■■■■■ 2011.4.23 ■■■■■

 自動車産業が気になる。

 「日本の自動車産業はイノベーション創出ができるか。」

 これが、日本の自動車産業につきつけられた課題では。大災害でズタズタになったサウライチェーン再興を急がなければならないが、崩壊した工場をただ再建するだけで済む問題ではなさそうである。
 「すりあわせ」の妙味で圧倒的な競争力を持つことができるとの、曖昧な主張にのって競争力を落とし続けている他産業の企業を反面教師として、どのようなサプライチェーンを作っていくべきか考え抜く必要がありそうである。

 と言うのは、崩壊した部品工場が抱えてきた地域のミニコンプレックスの再興は簡単な話ではないからだ。
 部品産業の工場は、部品の一部を下請け生産に頼っているだけではない。消耗品でもある、ちょっとした金型や治具も様々な企業に外注しているのが普通。しかも、機械設備や施設の改良・補修にも、地場の沢山の零細企業がからんでいる。これらの網の目のような構造が、素早いモデルチェンジや生産コストの持続的削減を可能にしてきたのである。
 この数多くの零細企業で働く人々のプロ意識が高く、発注元と一緒になって組織的に動いてきたからこそ、日本企業が強かったのである。海外ではこればかりは簡単に真似ができないからだ。
 しかし、こうした零細企業が、被災後、従業員と再建資金を確保できるとは限らない。そうなると、その企業が担当していた部分が欠落してしまう。ところが、地域全体が被災しているので、代替事業者もいない。穴埋めは簡単にはできないのである。これをどうするかは、思った以上に厄介な話である。

 それに加えて、今後を考えれば、リスク低減のために部品生産を一箇所に集中して世界に供給する体制を続ける訳にもいくまい。海外での現地生産に踏み切らざるを得ないが、そこでは当然ながら地域のミニコンプレックスなど作りようがない。協力企業の一部を厳選して共に海外に進出するしかない。それをどう選んでいくのか。今迄とは違った難しさが生まれる可能性が高い。
 この場合、「すりあわせ」技術の本質を明確に定義できていないと弱体化する可能性が高い。海外では、錯綜したピラミッド構造が真似できないから、日本企業は強かったというだけで、実は「すりあわせ」技術はイメージだけだったとなりかねないのである。

 注意すべきは、この問題は崩壊した工場だけで収まらないこと。
 生産規模が一気に縮小しており、どの地域でも、ミニコンプレックスに組み込まれている零細企業の多くが、すでに経営が成り立たなくなりつつある。そうした落ち込みは経験したばかり。それを、どうやら乗り切ったが体力が落ちている。今後、少なくとも半年以上に渡り、売り上げ大幅減少が続くが、それに耐えられるとは限らない。大事。
 要するに、サプライチェーンを単にもとに戻すという訳にいかず、構造的再編を進める必要に見舞われる可能性が高いということ。

 ただ、こうした危機的な時にこそ、知恵を発揮してイノベーションを生み出してきたのが日本の自動車産業である。今回もそうあって欲しいものである。
 政治的支援話は未だにほとんど無いようであり、現政権は反企業的かも知れぬが、もともとそんな支援なしで力を発揮してきた企業だらけ。その伝統を生かして、ひと踏ん張りして欲しいもの。
 しかし、気になるのは、そんな議論が表立っていないこと。サプライチェーンはいずれ元に戻るから、自動車企業にまかせておけばなんとかなるだろうと、皆が気楽に考えているのかも。
 そうだとすれば、精神的弛緩と言わざるを得まい。

 すでに、日本は、国として、モノ作りに関わる開発以外では、投資先として不適格地化したと言わざるをえない。金融、物流、製造、IT、本社、といったどの機能をとっても、シンガポール、香港、上海の魅力は圧倒的。これが現実である。何時、日本企業が海外に主体を移してもおかしくない。もし、開発型産業がそちらに舵を切り始めたら、国が持たない。日本の国内市場はまだまだ大きいとたかをくくる人がいるようだが、自動車産業にしても、そこに多くの企業がひしめきあってている状態である。日本市場をあてにした事業を進めていたら、沈没していくしかないのである。

 日本の自動車産業は、今、まさに結節点を迎えようとしているのではないか。


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