■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[19i釋畜]■■■
釋畜が特別設定されているお蔭で、「說文解字」を眺めると、様々なことが見えてくる。
例えば、霊妙な四種の瑞獣、四霊(神)の見方。・・・
   麟鳳龜龍 謂之四靈[「禮記」禮運]
     2文字化の為に鳳凰 霊龜 応龍/竜と記載されることもあるが、
     漢語である以上、元はこの1文字。

   五行的には天之四霊…東-青龍 南-朱雀 西-白虎 北-玄武。
             さらに加えて中央-麒麟 or 黄竜。

解釈は色々あるだろう。後世の1000年以上にわたる負託的な様々な推定由来提起が重なりあっているから、おそらく整理するのも一苦労。しかし、これを錯綜と見るか、大同小異と感じるかは、ヒトそれぞれ。

小生は、今迄提起された中におそらく珠玉の逸品があろうとの見立てだが、探す気は無い。しかし、その糸口になりそうな点だけは指摘しておきたい。

先ず、押さえておくべきは、現代人なら常識的知識であるこの<四霊>的記述が両書ともに見られないこと。もちろん、「詩經」でいずれも用例があるにもかかわらずだ。
なにか厄介なことがあるに違いなかろう。

と言うことで、4靈を順番に見て行こう。・・・

⓿この場合、大前提となるのが、ヒトの所属。人の祖的神霊は史記記載の最初の天子ということになろうが、分類的には裸蟲という位置付けとなる。
(儒教の民には創造~信仰が存在しないので、ヒトも動物も造形物ではなく、絶対的存在となる。そこでの生物類別とは創造神の意志の分析検討結果ではなく、そこ存在するヒエラルキー概念。)

❶筆頭は、有角たる≪鹿≫類の祖的神霊。シカは有角だが落角するので、毛蟲全体の祖的神霊とも見なせる。
・・・ココが肝。どうして喰われる対象の鹿が猛獣や有用動物を抑えてトップの地位に君臨するのか考える必要があるからだ。「古事記」から想定すれば、倭国では、亀甲ではなく、鹿の肩甲骨が~のご意向伺いに用いられていたことが伺えることでもわかるが、特別扱いすべき対象だったのは明らか。儒教の"仁"に適合する性情の"大鹿"の伝承譚が存在していたことを伺わせる記載がある以上、そこらを糸口として検討すべきだろう。
<釋獸>
麋…牡 麔 牝 麎 其子 䴠 其跡 躔 絶有力 狄
鹿…牡 麚 牝 麀 其子 麛 其跡 速 絶有力 𪊑
麕…牡 麌 牝 麜 其子 麆 其跡 解 絶有力 豜

 麒:仁獸 麋身牛尾 一角
 :大牝鹿
麟之趾 振振公子 于嗟麟兮 麟之定 振振公姓 于嗟麟兮 麟之角 振振公族 于嗟麟兮 [「詩經」國風 周南 麟之趾]*
驚いたことに、「爾雅」は無視。
そんな鹿類動物は存在していないという姿勢で臨んでいることになろう。
「說文解字」は、文字が存在している以上、淡々と実在の鹿類として記載することになる。正反対の考え方。

❷次が、字体上、いかにも風の神という風情を醸し出している<鳥>類、つまり羽蟲の祖的神霊。
【天子瑞兆】として知られる。
<釋鳥>
鶠 鳳 其雌 皇   皇 黃鳥
 :神[鳥+凡]
 凰:n.a.
鳳皇于飛 翽翽其羽 亦集爰止 [「詩經」大雅 生民之什 卷阿]
要するに、凡鳥。さらに、♂♀番ということで、皇を創成して2文字化。羽蟲である以上、風神以外にあり得まい。しかし、おそらく風鳥を意味している訳ではなく、始祖鳥的コンセプトだろう。

❸ここから大きく変わって、甲蟲とも言えそうな<龜>類。
甲という外骨格構造からすると、昆虫を始めとする節足動物系の全てを包含する生物類の祖的神霊。
大海のなかで陸を支えるとの天竺型宇宙観を彷彿させるのは、天地に直接関与する神霊とのイメージがあるからだろう。
<釋魚>
龜 俯者靈 仰者謝 前弇諸果 後弇諸獵 左倪不類 右倪不若
 :舊 外骨内肉
   [它 龜頭與它頭同 天地之性 廣肩無雄 龜鼈之類 以它爲雄 象足甲尾之形]
周原膴膴 堇荼如飴 爰始爰謀 爰契我龜 [「詩經」大雅 文王之什 緜]
甲骨・金文は見た瞬間にカメと解かる縦の簡単な絵文字だが、それを複雑で覚えにくい16〜18画にする理由がよくわからない。𮯜に至っては21画。字形もどこか変では。屮x2で片側しか無いし、頭と4肢を収める箱状甲羅の☒(吉凶占卜用)がその横にある。亀頭が横長になっているのも解せぬ。どう考えてもかなりのデフォルメデザイン。

