■■■■■ 2012.3.10 ■■■■■

 毛色の変わった哲学入門書のご紹介

哲学書を自称する絵本の話をしたついでに、と言っては失礼だが、同じく、2011年末頃に出版された、日本人に向きそうな哲学入門書もご紹介しておこう。

もっとも、その本のジャンルは工学書で、人文や社会科学書ではない。しかも、その中味はロボット研究について。
ただ、中味は工学というより理学。従って、科学書がお嫌いな方にはお勧めしない。しかし、理工学にご興味がなくても、海外の思想書を色々と読み漁った経験がおありなら、毛色の違う本にも挑戦して欲しいもの。もっとも、「心をもつロボット」と、安直な脳科学本的な題名なので、お手にとりづらいかも。でも、読んでいくうちに、知的刺激を受けるのでは。

特に、カントの認識論辺りに興味をもたれている方は面白かろう。
但し、最近増えていると聞く、「純粋理性批判」のヨムダケ派の方々にとっては、つまらないかも。(余談だが、学生時代の経験なので、現在あてはまるか知らないが、カント本はどの訳版にするかは極めて重要。忘却のかなただが、河出の思想全集版を選んだったかナ。)

そうそう、いらぬお世話かも知れぬが、 もし、時間があるなら、カントの「人間学」をざっと読んだ上で、このロボット本を読むと面白いのでは。

何故、ロボットの話に、カントを持ち出すかわからない方もおられるかも。・・・ヒトの行動は機械の単純なフィードバックとは、明らかに違うからである。
ボーと階段を歩いて降りていて、階段が終わったことに気付かないと、どうなるか経験すればわかる筈。一方、注視していても、液体中に鉛が入っているコーヒーカップを掴むと、間違いなく落とすもの。
手足の行動と触感覚は分離されている訳ではないのだ。カントにいちいち指摘されるまでもなく、手足は脳の外延部分なのは、我々の実感そのもの。
要するに、「階段」や「コーヒーカップ」という、触覚ベースの概念が頭のなかにできあがっていて、その概念をもとにした行動様式が確立されている訳。
それでは、そんな概念はどのように作られるのだろう?

まあ、お読みになって、そんな考えを巡らしてみるのも一興かと。

(本) 武野純一:「心をもつロボット―鋼の思考が鏡の中の自分に気づく! 」 日刊工業新聞社 2011年11月
(当サイト記載) 「絵本を眺めて…(20120309)」


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