■■■■■ 2012.11.25 ■■■■■

  苦労するのはもう結構という時代の到来

微妙な表現で知られる内閣府 月例経済報告だが、ついに、景気が落ち込んだと明瞭にわかる記載に変わった。まあ、第3四半期が年率−3.5%だし、第4四半期がさらに悪くなる可能性はあっても良くなるとはとうてい思えないから、言われるまでもないのだが。
  ○背景
  9月 世界景気の減速等
 10月 引き続き底堅さもみられるが、世界景気の減速等
 11月 世界景気の減速等
  ○結果
  9月 回復の動きに足踏みがみられる。
 10月 このところ弱めの動きとなっている。
 11月 このところ弱い動きとなっている。

ちなみに、5〜7月は「依然として厳しい状況にあるものの」、「緩やかに回復しつつある。」というタッチ。8月になって「厳しい状況」との認識が消えた。
と言っても、復興需要が支える一方で、輸出がまあまあ。そのお蔭で生産ともども、僅かながら上昇傾向が感じられるという話に過ぎない。ただ、個人消費が下げ止まったりすれば、口には出さなくても、回復期待が湧くのもわからないではない。それに、サプライチェーンの立て直しが進んだことは間違いない訳だし。
しかし、この手の見方、どこかおかしくないか。
現実を直視すれば、そんな期待など蜃気楼のようなものでは。なにせ、その論理は単純。海外経済が回復する「だろう」から、日本の経済もそれにつれてなんとかなるに違いないという話。楽観論というより、輸出セクターにおぶさり、「神頼み」している状態とは言えまいか。なにせ、海外の経済状況好転の兆しを体感している訳ではないし、海外でなにか手を打とうとの気もないのだから。

国内経済の実態は、誰が見ても、以下のような記述になってしまうのではないかナ。
1. 雇用回復見込みはほぼゼロ。
   ・大企業:国内削減以外ありえまい。
   ・中小零細企業:雇用どころの話ではなかろう。
   ・自治体:給与削減したところで雇用を増やせる状況にはない。
2. 建設土木業界が潤っていそうだが、経済刺激効果無し。
   ・この業界が繁栄しても、波及効果が期待できないことは、経験済み。
   ・この業界にさらにオカネを流せば、国債増発で長期金利上昇の可能性が出てくる。
   ・土木建築労働者数をいったん増やすと戻すことが困難になる。
3. 原発停止で国内経済規模は縮む一方。
   ・急激な節電や省エネで経済活動が抑制されてしまった。
   ・企業も家庭も消費抑制ムードに陥る。
   ・原発対策に経済刺激効果は期待でき無い。
   ・巨額な資源輸入費用流出でその分国内の富が失われた。
4. デフレが続くが、金融政策によるインフレ化は無理筋。
   ・国内投資先なき状況での垂れ流しは悪性インフレ化必至。
   ・バラマキ志向の短命政権政治だから、財政規律など画餅。
   ・長期金利急上昇が発生でもしたら、銀行総倒れの危険性あり。
5. キャシュフローマイナス企業だらけ。回復見込み無し。
   ・低利融資を糧にしてどうやら操業を続けている企業が少なくない。
   ・軽度の不況到来だけで地銀に不良債権山積みの可能性も。
6. 国内投資は、低迷しているが、この先も期待薄。
   ・グローバル企業で利益がでる分野は海外市場である。
   ・個人投資は海外に向かう。
   ・国内滞留マネーは銀行預金で、国債購入に回る。
   ・国内産業の活発化を図るような、目新しい政策は皆無。
7. 海外からの国内投資は、もともと少ない上に、減少傾向。
   ・衰退市場だらけと見なされている。
   ・敗退企業を退出させ無いので、収益性が悪い産業だらけ。
   ・海外からの投資に対して閉鎖的と見られている。
   ・進出のインセンティブが提供されない。
   ・幹部層にとっては居住デメリットが大きすぎる。
8. 唯一の成長エンジンたる東京の力が低下。
   ・アジアのセンター機能が競合都市より劣ると見られている。
   ・金融市場では、近隣年と比較すれば、劣位と言わざるを得ない。
   ・グローバル企業のアジアHQs転出例が少なくない。
   ・国際会議開催地として他のアジア都市が選ばれることが多い。
   ・失業率が下がるどころか上がる傾向である。
   ・羽田の24時間空港化ができないまま。
9. 日中関係悪化の場合、どちらの経済もさらに落ち込む。
   ・輸出はすでに激減状態に突入している。
   ・東南アジア経済圏は代替市場規模に育っていない。
   ・日本の政権は安定していないため、場当たり的対応になりがち。

ともかく、この状況を脱出しようというパトスは既成政党にはとうに失われており、唯一、「富国強兵」がモットーの勢力だけがなんとか突破しようという姿勢を示しているだけ。こうなる原因はバラマキで集票するシステム上の問題もあるが、既成政党の支持者の大半が無理してまでの経済成長を望んでいないせいもあろう。なにせ、高齢者だらけの社会なのだから。
今から、本気で成長政策を打たれなどしたら、苦労して疲れるだけ。それだけはご免蒙りたいというのが本音というのは、よく考えれば当たり前の話かも知れぬ。なんとか、今迄蓄えたお金でこの先ずっと生活できれるようにしてくれヨという訳である。従って、軽微なデフレ下での現状維持的生活を可能な限り長く続けてくれそうな勢力に政治をまかせたいと考えることになる。口には出さぬが。
その辺りを官僚はよくわきまえていると考えるべきか。

もしも、そういうことなら、平穏に沈没していく政策を考える必要がありそう。今のやり方では、長く続かない上、突然、ポキッと折れかねず危険極まりにない。・・・ともあれ、資源が乏しい国土だから加工貿易立国しかありえず、貿易収支を赤字にしてはならぬという感覚は捨て去るしかない訳だ。海外投資からのアガリで貿易赤字が埋まれば万々歳という方針に転換することになる。円安による輸出企業の大繁盛など狙わず、円高による輸入物価下落や、原油/天然ガス代金抑制の方がずっと重要になる。そんな経済の仕組みにせよという訳である。人口が1億を越える国では常識的にはあり得ない話。つまり、政策それ自体にイノベーションが求められている訳だ。


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