■■■■■ 2011.10.14 ■■■■■

 日本でのTPP議論にはたして意義があるだろうか

クリントン国務長官は、経済政策で世界を変えていくつもりのようだ。と言うか、昨今の経済状況ではそれしか政権生き残りの道は無いとも言えるが。
世界経済振興と安定基盤構築に寄与する国家なら、軍事的パワーシフトを図っても、それに目をつむる所存と言えそう。一方、反米ゲリラやテロ組織に対しては徹底的な諜報活動と特殊作戦で対処する方針。

しかし、そんな方針が奏功するか、ははなはだ疑問。
イスラム圏では、エジプトで非米勢力のクーデターによって軍事政権が樹立され、リビアは部族民兵の連合組織化してしまった。この結果、地域一帯の武器流通が加速されるし、宗教原理主義勢力が闊歩できる環境が醸成されていくことは間違いない。この状態で、はたしてトルコのように経済成長が図れるものだろうか。
欧州は、言わずもがなの、「会議は踊る」状態。欧州の貴族階層のネットワークやシンクタンク的機能がさっぱり機能しなくなってしまったように映る。
日本と同じで、金融機関の内情を隠蔽し続け、先送りすればそのツケは必ず回ってくる。今や、怖くてストレステストもできない状況かも。グローバルな金融の仕組みの上で世界経済が動いている以上、欧州で金融の仕組みが稼動しなくなれば、世界は大激動に見舞われる。経済政策云々のレベルではなくなってしまう。
東アジアでも、自由貿易構想は遅々とした歩み。そもそも、軍事同盟国たる日本の政府は腰が引けているのだから、どうにもなるまい。

こうして俯瞰的に眺めると、クリントンに構想があるとすれば、日本のTPP加盟はそのなかで鍵を握るような課題と言えるのでは。従って、オバマ政権は、APECで日本のTPP加盟に向けた実質的な話を始めることができるよう、野田政権に最大限の圧力をかけざるを得まい。

にもかかわらず、首相と言えば、今のところ、議論を呼びかけるだけ。
しかも、それは党内での話。ニュースを眺める限り、その議論からどのように意思決定に繋がるのかは外部からはさっぱり見えない。そういうこともあるのか、記事には、首相のリーダーシップ発揮が必要とのコメントがつくことが多い。そうは言っても、党内融和とか、野党重視を掲げているのだから、それは無理筋。自民党時代同様、第一次産業の圧力団体が総出でTPP加盟絶対阻止にかかるのは間違いなく、地方選挙区の議員にとっては身分を失いかねない訳で、議論どころではなかろう。
日本は、第一次産業と税金投入業種が軸となって経済が回る地域だらけ。従って、政権交代フィーバーが終われば、このような施策を実行するにはとてつもないバラ撒きが必要となる。それが可能なうちに行えばよかったが、政権維持のために自民党は開国をできる限り避け続けたから、今のように借金が積みあがってしまえば、もうどうにもなるまい。

まあ冷静に考えて見れば、もともと、TPP加盟によって、日本の産業が活性化するというのはドグマ。加盟しても、日本経済沈没を止めることができるとは限らないのだから、そう悲観することもないかも。強い企業は、その環境に合わせて変身するだけのこと。脱日本国籍化を図ればいかようにも生きていけるのだから。
自由貿易化が経済発展に繋がるという理屈は、あくまでも、事業を伸ばそうという人達が大勢いるとの前提があっての話。今の日本では、この前提が崩れている可能性が高い。静かに朽ちていくことをお望みの方が少なくないからだ。 そんな環境下では、関税が下がって楽になるセクターが競争力を高める程度の微々たる効果しかあり得まい。おそらく、その実質的な経済成長寄与は微々たるもので終わろう。すでに競争劣位と化した企業は、その原因を切開して取り除かない限り、その程度のカンフル剤ではどうにもならないだろうし。従って、日本経済を支えている産業の、TPP加盟で得られる経済の伸びしろはそう大きなものではなかろう。安価輸入品に押されて潰れる事業のマイナスを艱難すれば、TPP効果は薄いと言わざるを得まい。

要するに、TPP加盟を契機として、事業を伸ばそうとか、産業を変身させようという人が数多く存在しているか否かが、この施策の効果を大きく左右するということ。
だからこそ、リーダーシップが不可欠なのである。

最初に必要なのは、経済発展の大風呂敷。もちろん、それはわかり易い構想でなければまずい。細かな話は不要というか、かえってマイナス。人々に方向付けができるかどうかが鍵なのである。 だが、これで即実行に移ったら、ご承知のように失敗の憂き目を見るのは間違いない。と言うか、凡庸な結果に終わるのが普通。それこそ、「自由貿易は鎖国よりはましだったネ」という話に終わりかねないのである。

前首相はここら辺りが全くわからない人のようだった。おそらく、企業のような組織運営の仕組みを理解できないのだろう。原発事故直後の理解しがたい意思決定も、そこらあたりが遠因かも。ともかく、判断力を欠く宰相のお陰で、えらい目にあわされた。
ようやくのトップ変更でホッとした気分だったが、TPPへの姿勢を見ていると、低姿勢と言うだけで、結局のところ同じ穴の狢かも。

それはともかく、TPP施策の肝は、この仕組みを利用したミクロな動きを勃発させることにある。マクロの理屈をいくらきかされようが、事業の成否はあくまでも個別の話。そんなミクロの動きが積み重なって、初めてマクロの数字に成果が反映されるもの。
ビジネスは細部にこそ魂がこもると言う人がいるが、その通り。今の日本の地方のビジネス状態は、税金を源泉とするパイの喰い合いでしかなかろう。もうどうにもならない状態に落ち込んでおり、外部がなんとかできるレベルを通りこしている。

・・・TPPが日本経済再興の切欠になればと期待したいところだが、冷静に見つめれば、それは無いモノねだりということかも。


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