■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[12d釋水]■■■
篇十二迄進むと、「爾雅」の構造がかなり見えてくる。

冒頭から3篇とは、詩作に当たって、「雅語」を用いることのお勧め。
 引き続くのは、王朝詩人としてわきまえておくべき祭祀に係る単語一覧。ここらに無知の官僚は放逐されることになるのだろう。マナーとして、一通り覚えているつもりでも、該当文字を間違えずに読めるようにならないと一人前ではないことになろう。
その上で各種記述を学ぶ必要がある訳だ。叙景のための詩作では無いのだから、統治上重要な語彙が中心になる。
その上で草木蟲となる。自然を描こうというのではなく、帝国圏内での呼名をはっきりさせるためと考えた方がよさそう。博物学的発想とは異なる。・・・
 雅語(古語⇒代替語⇒熟語)
  宮廷祭祀公的語(親⇒宮⇒器⇒楽)
   <"天"用語⇒
      差配圏用語[(地⇒丘⇒山)⇒(水)]>⇒
    艸蟲之固有名称(草⇒木⇒虫⇒魚⇒鳥⇒魚 [≪欠≫ヒト]⇒畜)
・・・かなり独特のテースト。

時代的に遠く離れてはいるものの、日本国初の漢和型字書(昌住:「新撰字鏡」892年)を眺めるとその感覚の違いの大きさに気付かされる。(以下に示す如く、160部首しかなく、順列に関する説明も無いが、見たところ、ほぼ部首文字の字義で配列している様に見える。著者は仏僧であり、仏典読みが目的だろうから、儒教的センスを取り入れる必要性はほとんどなかろう。"others"を配しており分類観が確立していることがわかる。)
  日 月 肉 雨 風
  連火
 人 亻 親族
   身 頁 面 目 口 舌 耳 鼻 齒
           心 手 足 皮 毛
 色 疒 言 骨 尸 女
 髟 支 糸 衣 巾 罓
   食 米 酉
   門
 馬 牛 角 革
   舟 車 𭺜/瓦
   見 勹
  石  玉 田
 
 
   禾 𦓤 竹
    羽
   犭 鹿 豕 羊
   
   龜 
 走 斤 囗 點 阝 阝
 鬼 韋 辵 彳 忄 才/手
  广 大 罒 方 片
 戈 廾 文 示 戸 穴 刂 欠
 K 白 卜 殳
 (品字)
 麥 自
 (雜字) (重點) (連字)

「新撰字鏡」を眺めていて、序文の有無について考えさせられた。
・・・まともな書には必ず著者が責任の所在を示す文章がつく。そうでない場合は、成立後に、作成者に無断で手を入れて構わないことを意味していると考えるべきだろう。

「爾雅」は、その内容から考えて、官僚の必須能力である詩作ための手引き書。序文はもともと無かったと見てよいだろう。不要なのは歴然としている訳で。

一方、文字の宇宙秩序を示すために書き上げた「說文解字」や、倭語の文字表記を仕上げた「古事記」の場合、序文を欠くことなどあり得まい。換言すれば、序文あっての著作ということ。
もう一歩踏み込んで語るなら、「古事記」が用いている漢字は漢語の文字ではなく、すべてが国字化された文字ということになろう。
従って、漢語の母国語化を図ろうとしていた勢力は、太安万侶選定文字との同一用法を避けたいと考えたに違いない。

白川説だとどう見るのか調べていないが、同じ様な見解を示していてもおかしくないだろう。「說文解字」が分析書ではなく、文字宇宙の字体的秩序を提起した思想書であることに気付いて、甲骨文字の本質を探る決断に至ったとすれば、「古事記」は国字と考えるしかなかろう。
  

     

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