■■■■■ 2011.12.17 ■■■■■

 振り込め詐欺考

相変らず振り込め詐欺が横行しているそうだ。

ATMの振込みに、読むのも面倒な長い文章の画面が出たりして、いつもながらの日本的な対処策。黙々と従うしかない。こんなことをすれば、警告画面が出ても、読まないでボタンを押して次画面に進む習慣ができてしまうだけではないかと思うが。

手口が巧妙になってきたとのことだが、そりゃそうだろう。鴨だらけなのがわかれば、いくらでも工夫して儲けようとするのは当たり前。しかも、犯行体制も企業の組織論のレベルを超えた卓越したものと言うではないか。
今や、常識的な判断力の持ち主でも、つい乗せられるほど高度なテクニックが投入されているとか。過去のデータを徹底的に分析したり、最新の心理学を駆使したマーケティング手法を取り入れたりしている可能性もあろう。

とは言え、その本質は、単なる詐欺。手口のポイントとしてケータイ利用という特徴があるにすぎない。

どこでも繋がり、それこそ途切れなくコミュニケーションさえ可能な新時代に入ったと大喜びする人だらけだが、日本の場合は社会的病根のさらなる深化も同時進行している点にも注意した方がよかろう。
振り込め詐欺とは、そうした流れの発露と見ることもできよう。

そんな観点に立つなら、振り込め詐欺の問題点は2つ。

(1) コネ社会の潤滑剤である「用立て」が、賄賂的性格を強めてきた。
振り込め詐欺のとっかかりは、こまっている近親者を助けようという感情に訴求する会話。当座、おカネを出せば、問題隠蔽できるという「常識的」発想を呼びさますだけのこと。おカネさえあれば、トラブルから逃れられるという社会であるとの認識が定着しているからこそ機能する手口。おカネでの問題解決の風習が根付いているということを白日のもとに晒したとも言える。
当然ながら、騙された人は、そんな態度を悪いことだとはついぞ思ってもいない筈。心のなかでは、近親者のそうした態度を賞賛しかねないのが現実。ただ、大損したので、表立っておsんなことを言う人はいないだろうが。
ミクロでは被害者だが、マクロでは、社会の腐敗を増長させている加害者と言えないこともない。
おそらく、そんな論理がわかる人もいるだろう。そんな人達はどうせおカネが戻らないのだから被害届は出すまい。従って、振り込め詐欺の規模は予想より大きい可能性もありそう。
こんなことを考えると、一番の貧乏籤は警察の取り締まり担当者ではないか。詐欺の総額は膨大だから、撲滅に注力せざるを得ない。手を抜けば、裏社会の力が巨大化してしまうからだ。しかし、この手の詐欺を無くすには、社会を変えるしかないのは明らか。そこまでできるほど警察に力が与えられてはいないから、できることは限られている。しかし、そう考えない人だらけの社会。

(2) 近親者でも、感情が篭る直接交流がなくなりつつある。
機械を通じた会話の特徴は、感情が伝わらないこと。ケーターで四六時中メール交換していると、人間間の深い絆ができているように感じる人が多いようだが、実際は真逆だと思う。相手の表情や仕草を見詰め、肌感覚を覚えることなしには、他人の感情を深く理解することはできないからだ。しかし、現実の生活は、家族と言えども、個人生活的な時間が長くなっており、そうしたコミュニケーションスキルは弱体化しつつある。
それもあるのか、機械を通した意思疎通は類型化の一途。本質的に機械を通すとそうなるとも言えるが、言葉や記号から感情を読み取る能力は低下一途なのは間違いない。
と言うか、複雑化を避けないと、多くの人とつきあえなくなってしまったので、皆でワンパターン化に走っていると考えた方がよいかも。当然ながら、感情の機微を表現する能力は大きく低下してしまった。
振り込め詐欺が成り立つのは、こうした背景があるから。要するに、普段の生活におけるコミュニケーションが、虚像とのつきあいと化している点をつかれたのである。表面的会話で終始し、生身の人間としての会話が無くなっているのだから、なりすまされてもわかる訳がなかろう。
もっとも本人はそうは思っていないようだ。それこそが、重症であることを物語るのだが。
おそらく、騙された当人は、「思いやり」の心を踏みにじられたと感じているのだろうが、それは類型化された「付き合い方」に従っているに過ぎない。相手があせっていそうなら、どんな気持ちかを探りながら、その感情に対して訴えかけながら、どう対応すべきか考えるのが伝統的な密度の濃いコミュニケーション。
これができないのは、話を聞かされて気が動転したため、余裕がなかったということではない。それは自分を納得させるための屁理屈。
思うに、親しい人と二人っきりでしみじみ語ることがついぞなくなってしまったのだろう。感情抜きの「お付き合い」が、親しい人レベルにまで浸透してきた訳である。
そんなことを言っても、そうは感じない人だらけ。そんな世の中の核が、ケータイ。高度な機能が搭載されればされるほど、日本社会では、コミュニケーションのさらなるワンパターン化が進む可能性が高そう。

(当サイトの昔の記載) 「振り込め詐欺に見る危険な流れ」 (20050208)
(警視庁)「あなたは見破れますか?振り込め詐欺のテクニック」 http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/koreisagi/hurikome_onsei/hurikomesagi.htm


(C) 2011 RandDManagement.com    HOME  INDEX