■■■■■ 2012.11.17 ■■■■■

  戦略に凝りすぎて不調なのでは

ソニー株の予想配当利回りは高い。常識的には、株価が安すぎる評価であり、将来性が低いと市場が見なしていると見ることもできよう。
そんな状態で、転換社債発行の発表。その中味は、CMOSイメージセンサーの生産能力増強、オリンパスとの間で合意した医療事業、社債の償還原資。しかし、「成長シナリオにのっとった資金調達とは言い難い」とみられたらしく株価急落。9日のムーディーズ格下げで、前受金残高の即時返済要求権が約470億円発生したため、苦渋の選択と考えるべきものらしいが。

変動する巨大利益をうまく操ることがCFOの役割だった時代は今や昔。
デジタル化へ進む構想が功を奏さず、出井CEO退任となり、それ以来、トップが成長エンジンを市場に上手く説明できないままのようだ。そのため、赤字事業対策に汗を流すので手一杯イメージが定着してしまったのかも。
おカネをかけて問題事業のお片づけをし、どうにか体裁を整えても、潤沢なキャッシュフローを生み出している巨大事業がある訳ではないから、市場からさっぱり評価されないのである。
こうなるとえらく辛い。悪循環に陥っていそうな気配が漂ってくるからだ。

この企業には、戦略性を重視する経営が根付いていそうだから、それが一番怖い。上げ潮に乗っている時は好循環が生まれ素晴らしい結果を生み出すが、逆流の深みに嵌るとさっぱり上手くいかなくなりかねないのである。と言うのは、プロフェッショナルが顧客のビジネスではなく、一般大衆相手のビジネスが主体の企業だからである。戦略に凝ったところで、所詮は確実性が薄い仮説ベース。予想と違う事態に直面することを前提に動くしかない世界。素晴らしい戦略で未来を切り開ければ素晴らしいが、その戦略に拘泥すると足を引っ張っぱられかねない。ここら辺りが経営の難しさだろう。

外部から見れば、この企業のビジネススタイルは目にも鮮やか。
地道に技術を追求しているエンジニア達の小さなアイデアを、企業家精神の権化のようなビジネスマンが拾い上げる仕組みが奏功してきたからだ。ただ、元ネタそのものが切れ味良好と見るべきではないと思う。起業こそ命と考える人達によって、大きなアイデアに磨き上げてもらったからそう映っているにすぎまい。簡単に書いているが、アイデア評価と事業化決断はえらく厄介なもの。ここら辺りは大企業になると官僚的仕組みになりがちだが、それを上手く切り抜けてきたことがこの企業の真価と言えそう。
ただ、その裏で、緻密なキャッシュフロー管理下での、苦心惨憺たるコストダウン活動があり、これが大きな利益を生み出してきた訳である。大型商品が生まれ無いと、これが逆にコスト負担になりかねないから苦しい。しかも、赤字脱出作戦でこの辺りに注力していると、大局観を失ってしまいかねない。そうなると元も子もない。

好循環の時は、行け行けドンドンですべてがプラスに働き上手くいったものが、今、逆に進む可能性が生まれている訳である。
もともと、失敗作は多々あるものの、大きな成功作がカバーする体制で進んできたから、キャッシュフローが弱くなると、超大型ビジネスに賭けることを避ける方向に進んでしまうかも。戦略に長けている企業だから、それはそれ、確実な一歩を踏み出すことになるだろうが、怖いのは、この手の路線は投資規模の直観を失いがちになる点。

なにを言いたいかおわかりだろうか。
一つは、巨額な賭けに踏み切る訳にはいかないから、投資サイズが自ずと限定されたものになってしまうという点。大型事業が育ちにくくなるかも知れない。
もう一つは、気付きの話。事業を進めていると、今がどうも結節点だと感じることが多いと言われている。無理してもかなりの資源を投入すべきだとピンとくる訳だ。ところが、一般大衆が顧客のビジネスだと、これを最初から予想しておくのは難しい。あくまでも仮説で動いているからだ。問題は、こうした気付きが生まれるかという点と、それに対して柔軟な対応ができるかという点。
苦労して戦略を策定してしまうと、どの企業でも変更は難しいもの。そのため、どうしても投資タイミングやサイズに関して柔軟性を欠いてしまいがち。これが禍根を残すことが多い。

一般に、目立つ日本企業は、新しいモノ好き。
ただ、たいていは流行追随型。バスに乗っていれば、チャンスがある筈との理屈に支えられているから、結構柔軟に動ける。しかし、ソニーのように革新狙いの風土が定着している企業の場合はそうはいかない。心底新しい商品を生み出さねばと考えがちで、下手をすれば冒険に走ってしまい、えらいことになる。
と言って、それを恐れると、予想から外れるとすぐに事業化を諦めかねない。せっかく始めたなら、方向転換するとか、計画とは違ってもココ一番の投資を敢行し、飛躍を狙う動きがなかなかできなかったりするもの。しかも、独自性を追求しているから、妥協しながらの大型化の道も嫌いがち。ここも厄介なところ。

1992年発売のMDなど典型だと思う。フラッシュメモリが安価になるまで、市場を席巻する超大型商品になっておかしくなかった筈。しかし、その為には損を覚悟で、世界標準にすべく、巨大投資が必要だし、様々な妥協も不可欠。残念ながら、そこまで踏み切ることはなかった。
おそらく、シャープや三洋もMDの大型市場化を狙って積極的に動いていた筈。結局、日本での小さな市場で終始したから、こちらの企業は投資がペイしなかった可能性が高かろう。
著作権保護や標準問題ももちろんあるが、その根底に、今一歩、投資規模感がつかめなかったことが大きかったのでは。

戦略構築の勉強を重視すれば、ブランドイメージは上がるし、それなりに大きなリターンも得られる。しかし、革新を旨とする企業の場合、その副作用も考えておくべきだろう。
例えば、ソニーの場合、アクセサリー商品も含めたトータル商品群で売る方針を打ち出したのは結構遅かった。それは決して悪いことではない。そんなことに係わるより、新コンセプト商品を生み出すことに意義を感じる風土を醸成する方が余程重要だからだ。なんだ、戦略的に動くだけでこれほど利益が出るなら、そちらを先ずは優先しようとなったら、長期的に弱体化の道を進んでいる可能性もあるということ。

小生は、戦略立案の根幹に、あくまでも、「創造性」を置くべきと考える。これを忘れると、つい計画策定とゴタ混ぜになってしまうからだ。
そうなると、すぐに緻密な管理手法に結びついてしまう。一旦、立派な計画に嵌ってしまうと、以後、投資の直観的なサイズ感は湧かなくなる。当初予測したブレの範囲内で行こうとなりがち。一般に、管理を強化すると、目前の大きなチャンスが見えにくくなるもの。
・・・チャンスに遭遇したら、苦労して作った戦略に拘泥せず、大胆な方向転換も悪くないという、当たり前の話でしかないが。

(記事)
ソニー、株価急落でCEOが直面する試練が浮き彫りに [記者: Daisuke Wakabayashi] 2012年 11月 16日 8:41 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
ソニー株、一時11%安 市場に届かぬ「成長戦略」公開日時2012/11/15 23:38 日本経済新聞
ソニー株32年半ぶり安値、CBによる希薄化懸念で−東京市場 [記者:東京 小笹俊一] 2012/11/15 12:35 ブルームバーグ・メディア
ソニーがCBで1500億円を調達、中核事業の設備投資に600億円 [ロイターニュース 江本 恵美] 2012年 11月 14日 16:45 ロイター


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