■■■■■ 2012.1.20 ■■■■■

 千丈之堤以螻蟻之穴潰−韓非子

「生き埋めにするぞ」との拷問言辞で脅迫されたと、中国で一党独裁反対活動を続けている作家がワシントンでの記者会見で語った。
言うまでもないが、ノーベル賞受賞にともなう国内反体制派取締りの頃の話が暴露されただけ。

日本の新聞だけ読んでいると、ふーん、という感じ。
しかし、海外紙を眺め続けていると、小生には、地殻変動の始まりを告げるものに映る。

別に、「拷問」の脅しに驚いた訳ではないし、人権侵害という点で問題視している訳でもない。そんなものは中国の歴史では日常茶飯事に近いからだ。まさに血で血を洗うが如き革命史そのもの。
そのイメージは、日本人の一般感覚から見れば凄惨そのもの。しかし、中国ではそうとも言えまい。
そこが気になるのだ。

2006年、中国で流れた「大明帝国 朱元璋」というテレビドラマなど、その体質をズバリ描ききったものかも知れぬ。元を滅ぼし、漢民族王朝明を樹立した、貧農出身の洪武帝の物語。驚かされるのは、建国後の、陰湿で徹底した粛清話にも力を入れている点。
コレ、NHKの大河ドラマ模倣版と呼ばれているが、余りに違う。ソープオペラさながらの女性モノや、制度のなかでもがく男の姿を描くような情緒的な作品とはおよそ似てもにつかぬ代物。これこそが中国政治文化とはいえまいか。

要するに、中国は強権的な中央集権国家体制志向なのである。膨大な人民を抱えているから、それなくしては、バラバラになってしまうからだろう。しかも、明王朝や中国共産党のように漢民族政権が続いた訳ではない。モンゴル民族国家の元や、満州民族の清が長期に渡って支配した時期もあり、中国としてのアイデンティティとなるのは、広大な大陸感と、漢字、儒教的帝国文化だけではないか。(中国は長いこと外来民族の植民地だったと見なされないためには、儒教的帝国文化が核とならざるを得ない。)
普通に考えれば、四分五裂でおかしくないのにまとまれる根拠は帝国王朝志向が骨の髄まで染み付いているからだろう。そんな文化の国が、独裁制度から自然に脱することができるとはとても思えない。

独裁政権構造を変えようとすれば、血の雨が降らざるを得まい。西欧的民主制度をとりいれれば、帝国分裂は避けられまい。それを中国人民が好むとは限らないということ。

しかし、それは、現体制の持続を意味している訳ではない。大動乱は、ちょっとした動きから、燎原の火の如く広がるもの。都市人口が農村人口を越えたといっても、都市部の上層住民の民主化運動はおそらくたいした威力は無い。問題は、農村部と都市流入農民といった貧民階層。ココが黙っていられなくなると、命を張って動き始め、人民解放軍の一枚岩体制が崩れてしまう。そうなった瞬間、帝国は一挙に崩れかねない。
それは支配層ほどわかっている筈。子弟の多くは海外留学者だし、賄賂や公金横領で集めたカネの海外運用もありきたりの話でしかなかろう。

実際、それは杞憂ではないかも。地殻変動の兆しがあるからだ。
2011年末、ついに農民の本格的抗議活動が生まれたのである。中国南部広東省烏坎村。虐殺抗議から始まったようだが、村民が地元共産党幹部や警察官を村から追放したという。
共産党は、村民が注目を引くために海外メディアを利用しているだけと言っているらしいが、そここそが実は現政権の弱点なのである。
支配層の腐敗が暴かれ続けると手がつけられなくなりかねないからだ。

万里の長城も蟻の一穴から崩れるもの。もっとも、中国ではアリでなく、コオロギだが。天下之難事必作於易、天下之大事必作於細・・・千丈之堤以螻蟻之穴潰(韓非子−喩老10)

(記事)
"'Buried Alive': A Dissident's Words Become a Catchphrase" WSJ JANUARY 19, 2012
「中国・烏坎村の抗議行動が拡大―21日には村外へのデモ行進を計画」WSJ日本語 2011年 12月 20日


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