■■■■■ 2010.11.12 ■■■■■

 書評: 「つぶやきカフェ」

 “書評: 「つぶやきカフェ」”と書くと、女性タレントのツイート集の話と思う方もおられるかも知れないが、そんなことがありえないのはおわかりだろう。本サイトはブログではないし、ツイッターや掲示板の類とも無縁なのだから。

 それはともかく、タイトルでおわかりのようにお洒落っぽい本である。もちろん装丁の話。・・・淡い駱駝色の硬くて厚い四六判の表紙に、鳶色の線画で、座布団上で心地よく睡眠中の猫が描かれているのだ。著者は猫デアルということかな。
 およそ物理学者の本とは思えないが、それも当然。著者のインタビューをもとに編者が作文し、イラストレーターが挿絵を加えたもの。秀逸なチームプレーと言えよう。
 見開きで、簡単な一言を右ページに、短い解説と素敵な絵を左ページに配し、十分すぎるほど余白をとった、いわば大人の絵本なのである。

 なかなか素敵である。ただ、帯は別だが。こちらは、色、イラスト、文章すべてが不調和。ただ、これは外して捨ててしまえばよい。もっとも読後売りたい人は大事に保管しておく必要があるが。
 小生は大いに気に入った。「頭にガツンと一撃」はイノベーションに繋がる創造力強化のポイント指摘で、日本人にはどうも今一歩感があるようだが、こちらは体験談を気楽にまとめた体裁だし、ことさら創造力云々でもないからあっさりしており、日本人好みかも。

 小生がご紹介したところでどうということもないが、読後感・・・。
 先ず、まさに同感の一言あり。
     “緊張感と、とことん向き合う。”

 その通りだ。これこそ創造性の根源。日本の若い物理学者はどうなっているのか気にかかるところである。
 これを欠くと団栗の背比べに陥る。実につまらぬ競争である。しかも、それを緊張感と誤解する人まででてくる。そんなものは、負けるとプライドが許せぬとか、職を失いかねないということで、単なる不安感にすぎない。緊張感とは全くことなるもの。

 そうそう、嫌な仕事はやめろ、ピンとくるものがあったら一歩進め的な言葉も至言。
 つまらないと思って仕事をすれば、チャンスが到来しても気付かない。これこそ願っていたチャンスと気付いても、ボーとしていれば何もおきない。その通りだが、それができない人だらけ。
 失敗しても嬉しいと語れる人が増えないとなかなかそうはならないということでもある。言うまでもないが、失敗が肥やしになるのはそういう発想の人だけ。
 なんかよさげというだけでとりあえず手を出し、人真似事業で失敗する例はいくらでもあるが、ここから教訓が得られる訳がないし、人が育つことも考えにくい。こういう失敗者に何回でも挑戦させろという主張が幅を利かすのが日本の一大特徴。
 益川流の言葉がそういう人達に届けばよいのだが。

 イマジネーションとストーリー作りの重要性の指摘も嬉しいパートである。
 バランスのとれた仕事ができると、効率よく成果が上がる訳だが、それに満足するのは危険という話と切れているからわかりづらいが、大きな成果をだしたいなら、それに合うこうした思考方法は不可欠である。成果を出すために、そこから離れてしまえばアウト。

 益川博士のつぶやきが効いて欲しいものだ。
     益川敏英: 「益川博士の つぶやきカフェ」 三省堂 [2010年9月20日]

 こうした企画が電子書籍だったらもっとよかったと、ふと思ったりして。もっともリーダー機器が揃っていないが。

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