■■■■■ 2012.5.8 ■■■■■

 クスノキの源流を想像してみた

クスノキ(樟、楠)は熱帯性の常緑高木。日本は分布の北限にあたる。
神社の境内ではよく見かけるが、日本の固有種ではなさそう。伐採され尽くさないように、ご神木として守ったと言えるが、もともと、無理矢理日本に持ち込み、大切に育て上げた神々しい木だったのではないか。

そう考えてしまうのは、この木を眺めちると、気が休まる感じがするからでもある。知識による愛着なのか、自覚は無くても体が香気成分を感じ取っているのかは定かではないが。
この気分、ひょっとしたら、2万年前の日本列島の土着民と同じだったりして。などと想像を巡らすことができるから、クスノキがそばにあると嬉しいのかも。

そんなこともあって、クスノキの日本での植物史に興味があるのだが、一寸した材料を社会学的な衣で覆った話は見かけるにもかかわらず、残念ながら、理工学的な実証的分析の話はお目にかかれない。熱帯性の木だから、主たる研究対象もそちらになるのだろう。致し方なさそう。

一方、ブナの場合は、固有種であるためか、国内各地の樹木を対象とした遺伝子解析が進んでいるようだ。そこから歴史が見えてくるから、専門話にもかかわらず、素人にとってもえらく面白い。以下、河原孝行博士の仮説から。
●2万年前の最終氷期最盛期−針葉樹林
  分断状態で狭い地域に存在・・・日本海型、本州太平洋型、四国九州太平洋型
●1.3万年前の後氷期−温暖化
  生育地限定化で残った種が発展
●1.2万年年前
  広範囲に領域拡大
●1万年から9千年前
  本州太平洋型が北海道上陸
●8千年前の日本海形成と暖流流れ込み−多雪多湿化
  日本海型と九州太平洋型の混交と発展
●6千年前の温暖化−低地ブナ林が常緑カシ林へ
  中部地区での日本海型と本州太平洋型の混交と発展
●4千年前
  本州での分布が現在の状態に固定化
●1千年前
  北海道渡島半島を北上し北限達成

これは、一植物に関する分布の変遷でしかないが、同じように、クスノキやヒトも環境大変動に晒された訳である。そうなると、ヒトの文化も、ブナ同様に3つの型があってもおかしくなかろう。
そのうちの本州太平洋型ブナ林地帯こそ、今につながるクスノキご神木の源流域ではなかろうか。と言うか、この地域は南洋諸島の文化を受け継いでいると見ているだけの話だが。言ってみれば、黒潮を介した、海の民の活躍の象徴こそがクスノキという見方。なにせ、火山島である神津島の黒曜石を本州で流通させた民が住んでいた訳だし。
そんなことを考えると、最古の歴史書に登場する伊豆の船とは、クスノキ大木を刳り抜いたアウトリガーカヌータイプに違いなかろう。
和船は、遭難だらけの遣唐使船から、江戸海運の千石船まで、平底好み。穏やかな水面を大量に荷を積んでゆっくり航行するには最適だが、波除をつけても、荒海では転覆し易いタイプ。しかし、日本では浮き子は邪魔もの。海面に浮く海藻や、海辺や河川で鬱蒼と生える葦にひっかかったりするからだ。南洋文化を超えた繁栄が可能になれば、平底だらけになって当然だろう。

以上、どうでもよい素人話。

互いに、全く無関係な学問領域で唱えられている様々な説を、高い木に登って(広い視野で)、ボッーと(先入観無しで)眺めると、こんな風に全体構図が突然見えてくる例をあげてみたかっただけ。
構想力を磨くためのハウツー本を読むより、こんなことを考えた方が、訓練としては上質ではないか。如何かな。

(近縁種について)
日本で見かける近縁種は落葉低木のクロモジや、ダンコウバイ、アブラチャン、ヤマコウバシ、シロモジ、ヤブニッケイ、等。照葉樹林帯代表種のタブノキも含まれる。これらはほとんど自生種。ただ、クロモジは高級爪楊枝で商売ができるし、茶室の庭の生垣に合うらしいから、栽培されることも少なくなさそうだが。そうそう、クスノキ同様に抽出成分を輸出していた時代もあったらしい。
海外での近縁種は、セイロンニッケイ(樹皮はシナモン)、ローリエ(月桂樹)、アボガド、ボルネオテツボク(強烈に硬く腐らない)といったところ。

(最近発刊の植物分類本)新しい植物分類学T 日本植物分類学会監修 講談社 2012年3月
(当サイト過去記載) クスノキを眺めて (20090521)


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