■■■■■ 2013.8.16 ■■■■■

 「心理学者が亀に恋した理由」読後感

ついついカメの素人話をしてしまった。(→ 「亀の穴について」 [2013.8.9])
そのついでといってはなんだが、少々前に読んだ本も取り上げてみたくなった。
カメをペットとして飼ったお話。
(ヒトより長生きする動物を飼うのはどうかと思ったが、愛情を注がれ楽しく過ごしたカメコはお亡くなりになってしまったそうだから、カメの寿命はそれほど長くはないのかも。)

小生の正直な読後感。・・・うーん、残念。
これでは、なんのコッチャと言われるか。

ともあれ、一度、お読みになることをお勧めしたい本。何故なら、飼い主が心理学者だから。

実は、かなり期待をしたのである。
ペットと言っても、カメは犬やチンパンジーとは全く違うから、心理学者の目にどう映るのか興味津々だったということ。いうまでもなく、生物学的観点でなく、社会性という観点で眺めたカメが見えてくるのかと思って。カメに社会性があるとは思えないから、土台「躾」は無理だろうし、せいぜいのところ、本能を利用した条件反射対応ができる程度だろうに、愛情を注ぐとはコリャ如何にというところ。・・・心理学で鍛えてきた学者の眼を通した深い洞察もありそうと踏んで。

しかし、読んでみると、どうもネ。
愛情を注いでしまうと、どうしても目は濁ってくるからだ。
逆に、そこが読み手には楽しいとも言えるのだが。

小生は、多摩動物公園の餌取りコーナーのチンパンジーを、1回30分ほどだろうか、他の観客が全くいない状態で何回か眺めたことがある。その経験だけで判断する限り、チンパンジーとヒトは頭の使い方は根本的に違うと言わざるを得ない。それぞれの個体で、微妙に「道具」を使う仕草が違うからである。これは上手下手の問題ではなく、道具使いを「模倣」する能力を欠くことを意味していると見た。つまり、他の猿の仕草をなんとなく真似しているだけ。そこには、目的を設定し、そのために何をどのように使うかという、ヒトの「道具」の概念は無さそう。これは学習ではない。
チンパンジーの行動とヒトの行動を比較しても無意味と悟った一瞬でもある。今迄、考え違いをしていた。

逆に言えば、カメの知能の意味を探る方が格段に意味があるとも言える。
一番のポイントは、カメに地図情報認識力があるという点。コレ、考えてみればカメにとっては当たり前の能力でしかない。水場に棲む動物だが、産卵場所は水から離れた場所。しかし、孵った稚亀はすぐに水辺に行けなければこまる。地図が頭に入っていなければ産卵場所に行き着ける訳がなく、即、絶滅の憂き目だ。従って、マンション室内程度の地図情報なら、多分、御茶の子さいさい。歩みはのろいが、活動範囲は広い動物であるに違いないからである。
だが、その能力をどう使うかは別な話。ここの観察が秀逸。様々な場面を指摘してくれている。これは、相当に高度な頭脳を持っていることになる。

しかし、脳味噌は小さいのである。
このことは、脳が、シンプルなモジュール構造になっていることを示唆している。つまり、地図情報モジュールと一般的判断モジュールがあり、必要に応じて両者が繋がるということ。A地点から、X地点へ行くにしても、A→B→Xにするか、A→C→Xにするか、判断できるということ。
お気に入り動物の認識も同じようなものでは。先ずはじっくり眺め、記憶に残す。そのようなモジュールがあるのだろう。南洋の島で散歩していて、1mを越すトカゲに突然出くわしたことがあるが、お互いビックリ。当然、しばし固まった訳である。その後、大急ぎで逃げていったが、この蜥蜴君、個体識別と一般的判断のモジュール間を繋ぐのに時間がかかったのだと思う。危機遭遇時の脳の回路とは別なのである。
ただ、モジュール連携機能のレベルは個体差がありそう。

まあ、それはそれ、なんといっても圧巻は、カメと先生および奥様の間でコミュニケーションが実現している点。カメのボディーランゲージを読みとる能力がヒトの側に身についているのだ。おそらく、逆ではない。どの動物でも、嬉しい、嫌いは、どこかに現れるもの。それを読み取って対応してくれることがわかれば、態度は一変するもの。条件反射型調教では決して得られない関係である。
これはあくまでもコミュニケーションの問題。従って、ヒトに限らず、犬猫と亀が仲良くなることも十分あり得よう。好奇心を持つ個体どうしなら、互いに気に入れば一緒に棲むことさえありえよう。両者の生活空間が一致してしまい、一緒にいる状態の方が両者ともに心地良いと感じるだけとも言える。もちろん、それを愛情関係と解釈することもできるのかも。
心理学者として、この辺りに切り込んでくれると面白かったのだが、それは無理なようである。なにせ、結論は、お世話になっているのは飼い主の方だというのだから。

そうそう、カメコの観点で、よさげな乗り石を見つけた話も示唆に富む。そんな石を探していた訳でもなく、ふと眺めて思いつく訳。これこそ、ヒトの創造性そのもの。あるいは、学習の仕方と言ってもよいだろう。それこそ、カテゴリー毎に博物学的になんでも情報を取り込み、目的意識に応じて、そこから連携情報を引き出して、推測する仕組みができているのだ。モジュールの種類が桁違いに多いとも言えよう。
言うまでもないが、カメの気持ちを理解している飼い主の想像が外れる訳はない。ところが、当のカメコはすぐに喜んだりしないのだ。そのくせ、実は大満足だったのである。実に、面白い。

(本) 中村陽吉: 「心理学者が亀に恋した理由」 毎日新聞社 1999


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