■■■■■ 2010.11.10 ■■■■■

 米国中間選挙後の報道を眺めて

 米国中間選挙結果はメディアの予想通り。解説も一巡したようなので、まとめてみたくなった。

【概観】
・民主党と共和党の二大政党政治の仕組みは揺らがなかった。
   -脱二大政党的な政治運動(TP)が浮上したが、結局のところ共和党に合流した。
   -両党のコア支持層の数はほとんど互角である。
   -無党派層の支持如何で勝負がつく状況が出来上がっている。
・両党ともに、伝統的基軸での対立を避けた。・・・今後、組織変質の可能性がある。
   -道徳観や倫理観で支持基盤を固める状況にはなかったようである。
   -民主党は、もともと多岐の勢力からなるので、統合の基軸が見えなり、弱体化必至かも。
    (Nancy Pelociの下、当選した筋金入りのリベラル議員達が牛耳ったりして。)
   -共和党は、異質な勢力を取り込んだので、指導層が入れ替わるかも。
    (小生のイメージとしては、小さな政府派Newt Gingrich復権といったところ。)
・溜まっていた政治へのフラストレーションが野党支持に結びついた。
   -雇用低迷の長期化と住宅価格低落でのアメリカン・ドリーム喪失感
   -巨大財政支出にもかかわらず一向に回復してこない経済状況に対する苛立ち
   -海外派兵の泥沼化予感とテロリスト暗躍ムードで国家の威信崩壊
   -世界の政治場面で大統領のリーダーシップ発揮の少なさへの幻滅

【今回の選挙戦で特徴的な点】
・国の進路を巡る議論にはならなかった。
   -争点とすべき最重要施策をはっきりさせることができずに終わった。
   -国の弱体化を止めるための方向付けの議論は低調だった。
・イラン/アフガニスタン問題の議論を避けた。
   -民主党は、イラク撤退・アフガン増派の政策評価を嫌った。
   -共和党は、嫌悪されるブッシュ政治イメージ払拭を狙い、ただただ沈黙。
・納得性の高い財政政策を打ち出せなかった。
   -巨大な政府支出による経済刺激と財政赤字削減が両立する訳がない。
   -目立ったのはTPの単純な主張だけ。・・・小さな政府、減税、財政赤字削減

【民主党大敗・共和党躍進の理由】
・景気が上向かない理由はオバマ政権の失政との主張が幅を利かせた。
   -金融・医療分野での法案成立を最優先した姿勢への不満
    (雇用改善に注力しなかったと受け取られた。)
   -環境分野への傾注がさっぱり経済好転に繋がらない不快感
    (オバマ型ニューディールが雇用改善に繋がらないことが見えてしまった。)
   -新基軸の経済政策立案能力に疑問符
    (ブッシュ型経済政策維持政権と見なされた。)
・最重要施策が大不評に終わり、税金無駄遣い政権の印象が広まった。
   -金融機関救済が業界へのバラマキ施策に映り不公平感への怒りが蔓延
   -住宅ローン焦付き対応もそれに拍車
   -医療保険制度改革が社会主義施策に映り不快感急拡大
・政策不評を有権者の理解不十分と考えていそうな大統領の姿勢が反撥を呼んだ。
   -“米国人”を理解できない大統領との見方が発生
   -改革に踏み込めなかった内容でしかないのに、それを絶賛することへの苛立ち
   -薔薇色の未来を描けず、有権者を批判する政治家に突きつけられるのは不信任
・大統領選挙での理想論的主張とかけ離れた政治姿勢を示したので、期待が一気に萎んだ。
   -議会対策の、妥協と調整の現実政治を見ての幻滅感
   -分裂から統合の筈が、議会での対立激化を招いていることへの違和感
   -大統領選挙運動母体の意向を無視(支援組織霧消)
   -反共和党というだけで支持していた層の政治無関心化
   -外交演説は口だけとの印象が強く、大統領への信頼感低下

 さあ、それで今後はどうなるの。・・・ こちらの見方はバラバラ。

 それはそうだろう。議会は、下に示す数々の二者択一問題に直面することになるからだ。
 ここで、大統領と対立でもすれば、不況克服ができないのは議会のせいとキャンペーンを打たれること必定。そうなると、次回の選挙では悲惨な目にあいかねない。
 一方、大統領と妥協し、それぞれ是々非々にと言っても、それができるとも思えない。バーター取引で互いに成果をもたらすような形での決着が難しい問題だらけだから。
 それに、財政赤字の削減をいくら超党派で検討しても、オバマ政権が給付金削減を呑むことなどあり得まい。と言って、増税など不可能だから、早晩、社会保障・年金・医療保険の財源が枯渇してくる。そして、連邦政府・州の債権消化が滞った瞬間、市場が荒れ始める。その対処は次期大統領へと委ねられるというシナリオしか描けまい。
 まあ、当面、党派を超えて一致して動けそうなことは、輸出拡大位か。先ずは、手っ取り早い航空機や兵器の拡販からだが、FRBと組んで、新興国への投資バブルも輸出するつもりのようだ。日本病罹患はこまるから、早いとこインフレ化しようという訳だ。その次は何を仕掛けてくるか。
 知事選も惨敗したから、政策をまともに実行できない状況に陥っており、大統領選挙勝利のためにはナンデモありの政治状況になってしまったから、実に厄介極まる。
【議会が抱える二者択一問題】
   実質増税・・・ブッシュ減税を失効させるか。
   財政赤字・・・近づいてきた財政赤字上限突破を容認するか。
   兵器削減・・・STARTを批准するか。
   自由貿易・・・韓国・中南米との自由貿易協定を批准するか。
   移民地位・・・不法移民に対して、地位保全と強制送還のどちらで臨むか。
   医療保険・・・関連予算措置を進めるか。(巻き戻し→大統領の拒否権行使の道もある。)

 しかし、ここまで内政がもつれると、対外政策だけ勝手し放題という訳にもいかなくなる。それをわかっている欧州と中国が、G20で米国のインフレ輸出にどのような姿勢で臨むか見もの。その前に、30年債が市場ですんなりと消化できるのかも気になるところ。

 オバマ大統領の失敗が分り易く解説されているコラムから一節を引用して〆としよう。
 “The president's willingness to ask for too little was, it turns out, a huge strategic error.”
   Martin Wolf: “Why US voters are suing Dr Obama” Financial Times [October 26 2010]
 ・・・これこそが、惨敗の本質と言えないこともない。

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