■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[16xx釋魚]■■■
魚は、生きたママでの輸送は無理だし、外観を保った標本化もできかねるので、せいぜいのところざっくりとしたイラストを見せながら言葉で説明するしか手は無かろう。いくら説明達者であろうが、現物を見せないで全体像を理解させることができるとは思えない。
小魚と幼魚を峻別できない以上、別種か同一種かの判定はえらく骨だし、類似種をあらかた実見していない限り、○○類という概念を受け入れるバリアは極めて高そう。
従って、名称は随意的に決まり易く、明らかな同一種であっても各地バラバラ状態だったに違いない。小篆案出官僚は、その統一を図る必要に迫られたのだから途方もない壁を感じたに違いない。
結局のところ、大雑把な類別用語を決めることができれば上々という程度で満足するしかあるまい。さらに深化させたいなら、魚の分類観の確立が不可欠だが、それが一朝一夕にできる訳がないからだ。

そんなことを考えると、魚の名称を表記する文字の決定はかなり悩ましいことがわかる。
従って、釋魚の記述は、「說文解字」の≪魚[水棲動物(蟲)]≫部編纂にかなり影響を与えている筈。

そう考えて、眺め直してみると、意義を【魚名】と記載する方式に、それが顕れていそうに思えてくる。

Fish固有名詞の公的命名として、一意的に決定した場合は【魚名】とし、そう簡単にすます訳にはいかなかった場合と峻別することにしたのと違うか。・・・
【魚名】・・・鮦 䱾 鰜 (鯈) 䱏 鯾 鱮 鰱 鮍 䱂 鮒 𩺀 鱺 鰻 (鱯) 鱏 鯇 䲚 𩻛 䱵 䱤 鱖 鱓 鮸 (A*) 䲐 鰸 鯜 䰽 䱡 魦 魦 鮮 鰅 鱅 鰂 鮅 𩽩 鯸 鯕 (鮡††) 𩵏 魮 鰩
【魚】・・・魼 𩹾 𩻜 鰫 鰫 鯀 鰥 鱄
【"A=B"型表記】
 鮪≒鮥≒叔鮥
 鯉≒鱣
 鱧≒鱯≒𩸄 
其小者名鮡††
 鰼≒鰌
 鮀≒鮎≒𩷑≒𩷑 鮷≒大鮎

 (鰕≒A* 鰝≒大鰕)

【魚名】文字案出に当たっては、文字設定の前に、いくつもある<特定地域で通用している呼名>から、中華圏内の公式名として妥当と思える1つを選ぶ必要がある。冒頭で述べた様に、鳥や獣と違って、特産を除けば、難しい作業になろう。
それが決まったら、その発音と同一の文字から、イメージ的に違和感なさそうな1文字を選んで旁とし、魚偏の合字を造ることになる。

わざわざこんなつまらぬことを書くのは、【魚名】文字以外も、部首の意符"魚"と音符の合字であるから、なんらかわらぬと考えてしまいがちだから。・・・両者の造字過程は全く違うと考えるべしというのが、「說文解字」が指摘したかった点と見て。
Fish固有名詞の音に合わせて、音符を選定したのではなく、もともとの呼称自体が当該音符文字の字義から生まれている場合もあるということ。

例えば、里の魚という意味での呼称が通用していて、それを文字表記すれば当然ながら里魚⇒鯉となるといった具合。(魚種がcarpとは限らない。)
つまり、【魚名】文字は実質的に表音文字としての造字だが、それ以外の文字はまるまる表意文字ということになる。

但し、「說文解字」は、甲骨文字の字体解説書とは目的が異なっており、文字発生の由来や原初を探ろうと企画されて成立した書ではないので注意が必要。あくまでも、小篆創作官僚が定めた字義と、それを統一スタイルの字体でどの様に文字表記したのかを解明することに主眼がある。換言すれば、小篆造字の根底には、文字宇宙には儒教秩序的哲学が存在しているとの思想を打ち出している訳で。

・・・「說文解字」は小篆造字方針を見抜いているというか、揺るぎない見方を確立していることがよくわかる。

なかでも特筆ものは、小篆前身文字として、篆以外に、少なくとも3種の主要別文字を紹介している点。さらに、後世確認された六国の独自文字の存在も古字ということで示唆している。
このことは、小篆創成に当たって、文字は以下の様に分類されたと考えることができると主張しているようなもの。・・・
  ① 正式書類用の王朝公定文字(小篆)
    及び、用途別の異なる字体系列に属す王朝公定文字
  ② 非公式の通用文字(記載上便利な小篆変体)
    及び、小篆と同音の、よりしっくりくる代替旁の文字
  ③ 異王朝文字(本来的別文字[異体字])
  ④ 上記外(非文字[王朝外使用の装飾デザイン化繪文字を含む。])
こう考えたとしたら、小篆創成官僚が、この3種文字を強制的に1つにまとめようと考える筈がなかろう。無駄なのは自明だから。
もともとの言葉自体が、時代と地域、身分や職制で全く異なっている上に、都合で突然変わってしまうのはよくある訳で。

要するに、現王朝での公式文字(1字義1文字対応)が設定され、その発音が王朝内で規定されれば十分。王朝外での発音統制をかけない訳で、次王朝での発音変更も自由自在。とはいえ、外国語王朝でなければ、それほど大胆な変更にはなるまい。

Fish固有名詞については統制箍が外れていることになる。標準文字を使用していても、その文字読み音は地域によっては音符に反している可能性も否定できない。それでも、経済圏広域化の進展で、当該文字使用は浸透していくことになろう。
しかし、異王朝由来文字は、単語自体が根本的に異なっているので、並立が続くことになろう。(現在の用語では、②と③の仕訳が曖昧なので、考える必要はなさそうだが。)
  

     

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