■■■■■ 2012.10.12 ■■■■■

  海岸林はクロマツに限る

時々眺める、学者の方のブログからの引用・・・。
「オフィスの窓は塩が乾いてべったり。外もよく見えません。」台風一過後、10日以上経った状況での話。
普通なら、なんだ早く掃除位したらとなるが、そんな状況ではないのである。なにせ、電話さえ未だに通じていないというのだから。
もちろん、これは沖縄の話。台風被害で、環境が一変した模様。

どの程度かといえば、・・・・。
「恩納に近づくと,被害のひどさがはっきりします。家が倒れるとかそういうことはありませんが、樹木がみな茶色になってしまって。
景色がまったく別物です。誇張に聞こえるでしょうが、焼け跡みたいになっているのです。つまり塩害ですね。葉がみな茶色になって。」

いかにも台風がもの凄かったという印象で、それは間違いではないのだが、この手の塩害被害だけとれば、程度の差はあるもののそれほど珍しい話ではない。黒潮の流域で潮風が当たる窓だと、一般用のサッシ枠などすぐにボロボロになる。海の眺めが良いので嬉しがって、その手の家を買った人から聞けばすぐにわかる。嫌気がさしても、そうなってしまえば、二束三文でしか売れなかったりするもの。
樹木にしても、合わない樹種は、塩害対策をしなければ、葉が枯れてしまい即時邪魔者化。ただ、場所によって、そのスピードは違うが。

従って、そんな所に長く住んでいる方々は、必ず「防潮風林」で、塩害を避けるようにしている。と言うか、正確には、第一義的には防砂林だそうで、長期的には防津波林になっているのだそうな。それを知ったのは、本ではなく、大洗海岸の住民のお話。昔のことだが、海岸近くの施設管理人を兼ねており、いかにそのメインテナンスが面倒な仕事か色々と教えてもらったことがあるからだ。なかでも厄介なのは、林を守る作業だという。そりゃ当たり前で、面倒なだけで直接的なメリットは何もないから、誰もが知らん顔したい訳だ。しかも、手をかけても感謝されるどころか、余計な仕事を増やされたとの文句がでたり、散々らしい。まあ、相当昔のことだから、今は違うかも知れぬが。

コレ、昔話を思い出したから書いているのではない。
三陸海岸沿岸の林として、土盛をして広葉樹林を植えるとかいう話を耳にしたばかりのところに、塩害の話を読んだのでえらく気にかかったのである。そう言えばおわかりだと思うが、「防潮風林」に広葉樹というのは、伝承ベースの知識から言えばおよそトンデモ論だからだ。
広葉樹の葉は、潮を被れば枯れる。当たり前の話。その葉は落ちて重なり合う。広葉樹は、水源林に向いているといわれる位で、落ち葉が水分保持層を形成する訳だ。そうなると、葉に付着した大量の塩分は土壌に堆積していくことになる。そんな過酷な土壌で、樹林が耐えていけるか、はなはだ疑問。と言うことで、一般に、「防潮風林」に広葉樹は利用しないもの。
もっとも亜熱帯性気候の場合は、耐塩害機能を持つ広葉樹があるから、それを用いればよいだけ。温帯では、そんな樹木は聞いたことがない訳で、普通は「クロマツ」を植えるもの。コレ、鉄則である。
針のような葉で、塩分が付着しにくいというだけの話ではないのだ。なんといっても、この木の凄さは、腐葉土が期待できそうにない栄養成分不足の土壌で立派にスクスクと育つ点。つまり、落ち葉など、除去した方がよいのだ。そうなれば、表土の栄養分は雨で流されがち。逆に、それが塩分だらけの土壌化を防いでいる訳である。学者の説はどうなのかは知らぬが。

さらに、「クロマツ」の素晴らしい点は、根が深いこと。栄養分が少ない土地に棲むのだから、地中深くから栄養分を吸い上げる必要があるからだろうが、一般の広葉樹だと根は横に広がりがち。植林された樹木が強風で根からひっくり返る姿は時々見かけるが、クロマツだとなかなかそうはならない。枯れてしまったが、高田松原の一本松は伝承の常識からすれば奇跡ではないのだ。津波に襲われたら、大部分の枝は喪失するが、幹は残るもの。それを許さない巨大津波なら、幹が折れてしまう。一本松が残ったということは、周りは根から流されたと思われるが、それはまともなクロマツ林ではなかったことを意味する。根が深く進まない、なんらかの理由があった筈なのである。
ともあれ、クロマツは海岸の防風林としては比類なきもの。しかし、誰も口には出さないが、これが理由で大いに嫌われているのである。枯れた跡地に残った根の始末が大仕事になるからだ。小生がそんな話しを聞かされたのは大昔だから、余程手に余るものなのだ。

昔からの伝承を受け継いでいるだけの地元の人達の「知恵」が必ずしも正しいとは限らないが、そこには何らかの理屈がある訳で、それを理解した上で植林を考えるべきである。防風林用樹木は最低でも20年しないと役に立たない。それだけの年月を経てから、仮説は間違っていたと言われたのではたまったものではない。
特に、気になるのは、「防潮風林」や「防砂林」という機能を重視しないでも生活できる時代に入ってきた点。今や、どうして林が必要なのか、「そもそも論」から始めないといけないかも。
海岸における生産拠点としての「里」は、もうほとんど無くなりつつあるし、耐久性材料や家屋の工夫で生活上での塩害感覚を失いつつあるからだ。しかも、河川は上流から下流まで土木工事だらけで、土砂が海に入ってこないから、砂浜は命を失いつつある。それも最終段階に突入。ハマグリ絶滅がその象徴と言えよう。言うまでもないが、ハマ○○といった植物類も早晩消え去る運命。そして、クロマツも、となるのは目に見えている。
そんなことを考えると、クロマツ林くらい作っておいた方がゆくゆくの楽しみなるのではなかろうか。
もっとも、それは、そこで生活する人達の生活信条で決める話。部外者がとやかく言うことではない。

(引用) 2012年 10月 10日 台風の被害跡、 2012年 10月 11日 進歩の胎動 生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ


(C) 2012 RandDManagement.com    HOME  INDEX