■■■■■ 2010.11.23 ■■■■■

 鳩山前首相の発言から見た民主党没落の原因

 2010年参院選の“幻のマニフェスト”が公開されたという。表紙は“走る鳩山首相”。冒頭に「私の未熟さゆえ、皆さんを失望させてしまったことも事実」と記載されているそうで、政治とカネ、普天間のお詫びになっているとか。
 東大での学園祭でも講演したそうだ。曰く、・・・
   ・菅首相のスローガン「最小不幸社会の実現」はイメージが暗い。
   ・菅内閣が何をしたいのか。自分のやりたいことをもっと堂々と言えばいい。
   ・普天間交渉で日米関係は損なわれてはいない。

 その通りと言えなくもないが、こうした問題意識に一番の問題があるのでは。

■イメージの問題ではなかろう。■
政党支持をイメージの良さで繋ぎとめるのは無理だと思うが。中味でなく、イメージで勝負する組織文化を作り上げてしまったのでなければよいが。
   ・総理大臣になることしか考えていない政治屋に、バトンを託してよかったのかね。
    (お化粧がはげれば、今まで良かったイメージが逆に受け取られたりするもの。)
   ・自分は素人と正直に告白する“好”人物を、こともあろうに法相に指名とは。

■「最小不幸社会の実現」も「友愛」も五十歩百歩。■
菅首相の、なにをするのか皆目わからぬ状況に比べれば、「友愛」政治実現のために、首相就任という姿勢は圧倒的に優れている。しかし、それは政治家なら当たり前の話。
しかしね、「友愛」ではなんのことやらさっぱりわかるまい。「最小不幸社会の実現」とは、それを菅流に言い換えただけでは。お蔭で、スローガンの質はさらに低下したが。
   ・弱者救済にカネを回すイメージが浮かんでしまう。
   ・過半の人にとって、自分の生活に直接係わってくる話に聞こえない。
   ・本当にこまって苦闘している人にとって、「幸福」云々の表現は不快だと思うが。

■選挙で効いたスローガンは「友愛」ではないぜ。■
「友愛」にご執心なのはわからないでもないが、山を動かしたスローガンは「政権交代」。そのスローガンが抱えていたイメージを理解しておくべきでは。ここから外れれば、支持を失うのは当たり前。イメージ重視なら、それぐらいわかるだろう。
   ・利権政治/既得権益擁護からの脱却
   ・情報隠蔽/屁理屈がまかり通る不透明な政治の終焉
(ただ、「脱コンクリート」とのイメージ戦略は奏功した。上記に合うからだ。たとえ公共事業を全て止めたところで財政健全化には焼け石に水だが。)

■“政治とカネ”問題を一般的な清廉化要求と見るべきではなかろう。■
何故、カネで嫌われるか勘違いしてはいまいか。「政権交代」させたかった理由を考えてみたらわかる筈。鳩山-小沢路線は旧来の自民党型政治復活にしか映らなかったということ。以下の期待に応えているか考えたらどうか。
   ・「政権交代」で、カネに縛られた族議員/派閥による密室政治を打破
   ・「政権交代」で、裏金スキャンダルだらけの政治に終止符

■菅内閣が「政権交代」の期待を消し去ってしまったが。■
ついでながら、菅内閣も「政権交代」で期待されている点を全く理解していないようだ。尖閣ビデオ非公開と法相放言是認は最悪。密室政治愛好者と見られてまえば、なんだなにも変わらないとなる。

■普天間対処は“未熟”というより、“無謀”に近い。■
東アジアの状況についての認識が間違ってはいまいか。
   ・米中間は、政府もビジネス・金融 も、日中関係より余程緊密である。
     (定期的で密度が濃い頻繁な会合が開催されている。)
   ・日本政府は安全保障問題を主導して議論できる立場にはない。
     (軍隊が無いからである。)
   ・米軍にとって、沖縄の基地は東アジアの要石である。
     (亜熱帯気候下での軍事演習地は他にない。)
   ・米国が台湾条項を遵守する限り嘉手納空軍/普天間海兵隊基地は不可欠である。
     (制空権とヘリコプターによる兵員緊急輸送体制は崩せまい。)

■“未熟”なのは、普天間対処でなく、日米同盟構築の方である。■
日米同盟の信頼関係構築の第一歩は、米軍の展開方針の理解では。その上で、米国首脳の暗黙の了解のもと、“長期的にはアジアが安定し、日本から米軍には撤退してもらう”といった“お話”を国内でガンガンするといったやり方が政治家のすることではないのか。未来を示しても、現状は我慢しかないと説得するのが仕事だと思うが。
だいたい、中国とガチンコするなど馬鹿げていると思わないのか。一歩間違えれば、武力衝突もありうるのだぜ。そんなことは米国にまかせるべきだ。当たり前だが、そんなことを米国に頼める訳がない。それならどうしたらよいか考え抜くしかない。それこそが“成熟した”政治家の仕事ではないのかね。
企業が中国内での事業にリスクを感じるようなら、中国とFTAを締結している国との友好関係を強める施策とか、台湾や韓国企業を使って中国市場に入れるように基盤整備を図り、その枠組みを米国の安全保障体制で安定させるのが政治の役割だと思うが。戦略的互助関係とか、深い友好とか、言葉などどうでもよい。“政治主導”というのだから、具体的にどうするつもりか提示してもらいたいものだ。

■課題が曖昧なスローガンは危険だというセンスが欠けているのではないか。■
外野からは、「友愛」の中味が曖昧だから、鳩山政権が頓挫したように映るのだが。
   ・「友愛」の精神なら、基地に悩まされている沖縄の人を助けることは最優先課題の筈。
    (国家の安全保障より、被害者を優先する政治に変えたいということか。)
   ・「友愛」の精神で約束したのだから、不人気でも、なにがなんでも現金を配らねば。
    (破綻している財政など気にせず、ともかく「友愛」の約束は果たさねばか。)

■重要課題とスローガンの整合性がとれないと、さらに悲惨。■
例えば、喧伝していた「友愛」と菅首相の消費税増税話がどうつながるのかな。「友愛」でなく、「最小不幸社会の実現」あるいは「雇用」でもかまわない。この説明ができないから、無定見な政治屋と見なされる訳である。菅首相は、“やりたいことをもっと堂々と言え”と言われても、スローガンと整合性がとれないから、だらだら課題を並べるしかできまい。全体構図が描けないのである。
   ・TPPは「最小不幸社会の実現」にどう繋がるのかね。
   ・消費税増税は「最小不幸社会の実現」にどう繋がるのかね。

■課題を明確にして、一気呵成に実現できない限り変化は生まれないのが普通。■
鳩山政権の失敗は、実現できそうもない課題に注力したから。小生は、「友愛」精神で、“再配分の仕方を大胆に変える”と宣言でもするのかと思った。それだけはなんとしても実現すると言い張れば変化は生まれたかも。例えば、・・・。
   ・自民党税調方式は既得権益層固定化になるので、これを解体する。
   ・透明で公平な仕組みにするが、苦しくなる人も出る。我慢して欲しい。
   ・企業の競争力が落ちないように、全負担額での軽減を図る。
当たり前だが、財政再建路線を始め易いように設計しておくということ。
そして、農家収入保証制度を導入し、TPPで、貿易障壁撤廃することこそ、「友愛」精神の極地とでも言い出すのかと思いきや、全く逆のようである。

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