■■■■■ 2012.10.6 ■■■■■

  ようやくLTEの時代か

ソフトバンクのイー・アクセス買収の意味が色々と語られているが、どの視点で見るかで様相は異なる。

小生には、当然の流れという以上の感慨は浮かばない。
LTEの時代に入ったとの象徴的な動き。ようやくにして、インターネットが登場した頃、大いに議論されていた「IT革命」のコンセプトに近いモバイル通信が広がりつつあるということである。これではわかりづらいか。
早い話、IPとは無縁の「電話」主導の世界から、IPに則った「データ」通信の世界にシフトしただけ。ずいぶんと時間がかかったもの。後は、音声通信の全IP化を早く済ますだけ。この「感慨」。
日本はこの路線の近道を歩んだ訳ではないからでもある。

なんといっても、残念だったのは、「PHS-モデム」の仕組みを使おうとする人が僅かだった点。電話としても、料金は安く、質も高いというのに、モバイルデータ通信としては実用レベルに程遠い「携帯電話」に跳び付く人だらけ。ITを声高に叫ぶ人ほど、メールさえ使わない状況だったのである。
せっかく構築したISDNの仕組みをドブに捨てる選択をしたとも言える。
驚いたのは、PHS企業が、この「つなぎ」でしかない仕組みを、その後、全IP化していたこと。そりゃ「つなぎ」でなくなるから、筋が違うのではという感じがした。
その次ぎは、「iモード」の囃し過ぎ。これはあくまでも電話の仕組みであり、全IP化の方向に乗っている訳ではない。言ってみれば、テレビの道と変わらない。インターネットはアクセサリーのような位置付けでしかないから、できるだけ早く消えていただかなければこまる。全IP化にとっては桎梏以上のものではないからだ。特に、携帯「電話」普及が飽和してしまった状態では。

ともあれ、全IP化が視野に入ってきたら、この狭くて稠密な国土で無線通信業者は3社でも十分すぎるのでは。これから先、安定大容量通信の世界に入っていくためには大規模投資が必要なのに、重複するインフラをいくつも作るなどもってのほかではなかろうか。互いに技術競争する意味が失われてしまえば、それこそ、すぐ隣合わせに同じようなもの売る、3軒もの大型スーパーを開いているようなもの。無駄以外のなにものでもなかろう。もっとも、これこそが日本の特徴的風景ではあるが。

これを、企業サイドで見るとどうなるか。
ご存知のように、2015年からの割り当て周波数帯獲得競争で、イー・アクセスはソフトバンクに負けたのである。「イー・モバイルLTE」で頑張ってくれれば、後はもう結構と言われたも同然。政府に確固たる方針があるようにはとうてい思えないから、ドロドロした争いの結果だろうが、大局的にみれば、まあ妥当なところだろう。
こうなると、イー・アクセスはつらい。合理主義が亜流でしかない社会で、「イー・モバイルLTE」が広がることは考えにくいからだ。打開の道としては、他社との事業統合となるのが普通。そして、その相手もほぼ自明とは言えまいか。
インフラ投資を果敢に進めることを避けているのはソフトバンクだけだからだ。ソフトバンクにしてみれば、「イー・モバイルLTE」を手中におさめない限り、現金を使う設備投資に踏み切らざるをえないから、こちらもえらく辛かろう。もともと、ソフトバンクは、イー・モバイルのインフラを利用している企業でもあり、極く自然な成り行きという気もする。

もっとも、事業統合と言っても、電話の基地局統合はむずかしかろう。ここら辺りが、実は肝なのでは。両者の電話に対する見方は180度違う可能性もあり、もしそうだとすると、同床異夢の可能性もなきにしもあらず。
市場の現実を見れば、今もって、競争は電話屋のレベルである。「すべてをIP化」という方向に少しづつは進んではいるものの、電話屋として収益を考えれば、それを阻むような仕掛けをつくりかねないということ。
それが、LTEの登場で、ようやく本来の道を着実に進めそうな感じになったと言うこと。

スマホを褒め称える方が多いが、搭載されている様々な機能のコントロールやデータの使い方は未だに一元化されていない。「すべてをIP化」というコンセプトには程遠い代物。研究開発の長期目標として、ココをなんとかしてもらわなければこまるのである。電池が長く持つという話をしている訳ではない。ケータイの世界の話ではなく、グローバル社会の核心的要件だからである。
そして、できるだけ早く電話の仕組みを止め、IP音声通信に代替してもらわねば。
もちろんのことだが、電話事業で成り立っている企業にとっては、経営的に、それはえらく厄介な話。だからこそ創造的な戦略が必要なのである。なにせ、政府からしてISDNを使わせる状況が続いている訳だし、FAXも消えていく状況にはないのだから。

(主だった解説記事)
 買収を急がせた「LTE」「テザリング」「iPhone 5」 ソフトバンク、イー・アクセス買収の狙い 2012年10月01日 21時44分 UPDATE ITmedia
 攻めに転じたソフトバンク イー・アクセス買収で手に入れたもの ジャーナリスト 石川温 2012/10/2 7:00 情報元 日本経済新聞 電子版
 ソフトバンクによるイー・アクセス買収の背景と問題点 グローバル研究グループ 2012年10月2日掲載 InfoComニューズレター
 連載:佐野正弘の“日本的”ケータイ論 なぜ、ソフトバンクはイー・アクセスを買収したのか?2012年10月03日 日経トレンディ
 エコノMIX異論正論 池田信夫 ソフトバンクは「裏オークション」で最大の携帯キャリアになった 2012年10月05日(金)17時00分


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