■■■■■ 2012.5.24 ■■■■■

 日本は適材適所の国だろうか

「適材適所」の語源は木材の使い分け。宗教施設建築用語とされるが、日本の風土を考えれば、何処でも通用する考え方だから、一般用語と考えてもよかろう。
なにせ、滅多矢鱈に樹木の種類が多い土地柄。一寸、思い立って特徴的な応用を書いてみるとその凄さがすぐにわかる。まさに木の国。西洋家具のオーク材、メープル材といった分類の比では無いのである。ただ、「かつては」という言葉をつけた方がよさそうな感じがするが。
 ---材として適す用途(葉/実は除く)---
 楠クスノキ:船材
 欅ケヤキ:櫂
 杉スギ:外壁板材
 檜ヒノキ:室内材
 松マツ:梁材、薪
 栗クリ:鉄路枕木
 栃トチ:鉢
 山椒サンショウ:擂粉木
 樫カシ:弓手
 椎シイ:斧の柄
 桐キリ:箪笥
 木通アケビ:大型編籠
 三椏ミツマタ:紙
 油瀝青アブラチャン:寒敷き
 銀杏イチョウ:俎板
 朴ホオ:鞘
 白膠木ヌルデ:木札
 黒文字クロモジ:楊枝
 櫨ハゼ:蝋燭
 白雲木ハクウンボク:傘の柄
 榧カヤ:囲碁将棋盤
 楓カエデ:将棋の駒
 桂カツラ:彫刻材
 桜サクラ:お盆
 黄楊ツゲ:櫛
 椿ツバキ:細工物
 楸ヒサギ/アカメガシワ 下駄
 柊ヒイラギ:大金槌(ゲンノウ)の柄
 胡桃クルミ:銃床
 榎エノキ:滑車
 水木ミズキ:荷棒
 柳ヤナギ:柳行李

この「適材適所」だが、どんな樹木でも、なんらかの社会的役割が必ずある筈との思想が根底にありそう。この辺りが日本人の琴線に触れるところでは。昭和天皇が「雑草という草はない」と側近に話された逸話は有名だが、生物学者であったからというより日本の伝統精神からでは。その誕生日が「みどりの日」に改称されたのもそんなこともあるからかも。
樹木にしても、雑木林とは、様々な木々を植え込んだ人工林であり、手がかかっていないように見えるが、実は工夫された設計林であることが多い。もっとも、西洋庭園的な設計とは全く違うやり方だから、設計と呼ぶと誤解を与えてしまう。要は、表立って見えないだけで、それなりの作り込みがされているということ。

ともあれ、長い年月にわたり、それぞれの樹木の特性が評価されてきたから、その知恵たるやとてつもなく高度なもの。細かな用途毎にどの樹木が最適かがはっきりしていた訳である。
しかし、それは今や昔。
建材であれば、その物理的特性や耐久性を測定し、要求特性を考え、コストとパフォーマンスのバランスを考えて最適材を選定する時代が来たからである。もっとも、その方法論が浅知恵だと、伝統のやり方にかなわないこともある。だが、問題発生を通じて、評価能力向上が図られるから日進月歩。
コレが現代の「適材適所」方式の基本パターン。要件をはっきりさせ、材を評価し、最適なものを選定するというステップを踏む訳である。

しかし、最近、突拍子もない見方がでてきた。
「無知の知」を主張する人がいるのである。
全体の枠組みを知らないという点で呆れるほどに無知であっても、逆に、判断力には期待できるとの屁理屈を繰り広げた訳である。
いやー、実に、なつかしき言葉。高校生時代を思い起こさせてもらった。倫理社会は発表授業方式だったので、小生はソクラテスを選んだのである。そのおかげで、今回、大笑いさせて頂いた訳である。

よりにもよって、判断力を欠く首相が登場したため、とんでもない災禍がもたらされたにもかかわらず、未だにその反省感ゼロなのには恐れ入る。まあ、こういうところが、日本の組織の一大特徴かも。

一番の問題は、人材の要件をゼロから見直す必要がある時代に入っているのに、それができないのである。と言うか、もともと、そんなことを考えて人事を行った経験がないから、なんのスキルも無いというだけの話ではあるのだが。
それに加えて、殻を打ち破ることができそうな人材を育てるどころか、出る釘となって打たれないようなスキルを磨かせてきたから、今の時代の「適材」も欠いている。そもそも、エリート養成大学が無自覚的にそんな教育を施し続けている訳で、それが身についた上で企業に送り込むから、今更マインドを変えようと考えてもただならぬ手間。こちらが第二の問題。

政界の場合、二大政党の実態は選挙互助会だから、まともな人事を期待する方がどうかしているが、企業組織でも同じような問題を抱えていそうだから大問題。
戦略的思考ができ、構想力がある人材を育成し、そのなかからリーダーを選抜していこうとのスローガンは立派だが、実際のところ、そんなことができている企業はほんの一部では。

外から見れば、相変わらずの、内外人脈を駆使した調整能力重視人事だらけに映る。政界と五十歩百歩。もっとも、その手の人事であっても、それなりに能力は磨かれているのは間違いない。戦略手法を駆使して美麗なプリゼンテーションができるし、曖昧模糊としてはいるが周囲の人達に喜ばれそうな将来像を描けるからである。
もしも、そんな能力を上手に磨くことができた調整型人材をリーダーに採用し続けたとしたら、組織から知恵が生まれなくなるのは必定。先輩が築き上げた遺産を食い潰した挙句、ドン詰まりに陥るのでは。

(資料) 連載 いろいろな樹木とその利用 月刊杉WEB版
(記事) 「無知の知だから適材適所」 首相、防衛相かばう 2012年4月5日21時39分 朝日新聞デジタル


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