■■■■■ 2011.3.31 ■■■■■

 原発最悪事態報道の読み方

 原発の状況は日本の報道を読んでもさっぱりわからないが、東電によれば一応安定したらしい。制御室通電映像を流したところからみて、モニター機器が正常に稼動しているようだから、なんとかコントロールできるということなのだろう。ともあれ、深刻なプルトニウム汚染には至っていないから、当面の危機を脱したのは間違いなさそうである。
 ただ、スピード感がこの調子でよいのかは大いなる疑問だが。

 と言うことで、報道や解説の類をどう読むかという視点で、この問題を整理しておこう。

 はっきり見えたのは、報道の二極化。しかも二種類ある。

 一つは、国内。ただ、これは始めから予想できた話。
 もともと、絶対安全主義の衣なくしては原発を作れない状況だから、その習慣が簡単に抜ける訳がない。なにせ、即時廃止の危険一辺倒派に対処する必要があるから、議論を呼びかねない開示情報を抑えるしかない。そうなれば、危険派は些細な点をついて欠点をあげつらう。ともかく原発推進を妨げればよいのだから、議論にはならない。ところが、いざ、放射能汚染が始まってしまえば、どのレベルまで許容すべきかは、危険派には語れなくなる。実に不毛。
 日本には、この両者の中間に位置する実践主義者がいないのである。対立が極端なため、実践主義者は両者から敵視され消滅したからだ。この状態に慣らされてしまったから、日本のマスコミ報道の大半は、こういう事態になるとさっぱり役に立たない。NHKの科学記者の発言の質の低さはこの反映にすぎない。

 もう一つは、欧米と日本の報道の余りの違い。
 日本から見れば、欧米ではいかにもセンセーショナルなものばかりに映ったと思う。今にも、炉心溶融で大爆発が発生し、放射能物質が世界中を漂うと言わんばかりのものも。ともあれ、最悪事態を示唆するようなものが主流である。なかには間違ったデータと思われるものもあったりするので、日本から見ればパニック誘導型報道に映ろう。
 これに対して日本の識者は、そこまで考える必要はなく、ともかくパニックだけは避けるべしというものが多かった。注意して読めばわかるが、それはチェルノブイリからの推論でしかない。当面、都会で大騒ぎするような事態に至ってはいないという論旨以上ではない。
 両者は水と油。
 どうしてこうなるかと言えば、ジャーナリストの使命感が全く違うからだろう。
 海外メディアは、言葉にこそ出さないが、日本政府を信用していないということである。何故そうなったかは自明:
  (事実) 津波罹災状況の原発施設写真がありながら、その情報を一切流さなかった。
    ---(常識的解釈) 日本政府もメディアも、大事故に見せないよう、情報管理を始めた。
    ---(海外の姿勢) 独自に衛星写真で事実を報道。
  (事実) 緊急冷却装置が不全なら、爆発可能性は高いが、直前まで何も触れず。
    ---(常識的解釈) 日本政府は、最悪事態が予測されても、それを伝えることはない。
    ---(海外の姿勢) 最悪の事態があり得ることを人々に教える必要がある。
  (事実) 特殊冷却剤か海水注入しかないのに、爆発まで対処しなかった。
    ---(常識的解釈) 後手、後手の、対処療法で対応していく方針である。
    ---(海外の姿勢) 最悪事態に陥る可能性大なので、その見方を採用するしかない。
  (事実) スリーマイル島事故以下のレベルか同等と見なし続けた。
    ---(常識的解釈) 事故の深刻さを炉心溶融のレベルでしか見ていない。
    ---(海外の姿勢) 放射能物質の大規模飛散の警告を発すべし。
  (事実) 発表されている放射線計測データの観測場所や時間がバラバラである。
    ---(常識的解釈) 経時変化がわからないように発表の仕方を工夫した。
    ---(海外の姿勢) 放射能物質がすでに大量に飛散した可能性大と見るべし。
  (事実) 爆発後の風向きシュミレーション結果は開示しようとしなかった。
    ---(常識的解釈) 政府は、汚染実態の隠蔽方針を採用した。
    ---(海外の姿勢) いち早く独自のシュミレーションを提供した。
  (事実) 首相、監督専門組織、事業者の発言内容が一致していない。
    ---(常識的解釈) 日本政府は、情報把握さえできていないし、その問題意識もない。
    ---(海外の姿勢) まともな事態対応は期待できない。悪化一途の可能性あり。

