■■■■■ 2013.11.28 ■■■■■

政治家に必要な科学的見方

英国紙の科学記事は、良くも悪くも、毛色の違ったものがあるので、時々覗くことにしている。そこで見つけたのが、The Guardianの以下の記事。元ネタはNature論文。
Top 20 things politicians need to know about scienceBritish and Australian scientists compile a list of tips to help policy makers better understand the 'imperfect nature of science', by Oliver Milman

なかなか示唆に富むので、ついつい発想が広がってしまった。

1. Differences and chance cause variation
一寸した差異が、変化を生み出したりすることは少なくない。その「気付き」が大切。しかし、その多様性はただならぬもので、簡単に法則性を言えるものではない。この大原則を無視しているのが屁理屈屋。そこらじゅうで、大手を振って、チャンスを狙っている訳である。
2. No measurement is exact
そうなんですヨ。
科学機器で測定したから、「正しい」と顔を真っ赤にして主張する方々を見かけたことがあるが、要するに、実態は反科学カルト集団ということ。手に負えない。
3. Bias is rife
なんでも、目的ありき。従って、バイアスなきものなんて無い。
4. Bigger is usually better for sample size
対象サンプル数は、多いに越したことはないのは、誰だってそう思うが、重要なのはどうしてその程度の規模にしているのかを見抜く、「洞察力」では。
5. Correlation does not imply causation
アハハ。コリャ、初歩中の初歩。
だが、この原則は社会では99%無視される。なかには、結果と原因を入れ替えるという驚くべき因果関係を大法則として主張する政治家御用達学者もいらっしゃる。まあ、それが政治ということである。
学界が政治から無縁ということなどあり得ないから、よくよくご注意の程ということになろう。
6. Regression to the mean can misleadened anyway.
最小二乗法は回帰分析として余りに有名だが、ヘンテコな説明というか、ほとんど意味がなさそうな相関関係が解説されていたりすることもある。素人でもないのに、そんなことが発生していることから見て、この手の分析をすると、どうしても短絡的になりがちなのだと思われる。
それよりは、理屈に無縁そうなデータが混じっていたり、恣意的に特定データを排除した相関関係が示されているものもあるから要注意である。
7. Extrapolating beyond the data is risky
外挿での推定は多用されるが、内挿での推定とは根本的に違う論理だから、危険を孕んでいるのは、誰でも知っている。でも、まあいいだろうとなる。
8. Beware the base-rate fallacy
確率問題はどう扱うべきか、考えるべきである。
6割しか当たらない診断テストでも、やらないよりましと言う方もいる。なかには、99%当たらない診断テストでも、なにかやらないと気がすまない人も。当たることもあるのだから、やって欲しいとなるのである。もう滅茶苦茶な世界である。
小生は、おカネがたいしてかから無いなら、意味ないことでもやってもよかろうと考えるクチ。徒労でしかない議論に貴重な時間を費やされるほど馬鹿げたことはないと思うから。
しかし、長期的にそういう反科学の人達を作り出さないように、まともな教育を進めないと、事態は悪化一途である。特に、日本の風土は厄介極まる。この手の教育が大嫌いだからだ。政治家のいい加減さを指摘する人が増えると力を失いかねないためである。
9. Controls are important
プラセボ以下の効果しかなくても、確かに、「効果アリ」は嘘ではない。様々な影響下でのデータ収集なのだから、気付かない因子はいくらでもある訳で、それを考慮していない「お話」は信用ならない。
10. Randomisation avoids bias
恣意的な母集団選定が行われているとしか思えない報告だらけ。しかも、その結果から強引に結論を出すもの多し。それを使って大騒ぎさせることを職業としているジャーナリストもこれまた多いとくる。しかも、その尻馬に乗って、批判者を罵倒することで人気を得ようと図る政治屋も蠢いている訳だ。
これだけは、どうにもならん。
11. Seek replication, not pseudoreplication
真の再現性を理解できれが本物の学者だろう。それが地位を保証する訳ではないが。
12. Scientists are human
アハハ。
13. Significance is significant
そうそう、統計的に示された「有意」を無視するなは大原則。しかし、都合が悪いなら、その大原則を無視するという原則で生き延びる人達も少なくない。
14. Separate no effect from non-significance
うーむ。
そうなんだよなー。
15. Effect size matters
これは是非ジャーナリスト批判に使って欲しい。
針の穴か、はたまた、重箱の隅をつつくような、「有意差有り」のご託宣で大騒ぎさせるご商売だから、どうにもならないとはいえ。
逆に、効果の範囲が広いものは、たいていは一般的な話にしか仕立て上げられないから、ニュースにはしたくないのである。
16. Data can be dredged or cherry picked
当たり前のこと。
都合のよいデータだけ集める習性は珍しくもない。そこからほんの一歩踏み込めば、データ捏造になる。おカネと人事権を握る親分に、論文シナリオを示された上での実験で、期待に反する結果しか得られなかったらどうするかという問題でもある。
小生は、日本の仕組みでは、捏造防止は無理と見る。バレて問題視されているのは氷山の一角かも。
17. Extreme measurements may mislead
「極端な測定」はママ見かける訳だが、なんのためにそんなことをするのかを考えれば分かる話。故意に誤解を与えようと画策するカルト集団に、いくら言っても時間と労力の無駄だが、言い続けるしかないのがつらかろう。
18. Study relevance limits generalisations
一般化できそうな内容を含む研究ははなから少ないから、この項目にたいした意味はないかも。
そんな高度な話には興味がなく、流行の領域で、迅速論文化可能な「小さな」新規性を探すことにやっきになっている人だらけらしいから。
19. Feelings influence risk perception
まあ、リスクイメージとは情緒そのものでもあり、致し方あるまい。
米国の例がイイネ。・・・家庭の銃砲所有リスクは100倍の過小評価、原子炉の側に住むリスクは10倍の過大評価。
20. Dependencies change the risks
相互に様々な影響を与えている系であるのが普通であり、単純に1つだけ分析したリスクを見ていると、間違った解釈になりかねないのはわかっているが、なかなか全体像をつかんだ上でのリスク判定を下すのは難しいもの。

この手のご注意は、日本では、「一般的に」嫌われる。
学者は、当たり前と無視するだろうし、素人にしてみれば、自分の頭で考えるのは面倒なので、避ける訳だ。そのお陰で、穏やかで安定した風土が形成されているということかも。
ただ、権力奪取ゲーム好きな政治屋は上記のことなど「直感的に」百も承知で、それを利用する訳である。
たまらん話だが、ジャーナリストがそれを是とする社会だから、是正される可能性は極めて低い。

ちなみに、日本語で英文タイトルを検索すると、「食品安全情報blog」というサイトが引用しているだけのようだ。安全性試験は、上記のような問題に常時直面しているから敏感なのだろう。
でも、その領域にしても、1つのサイトだけというのもナントモ言い難きものがある。

(元の論文) Policy: Twenty tips for interpreting scientific claims, by William J. Sutherland1, David Spiegelhalter & Mark Burgman, 20 November 2013, Nature http://www.nature.com/news/policy-twenty-tips-for-interpreting-scientific-claims-1.14183

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