■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[18ka釋獸]■■■
ヒヒ話をしてみたが、動物比定に拘ると見えなくなってくる部分もあるので、ひとまず、それを忘れて。・・・

<猰貐 類貙 虎爪 食人 迅走><狒狒 如人 被髮 迅走 食人>は獸を指すとして検討したが、食人と見なすことにどの様な意味があるのかは定かではない。
「說文解字」も、前者はママ記載したが、後者の存在は信頼できる情報がなかったようで、それに当たるか否かはわからぬものの、記録情報を引用するに留めており結構慎重。
  ≪禸≫𥝋:周成王時 州靡國獻𥝋
      人身 反踵 自笑 笑即上脣掩其目 食人 北方謂之土螻
  ≪虫≫:北方肓蚼犬 食人
  ≪豸≫:猰貐 似貙 虎爪 食人 迅走
現在でも食人は、大蛇や大鰐では時に発生することがあるし、北海道の羆による登山者被害も知られているが、その程度で食人とみなさないのが普通。
しかし、「爾雅」の見方も同じかどうかはわからない。
現代人の様にカニバリズムを個々人の内面で絶対禁忌としているとは限らないから。・・・人食禁忌観は確立していただろうが、怪人・異人はヒトではない訳で。

実際、殷王朝では、戦争に勝利するとただならぬ数の捕虜を連行し、祭祀毎に生贄として供していた訳で、獸同様と見なすなら食人儀式が無かったと見なす根拠は極めて薄弱。
現代人的には、農耕労働力として活用するのが繁栄に繋がる道と考えるが、その手の発想は皆無だったところを見ると、カニバリズムの伝統を護持していた可能性は高かろう。

カニバリズムは獸の食人とは違い儀式的な色彩が濃く、トーテム族の戦争では勝利の宴ではかかせない行為だった可能性が強い。敵対者の強さを取り込む訳である。それは、高揚して異常な精神をきたしたからではなく、その本質は現代の本草的認識となんら変わるところがない。効果抜群とされれば、犀の角や獣の性器をなんとしても食したい願望が精神的古層に存在しているのは間違いないのだから。
「山海經」では食人記載はかなりの数にのぼっており、カニバリズムは当たり前の風習だったと見てもおかしくない。・・・
孔子は官僚の絶対的統治の実現を通して、この観念を封じ込める必要ありと語った訳である。それは、トーテムから人格的宗族祖、さらには天子-天帝への信仰へと改宗させる宗教改革でもある。当然ながら、個々人の精神領域を国家が統制する方向へと踏み出して行くことになる。

・・・と言うことで終わってもよいが、儒教国であるが故にその古代風習はそう簡単に消え去らないという点について触れておこう。

儒教はカニバリズムに否定的にならざるを得ないのは、トーテム部族信仰抹消という点から。天子の力を感じ取るのではなく、勇猛な敵将の力を頂戴するなどもっての他となる。
ところが、その一方で人肉食を肯定せざるを得ない場面にも遭遇することになる。復讐の義が宗族の子々孫々迄受け継がれるという思想からすれば、復讐のためには残虐であればあるほど称賛に価することになるからだ。(儒教では宗族による仇討ちは絶賛される訳で、正式には心臓を墓に供えて完了となる。従って、原初的には、この儀に心臓あるいは肝を食す風習が付随していた筈。)そうした風習を避ける言動とは、復讐連鎖を避けるために知恵を働かせる必要があるというプラグマティックな観点から。本来的には、社会安寧のために殺人刑罰が設定されているにもかかわらず、仇討ちに限っては軽減すべしとなるのだから、人肉食も容認せざるを得まい。
(「新唐書」玄宗期に記載されている以上、中華帝国では、高官死体を食す、みせしめ的復讐儀が存在していたのは間違いない。但し、仏教渡来後の譚なので、この時点での事実ではなかろうが、それはあって当たり前と考えられたことがわかる訳で。
わざわざ仏教に拘る必要があるのは、虎への捨身の教えがあるからで、儒教国家ではこれが飢餓に直面すると親のために肉を提供すべしとなる。全く異なる、孝の思想に転換された訳で、そんなことが可能なのは人肉食になんらの抵抗感なき社会だったことが歴然としている。当たり前だが、人肉自体に絶大な効用があると見なされていなければ、この話は成り立たない。)


食人@「山海經」
 [南山経]
    ▲青丘之山的獣九尾狐・・・9尾 嬰兒音→豺/Dhole?
    ▲浮玉之山的獣・・・牛尾 吠犬音→獅子の一種?
    ▲鹿呉之山的獣蠱雕・・・水棲有角嬰兒音
 [西山経]
    ▲昆侖之丘的獣土螻・・・四角
    ▲三危之山的獣𢕟𢓨・・・白身四角披蓑
    ▲的獣窮奇・・・[針鼠]毛 狗鳴
 [北山経]
    ▲少咸之山人面的獣・・・赤身馬足嬰兒音
    ▲北嶽之山的獣諸懷・・・四角人目
    ▲鈎吾之山人面的獣・・・目腋下虎齒人爪嬰兒音
 [東山経]
    ▲空桑之山[=首]的獣・・・虎文欽音自
    ▲鳧麗之山的獣・・・九尾九首虎爪嬰兒音
    ▲北號之山[=首]的獣・・・赤首鼠目豚音
   鬿・・・白首鼠足而虎爪
    ▲人面的獣・・・黄身赤尾嬰兒音
 [中山経]
    ▲濟=首▲W諸〜▲蔓渠人面身獣馬腹・・・嬰兒音
    ▲釐=首▲鹿蹄〜▲玄扈的獣犀渠・・・蒼身嬰兒音
 [海外南経][海外西経][海外北経][海外東経]・・・n.a.
 [海内南経]
    【梟陽國】的獣・・・水棲 龍首
 [海内西経]・・・n.a.
 [海内北経]
    【鬼國】的獣・・・青
      的珍獣窮奇・・・有翼 所食被髮
 [海内東経]・・・n.a.
 [大荒東経][大荒南経][大荒西経][大荒北経]・・・n.a.
 [海内経]
    【鹽長之國】・・・龍首
  

     

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