 これ以外にもありそうだが、この位でよかろう。これを見たら、欧米メディアがどう動きそうかはわかりきったこと。
 早い話、欧米メディアは、チェルノブイリ以上になる可能性ありと言いたいだけ。もちろん、それは当座の死者数ではなく、放射能汚染の程度での話。
 これに対して、日本の識者はそこまで行くことはないと主張していることになる。現段階では、一見、妥当に見えるが、それは勝手な理屈である。
 簡単な質問をすればわかる筈である。---「冷却が一切できなくなったら、チェルノブイリ以上の被害が発生するのでは?」
 答は、Yes か、No の二択。これにNo と断言できるかな。それだけのこと。

 欧米の悲観的報道の元はココにあると言ってよかろう。はっきりしていることを並べればわかる。
  ・無防備な使用済燃料が暴露状態にあるのは確実である。
  ・使用済燃料とそのプールに部分的破壊が生じていると見てよかろう。
  ・従って、放射能物質の放出が続く。
  ・圧力容器の所定の弁以外から漏れが発生している。
  ・炉心の燃料棒被覆がかなり剥がれてしまった炉がある。
  ・冷却不能になれば、水蒸気爆発が発生し、汚染が深まる。
  ・MOX燃料(プルトニウム)が飛散すると大被害をもたらす。
  ・燃料の総量は膨大である。
  ・海水を注入したら、そのうちセンサー類が効かなくなると見るべき。

 おわかりになると思うが、現場一帯に放射性物質が高濃度に溜まってしまうと、ヒトは近寄ることができず、作業不能となる。ロボットにしても、放射線が強力だと、特別仕様でないと、半導体が放射線で誤作動しかねなず使えない。つまり、最悪の場合、冷却作業どころか、炉の管理まで一切不可能になりかねないのである。
 問題はココ。こんなことは最初から自明。

 直面しているのは、これから少なくとも半年間冷却を継続できるかである。---それが難しくなるリスクはゼロと言えない。そうなれば、最悪の事態はありえる。しかも、余りに膨大な量だ。一時に大量に放出されると予想より遠距離まで汚染が広がるかも。

 なかでも、3号炉のMOX燃料制御のリスクが高そうだ。だが、東電が余り心配していないところを見ると、使用済みにはMOXは入っていないのだろう。炉心使用量も数%なのでは。その場合は、冷却さえ進めば、安定すると見るのが自然であろう。ただ、MOX使用情報がメディアではさっぱり報道されないからなんとも言い難し。
 欧州の報道は、MOXリッチを前提としているように見受けられる。当然ながら、最悪の場合、プルトニウムがそこらじゅうに飛散するイメージ。(尚、MOXペレットの挙動データはフランス企業が抱えていそうであり、実際どうなるかわかる人は限られているのではないか。)

 次は、2号炉。過半の燃料棒で被覆が失われていると見る人が多いから、汚染冷却水の処理に往生するのは間違いない。安定度も判断しかねる筈で、コントロールは難しかろう。炉心発生物質が管理領域外で発見されているが、この炉から出た可能性が高い。もし、シールが溶けたことを意味しているなら、この先漏れが収まることは期待薄。そんないい加減な推定もありえるのが一番怖い。もし漏洩箇所の推測を間違ってしまえば、大事になるからだ。この炉はもう一つ問題を抱えている。モニター類が動いているうちはよいが、海水注入の影響で不全になる可能性は否定できない。なにせ、炉全体が相当なダメージを受けている状況なのだから。

 米国から見れば、1号炉も危険施設に映りそう。当初設定した寿命を超えている古い施設だからだ。疲労破壊という意味ではなく、設計上の欠点が残っている可能性が高いからである。それが裏目に出かねないと見ている人は少なくなかろう。余りに昔の設計であり、当時の設計を理解して対応できる人も限られていそうで、間違った判断をしかねない恐れがあるということ。まあ、米国企業文化で考えればそうなるというだけのこと。

 ともあれ、事態は未だに深刻であるのは間違いない。命をかけた作業のお陰で、悪化が大きく進んでいないと見るべきだろう。

 と言っても、後手後手で進んでいるように映る。これで大丈夫かはデータが開示されていないからよくわからない。
 なかでも厄介なのは、大気汚染拡大を阻止するか否かの決定が未だに行われていない点だ。拡大を阻止するなら、汚染塵の雲を拡散させない作業を始めざるを得ないが、それは原発地域の地表汚染度を高めることになる。冷却作業の困難性を増すことにつながりかねず、長期的にはマイナスかも知れない。
 誰かが判断を下すしかないのである。


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