■■■■■ 2013.6.30 ■■■■■

  オバマ政権に踊らされたが、元の木阿弥のエジプト

就任1年目のモルシ大統領だが、退陣を求める大衆運動が盛んになり、宗教勢力も支持のデモを繰り広げ、両者の対立が全土で先鋭化している模様。経済悪化が背景にあるのは確かだが、ルクソール事件首謀者組織のメンバーをよりもよって知事に任命したりすれば怒りを呼ぶのは当たり前。お陰で、大統領が脱獄囚だったこともチクられ、もうどうにもならない状況。軍事政権復活もあり得る訳で、アラブの春どころの話ではなかろう。

普通に考えれば、こうなるのは初めからわかっていたこと。
それでも、理想論で着飾るオバマ大統領にとっては、それでも試してみたかったようである。カイロ大学の“New Beginning”演説(2009年6月4日)を思い出さずにはいられない。当時のメディアは、感動モノとベタ褒め。歴史的な快挙と評価していた覚えがある。
結果を見る限り、美麗なレトリックでしかなかったとは言えまいか。

アルジェリアの経験から、普通選挙を持ち出せば、チュニジア、リビア、エジプトといった国では宗教国家になりかねないことは古くからわかっていた筈である。インターネットの時代になったからといって、グローバル化とは表面的なものでしかなく、社会の基層文化が変わった訳ではないからだ。
制度だけ民主化らしく整えたところで、社会規範は以前のままだし、そもそも国家観は欧米とは異なるのだから、「自由の嵐」が国土を席巻することなどあり得ないと見るべきである。まあ、そんなことはわかっていても、自由を金科玉条とするオバマ政権としては、軍事独裁政権を支持することはできないということでの結論なのだろう。

どう考えたところで、エジプトの場合は、腐敗は避けられない軍事独裁政権か、人権無視の宗教国家の2者択一しかあり得ない。従って、先進国としては、利権を別とすれば、どちらが、より「悪」かという選択を迫られることになる。
今や一番の敵国と化しているイランにしても、宗教国家化を避けるために、インテリでもある親米派将軍のクーデターを支持する手もあった筈。そんなことをすれば、世界から、諸悪の根源たる米帝国主義と批判を受けることにはなるが。これが現実政治というもの。

もともと。エジプトにしても、腐敗している軍事独裁政権だったが、これより宗教国家の方が民主的と考える人はいなかったというに過ぎまい。
ただ、政治的イスラム教組織は弾圧されたが、非政治的とされる慈善活動は容認されていた。西欧でもないのに、両者が区別できる訳があるまい。モスクと一体化した医療等を中心として施しこそ政治活動そのもの。それは、西欧的な自由を封じるべしという強固な思想普及活動である。軍事独裁政権にとっては、根の部分で民主化の動きを摘むから有難い活動に決まっている。慈善活動は容認などというのは、西欧に対する表向きの表明であり、両者は対立していても民衆の自由抑圧では共通姿勢をとっているのでここでは協力関係にある。

エジプトの総人口は、8254万人だそうで、年齢中央値は24。95%はエジプト民族だそうだ。それなら、自由を求める若者達が主導すると考えがちだが、それは先進国に住んでいるから。そもそも、無職でどうやって食べているのかとか、そんな人達がどうして街頭運動を続けることが可能か考えてみれば、その構造の複雑さがわかろうというもの。しかも、どうみても、キリスト教徒は1割近い。その上に、様々な少数民族が居住している。多様な文化を共存させざるを得ない社会ということ。多数派の意向が自然に通るという風土からはほど遠いのである。ここでの一番の問題は、共通した価値観が無いこと。しかも厄介なことに、国家観まで違う。これでは、同じ土壌で議論する訳にはいかない。対立要素にはことかかない社会ということでもあり、そんな状態でスムースに国家を運営する必要があるなら、独裁しかなかろう。
イスラム教スンニ派のアラブ語民族
 ・聖書のハム系と自認する人々
   -古代エジプト人の直系
   -シナイ半島や西部砂漠の遊牧民のハム系ベドウィン
 ・聖書のセム系と自認する諸族(シリア・パレスチナ辺りを発祥の地と考える人々)
古代からの系譜たるアレクサンドリア教会系教徒
  (最古の福音書記載で知られるマルコが創建者とする人々)
 ・コプト教
 ・東方正教会
イスラム教スンニ派の非アラブ語/方言を使う部族
 ・西部砂漠オアシス都市のハム系ベルベル族
 ・ナイルデルタやファヨウム・オアシスのドム族
 ・南東部/サイーディ地区のベジャ族等の諸族
 ・アスワンのヌビア人
極少数のシーア派アラブ語民族
19世紀移住が多い少数民族
 ・ギリシア人
 ・ローマ人
 ・独、仏、英、墺
その他の少数民族
 ・アルメニア人
 ・トルコ人
 ・ユダヤ人


(記事)
Egypt braced for rival mass demonstrations 28 June 2013 Last updated at 10:58 BBC
エジプト:アッ=スィースィー国防相が警告「諸勢力が1週間以内に和解しなければ軍の介入も辞さない」2013年06月24日付 al-Hayat紙 [東京外国語大学 日本語で読む中東メディア]
(参考)
エジプト観光庁 エジプトのデータ/民族
嶋崎賢司: 世界民族博覧会 エジプトの民族


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