■■■■■ 2012.7.29 ■■■■■

  中東大動乱のゴングが鳴ったようだ

FSA(自由シリア軍)の実態はこんなところではとの話がとびかっている。
 ・資金提供元:サウジアラビア+カタール
 ・武器供出元:米国(イスラエルも関与)
 ・上記経由地:トルコ
 ・積極関与勢力:イラククルド自治政府(バルザーニ政権)

さらに情報機関員や傭兵が入っているとの話もあったりする。この手の見方の妥当性は、素人にはなんとも言い難し。

ただ、素人から見ても、はっきりしているのは、米国はブッシュ-チェイニー政権の中東独裁者打倒路線を今もって続けている点。
もともとアラブは四分五裂社会の国が多く、政治的安定のためには独裁はある程度必要悪。それをわかっているにもかかわらず、原則論にこだわるのが米国流。親米か否かとか、宗教国家化の危険性を推し量るとか、地域安定といった、実践的見地を押しのけ、イデオロギーを重視する体質は変えられないようだ。と言っても、国家である以上、なんらかの利権確保を画策することになるから、混乱必至。だが、そんなことは意に介せずというのが、米国文化らしい。実に、厄介な国である。
ともあれ、後がどうなろうと、なにはともあれ独裁者打倒の4連発。
 ・イラク-フセイン政権
 ・チュニジア-ベンアリ政権
 ・リビア-カダフィ政権
 ・エジプト-ムバラク政権

その続編が、シリア-アサド政権。もちろん、本命は、イラン-ホメイニ体制だと思われるが。その次辺りは、混乱続くスーダンやレバノンだろう。これらは、流石に手に余るかも。ただ、不安定化一途のイエメンと小国バーレーンは、軍事展開に桎梏にならなければ、どうでもよい国なのかも。
そして、最後まで曖昧にしておきたいのは、もちろんサウジアラビア。いくらなんでも、政権崩壊のインパクトが大きすぎるからだ。だが、もしもそんな動きが出てしまえば、おそらく、転換辞せずだろう。

実際、オバマ政権は、どうでもよいから、早くアサド政権打倒をといった心情のようだ。そして、それは冒頭にあげた各国も同じことかも。しかしながら、課題は共有していても、同床異夢状態なのでは。その齟齬が今後どう発露されるかは、なんとも言い難し。
シリア住民にとっては、コリャたまらぬ。
はなからモザイク社会の国だから、恒常的対立が存在している訳で、一般の人からすれば、政治体制が独裁だろうがなかろうがおそらくどうでもよい話。適当なところで妥協して、戦乱を避け、平穏に食べていけれる環境を作って欲しいというのが本心では。ところが、国外勢力にしてみれば、そんなことは、どうでもよい話。内戦に限定してくれるなら、熾烈な殺し合いが数年続こうが一向にかまわない訳だ。下手な方向に進んで、自国内に火の粉が飛ぶことだけ避けてくれれば結構ということ。

シリアのアサド大統領は、その辺りをわかっているから、鎮圧活動強化に邁進。ついに、WMD(大量破壊兵器:毒ガス)所有まで公式表明してしまった。自国民には使用しない方針を打ち出し、イラクのフセイン政権がクルド地域で使用したことを思い起こさせる手を用いた訳である。要するに、アサド政権が崩壊すれば、WMDはヒズボラに渡り、イスラエル戦争に使われるとの脅し。これがイスラエルにどのような影響をもたらすのかは定かではない。
とうとう、政府高官爆殺まで発生したから、戦乱のエスカレートは避けがたい状況。いうまでもないが、FSA中央とアサド大統領の双方にとって都合のよい話に仕立てられる訳だ。大統領としては、徹底した制圧作戦に出て、任期内に国内覇権を確立したいだろうし、反政府派中央も内戦激化反対派を抑えて組織力強化を図る絶好の機会。これを生かした動きが急。アナン調停に意味があろう筈が無い。

まあ、ここまでくると、行くところまで行かないと収まりがつきそうにない。
関係するすべての国や勢力は、最善の策を考えるという状況にはない。どの策をとろうが、最悪の結果を招きかねないからだ。従って、最悪といっても、そのなかでも一番被害が少ないかも知れぬと思われる策を選ぶしかない。
要するに、中東の地殻変動やむなしということになる。賽は投げられた訳で、どんな目が出るかは誰もよくわかないのである。

まあ、素人的に見れば、中東の勢力図は遠からず以下のような方向に進むということかも知れぬ。
(0) 大動乱の引き金・・・自由シリア世俗共和国
(1) イラク分裂とクルド国家誕生
  (1-1)  大クルドスタン民族共和国
   ・トルコ東部PKK(クルド労働党)
   ・イラク北部クルド自治政府
   ・シリア北部PYD(民主統一党)
  (1-2) イラクスンニ共和国
   ・イラク中央部スンニ派
   ・シリアイラク国境部スンニ派
  (1-3) アラブシーア共和国
   ・イラク南部シーア派
   ・サウジアラビア北部シーア派
   ・イラクイラン国境部シーア派
  (1-4) バクダッド世俗都市国家
(2) サウジアラビア圏の分割
  (2-1) アラブ世俗王国連邦 [カタール、UAE、クエート]
  (2-2) ワッハーブ宗教国家 [サウド王家]
  (2-3) イスラム巡礼聖地特別地域 [メッカとメジナ]
  (2-4) イエメン部族連合国家
(3) ペルシアシーア共和国 [イランとイラクの一部(領土紛争地域)]
(4) イスラエル隣国のそれなりの安定化
  (4-1) ヨルダン共和国
   ・ヨルダン川東岸パレスチナ人
   ・もともとのパレスチナ難民
   ・最近流入したシリアのパレスチナ難民
   ・ベドウィン部族
  (4-2) レバノン共和国
(5) トルコ、エジプトの地域影響力低下
(6) イスラエルの影響力低下
  (6-1) ヨルダン川西岸地区の国連暫定統治
  (6-2) イスラエル入植地返還

こんな流れが本格化する前に頓挫するのではないかと思うが、ともかくそんな動きが始まってしまったとすれば、どの国も大動乱は避けられないのでは。
悲惨な状況に陥る地域もでてくるだろうが、そんなことにおかまいなく、大国は利権争奪戦を繰り広げることになる。それが一気に繋がったりすれば、中東大戦争勃発。それだけは回避して欲しいものだがはたしてどうなるか。どうもゴングが鳴らされたようだし。


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