパンジーは顔写真入りで全メンバーが紹介されている。移動せずに、じっくり作業に集中していたりするから顔はよく見えるものの、個体識別は困難を極める。子供だけがなんとかわかる程度。頭数が余りに多く、ヒトの顔にしか慣れていないので、すぐに対応できないということか。昔、"白人"を一律的にしか識別できなかった時代があったことを想起させられる。
こんなことをつい考えてしまうのは、チンパンジーはヒトの一族であるから観客はその姿勢で臨むべしという思想が自分の頭に入っているということか。
なにせ、多摩動物公園のチンパンジーの観察から次のことが言えそうというのだから、確かにヒトそっくり。
  ・群れの「順位」は優位性だけで決まる訳でなく、
    協調性や新しいことに関心を持つことも影響するらしい。
  ・若いものは、好奇心旺盛で、仲間との交流に前向き。
    誠実で協調的態度で接するようだ。
  ・高年齢化すると、不安感が生まれる傾向がありそう。

ただ、小生は、直観的にオラウータンの方が互いの情緒理解という点ではヒトにより近いと見ている。そんなこともあり、チンパンジーをヒト類似動物とは見なくなった。

そもそも、人類の特徴のほんの一部だけピックアップして、それとの類似点をあげつらったところで、たいした意味はなかろう。それに合わせたストーリーを聞かせてもらえば、ソリャ面白いが、冷静に考えればそんなものは仮説にもなっていないのでは。どう考えても、チンパンジーとヒトとの間には余りにも深い溝がある。とても一族と呼べたものではなかろう。外見的にも、ヒトは裸の二足歩行者であり、その特性と表裏一体と思われる概念把握可能な動物。これがどうでもよい特性というなら別だが、そうでないなら、チンパンジーは異種と見なすしかなかろう。爬虫類と鳥類の差より大きいのに、同類というのはどう考えても恣意的な分類だと思うが。

従って、動物園に来て、チンパンジーってヒトと良く似ているネ、とか、赤ん坊はヒトより聡明ソウといった手の感想しか持てないのなら、小生は、動物芸を見せてくれる施設をお勧めしたい。ヒトの幼児より圧倒的に賢いし、子供のような感情表現を見せてくれるから、大いに楽しめる筈だし。もっとも、ヒトによってはこうした扱い方を虐待と呼ぶらしい。世の中、ドグマ論がはびこっているのである。確かに、何時も10頭を越えるレベルの群れのなかで生活できる多摩動物公園のような扱いと比較するなら当たってもいよう。しかし、数頭飼育が普通であり、群れの動物にとっては、ヒトによる"教育"や、大勢の観客に見せる"プリゼンテーション"があった方が生活は楽しいのではなかろうか。体罰で教え込んでいる訳ではないし、ご褒美で無理なことをさせているとも思えないからだ。それが体質に合わない個体は別だが、一日中ボケーとするしかない状況より、飼育員との濃密な交流時間を持てる方が余程ましだろう。周りと交流することこそが、群れの動物の本来の姿だと思うからである。

そうは言っても、チンパンジーを見れば、どうしてもヒトの行動と比較してしまう。従って、ある程度の知識をつけてから、チンパンジーの群れを眺めに行くことをお勧めしたい。自分が持っている、チンパンジーの概念がどんなものか、一寸だけ、振り返っておこうというだけのことでそれ以上ではないが。

もっとも、ご興味がある方は少し時間をかけると色々とわかってくる。ヒトと大型類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オラウータン)の情報を網羅的に集積し、ヒトの特異性を明らかにしようという目論見が進んでいるからだ。(項目は文末参照)

日本ではこの手の動きは滅多に見かけないから、その点でも眺めておく価値があるかも。類人猿の領域は例外らしいが、一般的には蛸壺に棲み続けたい人が多いらしく、多方面の知恵を集める体制構築は困難を極めるようだ。そんな土壌を変えようと働きかけるヒトもいるようだが、必ずしもプラスに働くともいえないのも悩ましいところ。体制を真似しても、単に集まるだけの水膨れ組織しかできず、皆、さっぱり仕事にのらないのでそのうち霧散することになるのである。
そうなってしまうのは、間違った意義付けで進めてしまうせいもありそう。こうした網羅的な検討自体から、直接的に素晴らしい成果が生まれるような宣伝が打ち出されたするからだ。誰が考えたところで、個々の分野でみれば、分析が少しづつ進んでいるだけ。異分野と交流することに時間を割く訳であり、そのことによって作業が効率的になる訳はないし、刺激を受けることですぐに斬新な解答が生まれる訳がない。そんなことができる位なら、とうの昔にやり始めている筈である。
重要なのは、全体を俯瞰的に眺めるようになるという点。それが習い性になると、そうこうするうちに画期的な見方を提起する人が現れるというだけのこと。つまり、素晴らしい成果を生み出す「場」が提供されているにすぎない。

余計なことをつらつら書いてしまったが、チンパンジーを眺めると、どうしてもヒトとの分岐話が頭に浮かんでしまうので、こんな話をしたくなる。類似点や相違点の指摘はそれなりに面白いが、結局のところ、なにが分岐の鍵なのかさっぱりわからぬからだ。他の動物でも、ヒトと似ている点などいくらでもあるし。・・・
誰でも知っている類似動物としては、
  ・聡明度なら、イルカ。チンパンより上手に映る。
  ・協力分担作業なら、ブチハイエナ。
  ・好奇心なら、家畜のウシ。餌とは無関係。
  ・おしゃべりなら、オオム。言葉が理解できるかも。
  ・ヒトの意向を察する力なら、飼いイヌ。
  ・腹を撫でられ嬉しがるなら、ブタ。
多摩動物公園の動物を見ていて感じさせられたりもする。
  ・群れのコミュニケーションなら、オオカミ。
  ・遊びなら、ユキヒョウ。
  ・幼児教育なら、チーター。
  ・ベタ足歩きなら、レッサーパンダ。
  ・腹出しゴロ寝なら、アカカンガルー。

それより、チンパンジーは何故に泳げないのか。泳ごうともしないのか。
運動場と観客の道路との境は、狭い幅の堀。この程度で、どうして逃亡できないのか理解し難いものがある。ヒトだって、教わらねば溺れる訳で、必要だと思うから練習してスキルを身につける。食いモノ関係のスキルは磨くにもかかわらず、水泳に興味が無い理由ってなんなのかネ。
そこら辺りこそが、分岐の背景を知るための糸口のような気もするのだが。

【参考1】 「動物園におけるチンパンジーの性格評定および遺伝子型との関連解析」 http://www.saga-jp.org/journal/3/IJEEe00021.pdf
【参考2】 The Matrix of Comparative Anthropogeny, CARTA[the Center for Academic Research and Training in Anthropogeny] --- ・Anatomy and Biomechanics, ・Behavior, ・Cell Biology and Biochemistry, ・Cognition
 ・Communication, ・Culture, ・Dental Biology and Disease, ・Development, ・Ecology
 ・Endocrinology, ・General Life History, ・Genetics, ・Genomics, ・Immunology, ・Medical Disease
 ・Mental Disease, ・Neuroscience, ・Nutrition, ・Organ Physiology, ・Pathology
 ・Pharmacology, ・Reproductive Biology and Disease, ・Skin Biology and Disease, ・Social Organization


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