■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[19cx釋畜]■■■
<夏羊@毛刈後summer>と記載したが、果たして"Summer sheep"なる用語があるのかは不明。ここでの夏が四季を意味していると断定できる訳でもない。春羊や秋羊が記載されていない以上。

些細な話だが、この解釈は大問題でもある。

釋詁では、字義はbig。summerではないからだ。・・・弘 廓 宏 溥 介 純 幠 厖 墳 嘏 丕 奕 洪 誕 戎 駿 假 京 碩 濯 訏 宇 穹 壬 路 淫 甫 景 廢 壯 冢 簡 菿 昄 晊 將 業 蓆…【大】
つまり、夏羊=大羊ということで、なんだそれだけのことかとなろう。

しかし、言うまでもなく、この記載以外に"夏"は四季として度々登場する。従って、「爾雅」に於ける本義はあくまでもsummerとすべきだろう。このことは、[古]big→[拡張]summerという展開を示唆していることになろう。
ところが、「說文解字」の記述はその見方を否定している。
原義は"big"ではなく、"summer"でもなく、"中國之人"。
比類なき洞察力と、卓越した概念思考の著作だからこその書きっぷり。まさに、恐れ入り谷の鬼子母神。

要は、こういう流れ。・・・

⇒夏

甲骨@殷朝[太陽]+[突出人頭的人形]
  …[元義]一人在日下 舉頭見日(→天氣酷熱→夏季)
小篆@秦朝:頁+𦥑[兩手]+[兩足] & 日省略
  …[原義]中國(中原)之人(→水名→國名)
隸書@漢朝:𦥑省略
  …[今義]四季のsummer

甲骨文字研究が進んでいると思われるが、その字形と用例から信頼性ある推定字義が次々と見つかって行く筈だし、それによって、時間軸が見える形での字体の系譜が明らかになっていくことだろう。
その結果、「說文解字」の記載している字義は間違っていると見なす風潮が固まって行くことになろう。

ここで注意すべきは、それは分析思考の結果でしかない点。
小生は、これにたいした意義を感じないクチ。現時点ではバリアだらけなのでまだまだ難しいが、コンピューターでたちどころに解析できる様な分析課題と考えるから。
白川論の如く、概念思考で「說文解字」の難点を指摘しないと議論にならないからでもある。(白川論は、特段の証例を示さないことが多く、大いなる違和感を与える主張もあるが、漢字の本質を提起しているのだから、そうならざるを得ない。)
分析思考の枠内で考えるなら、上記の"中國之人"は誤謬と見なすことになる。(ただ、歴代天子の心の絆でもある、夏國[おそらく異民族の国家だろう。]という名称については、お茶を濁す程度の説明しかできないことになろう。)
この手の見方だと、おそらく、「說文解字」所収の2〜3割の文字の字義は誤っていることになり、将来的には、参考にすべきでない字書ということになってもおかしくない。
しかし、小生は全く逆である。
「說文解字」の概念思考の徹底さはお見事としか言えない出来だからだ。(儒教的文字宇宙世界の秩序を論理的に記載している訳で、漢語世界の根底を見せてくれる書になっている。現代の為政者がそれを好むかは何とも言い難し。何時、迷信的反科学の書とされてもおかしくないが、現代の漢語族の精神世界はここで描写された状況とほとんど同じなのは間違いないと思う。)

「說文解字」では、漢字は官僚がその王朝の方針に沿って創作規定するものであるとの見方は微塵たりとも動いていない。(白川論とは全く違う。)
だからこそ、対象母集団を揃えて、彼らの考えた<規定字形イメージ=公定字義>を探るべきとなる。金文の存在を知っていると書いており、古字や大篆についての知見も豊富なことを伺わせる記述だらけ。だからこそ、徹底的な小篆字形からの字義推定に注力したことがよくわかる。(死罪の罰則付きの焚書に踏み切って、公定字体と規定字義使用を全土に強制したのであり、その時の官僚が決定した規定字義こそ原義とすべきとの考え方は極めて論理的。尚、隷書とは、筆記容易化のために、小篆の字体を替えたに過ぎない。字形を読み取ってもたいした意味は無い。おそらく、字形の用途別揺らぎ容認の筈。)
  

     

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