■■■■■ 2011.9.5 ■■■■■

 The Lancet 日本特集号の感想

知る人ぞ知るLancetが、日本医療保険制度50周年記念号発刊。
"構造改革必至なのは明らか。問題先送りをいい加減にやめようよ。"という一矢なのだろうか。
ただ、その観点ではインパクトは弱そう。
しかし、「利益相反がない」執筆者による包括的なレビューとなっており、お読みになる価値は高い。

などと書くと、真面目に読んだ印象を与えてまずいか。

実は、イの一番に読んでみたかったのが、栄養学的な論説。
日本食に世界の関心が集まっているから、どう書いているか気になったのである。と言うか、魚食のお勧めでもあれば厄介きわまると思っただけのことなのだが。
当たり前だが、海洋資源は限られている。日本人はたまたま恵まれていたことを忘れてはいけない。もし、世界中、魚を食べたい人だらけになれば、その瞬間に資源は枯渇。そんなことは、人口を考えてみればすぐにわかる話。まあ、どの道、そんな事態は遠からずくる訳だが。
とはいえ、読んで安心した。ファッショナブルな食と健康の話ではなかったからだ。自分の頭で考えることがお好きな人にはお勧め。
例えば、脂肪摂取量が増加しているのに、冠動脈硬化性心疾患による死亡率は減少しているとの事実を指摘しているし、過度のカロリー摂取または炭水化物摂取が糖尿病の疑いのある人の増加原因とみなすことはできないと述べている。当たり前である。普段の生活で必要なカロリー量がどうなっているのか、あるいは、海藻や野菜の繊維を日々どれだけ摂取しているかで、健康状況は大きくかわるからだ。
そう、はっきり言えば、日本の食の統計データは健康増進には役にたたない代物と化しているのである。

それはともあれ、日本の事象が世界のメタファーとの編集長の言葉が印象的だった。そんな感覚を持つエリートクラスでも、日本の医療の実態についてはほとんど知らないのである。"いかにも"感あり。
もっとも、当の日本人でも、日本型医療システムの本質を誤解している人も少なくない。下手にこうした論文を読むと逆のイメージを持ってしまうかも。
小生は、日本の方針とは、予防(重篤化防止)と簡便治療への注力と見ている。従って、プライマリケアにしても、質の向上ではなく、大量供給可能なスピードサービス化を推進してきたし、活動領域が違うにもかかわらず、専門医にもプライマリケアサービス活動の一環を担わさせるような体制を作り上げてきた。
この方針は、高度サービスが不可欠な疾病患者にとってはつらいものがあろう。一方、皆保険とはいっても、貧困層は医療サービスの恩恵はたいして受けてこなかったというのが実態だと思われる。
これこそ日本社会の特徴そのもの。

(source)
"Japan: universal health care at 50 years" August 30, 2011 [邦訳付]
http://www.thelancet.com/japan


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