❹最後は、【九似】角似鹿 頭似舵 眼似鬼 項似蛇 腹似蟹 鱗似魚 爪似鷹 掌似虎 耳似牛の想像上の生物由来とされる<龍>類。
「爾雅」では収録文字ではないが、≪艸≫との合字があるから、あえて外したと思われる。その理由はおそらく鱗蟲之長なので。有鱗代表と言えば、魚であろうが、その篇は亀を所属させた領域なので同居させるのに抵抗感あっておかしくないし。ヘビやトカゲと一緒に独立篇にすると魚はどうするかで立ち往生してしまう訳で。
(どの篇に収録すべきかとなれば困惑せざるを得まい。鱗蟲なら、釋魚に収録となろうが、水神的色彩は目立つものの、躊躇して当然だろう。純粋な水神なら、釋水でよかろうが、その世界は河伯という土着神が差配していてその長という訳にもいくまい。気分的には、釋天と行きたいだろうが、神霊扱いといっても、動物の姿であるからこれも無理。しかも、様々な動物を寄せ集めた格好へと高めた祖的神霊なので、特定動物類に所属させることも難しくなってしまった。)
≪艸≫文字(繁茂して樹木を亡ぼす草)を動物文字と並べることには抵抗感があるものの、𦱉や𦱸は龍の異体字だから、なんらおかしなことではない。いかにも草陰に潜む姿を現している様にも思えてくるし。
<釋草>
蘢 天蘥  紅 蘢古 其大者蘬[大紅蓼]  拔 蘢葛[虎葛]
 鱗蟲之長 能幽 能明 能細 能巨 能短 能長
    春分而登天 秋分而潛淵[肉 飛之形 童省]聲
四牡孔阜 六轡在手 騏駵是中 騧驪是驂 龍盾之合 鋈以觼軜 [「詩經」國風 秦風 小戎]
甲骨・金文はいかにも、長い胴体〜尾をくねらしている見慣れない生物という印象を与えるが、龍という文字は、明瞭な偏[𦚏]と旁[⺊+己+三]からなる合字の形状。このデザインに変えて何を表現したいのか理解に苦しむところだ。コンセプトのハイブリッド化だろうか。・・・竜は龍の偏である𦚏に尾を付けた字形に映るので、省略形と見るむきが多いようだが論理性を欠くので注意した方がよい。𥪖/𠊋との異体字が存在しており、字形的に甲骨・金文を引き継いでいるのはどう見ても竜系であって、旁を加えた龍ではないからだ。(鱗蟲ということなら、竜とは揚子江鰐+大錦蛇の祖形を意味している可能性があるし、竜はコブラかも。)

さて、ここからがimplication。

造字は当該官僚の仕事であると見なしている以上、四霊文字とは、毛蟲 羽蟲 甲蟲 鱗蟲の代表を意味している訳で、これが想像の生物と見なす発想には、実はかなりの飛躍がある。なんの証拠もなく、官僚がフィクション動物を生み出せる筈もないからだ。当該王朝の帝の意向を忖度して尾鰭を付けたり、理屈を考え出して字形変更や解釈替えをすることは朝飯前だが、創造力を発揮することはご法度と考えている筈。

つまり、麟鳳龜龍の元義は、実在動物である可能性が限りなく高いということ。換言すれば、いかにも空想動物的様相としか思えない字義になっているとしたら、どういうことが発生したのか考えればよいということ。極めて単純な話だが、解答がすぐに導きだされる訳ではない。

例えば、大牝≪鹿≫との指摘があるなら、ママ受け取るべき。ただ、それは麋 鹿 麕の範疇には入らない。つまり、早くに絶滅したことを意味しているに過ぎまい。牝系であって、女王を補佐する立派な牡達が統率する大規模な群だったことが想定される。ヒトはこの動物のお蔭で命を繋ぐことができたからこそ、尊崇の対象になっていると考えるのが自然だ。

さらに、4靈とは、易的考え方が根底に流れているのだから、陰陽2組的な様相を示す様に設定されている筈で、ここらも十分考慮しておく必要があろう。
鹿肩甲骨⇔亀甲羅という占卜の組があると考えるなら、祖的神霊である以上、もう一組は風神鳳⇔水神龍と見なすのが妥当ということになろう。後者の組は、化石の姿と関係している可能性も高い。現実に存在していない巨大な羽蟲と鱗蟲の姿を化石から想像していてもなんらおかしくないからだ。

ここで注意が必要なのは、この出自話と、"東方蒼龍"が直に繋がる訳ではない点。この語彙は、星宿(4方角x7宿:大雑把な見た目[非数学的]分割)へ龍を当て嵌めただけ。(「爾雅」28星宿の記載は手抜き。)上述の"春分而登天 秋分而潜淵"の通り、指標星宿群を眺めることで季節が判定できる仕掛け。この程度の星座表現でしかなく、文字の意味もほぼ自明。・・・角[龍両角horn] 亢[龍頸/咽喉nech] 氐[龍前足/爪/天根root] 房[龍腹/胸房room] 心[龍腰/心heart] 尾[龍尾tail] 箕[(尾擺動引発旋風)/簸箕winnowing basket]。有角なので、対象生肖の当て嵌めが難しい訳だが、それを除けば、"鱗蟲之長"とする以上、一番近い現生生物は爬虫類の揚子江鰐と考えて間違いない。(天竺なら猛毒のコブラか巨大錦蛇となろう。仏教伝来時にさらに重層化された筈。)
この見方、"角"を恣意的に無視している訳ではない。唐代の書「酉陽雑俎」では、角は昇天に必要な術棒と見ていると思われ、鰐が空を飛ぶことができるのは、角的被り物の威力というに過ぎないのである。ここだけの話では突拍子もない作り話に映るが、それは現代人のセンス。昇天とは死者を船で運ぶ行事だった時代であり、その舳先には必ず鳥羽あるいは、両角(ムフロンタイプ)が存在していたのであり、それを考えれば、極めて妥当性が高い指摘と云えよう。
絶滅危惧種の揚子鱷[ヨウスコウワニChinese alligator]以外に、長吻鱷[マレーガビアルfalse gharial] 灣鱷[イリエワニsalt-water crocodile]の棲息域だった可能性も。

* 「詩經」周南 麟之趾は趾(蹄)+定(額頂頭)+角ということ。 麒麟@アフリカ=キリンgiraffeとされるが、長頸鹿/(麒麟鹿@台湾語)ということでもあるから、それはそれで通用するものの、「說文解字」の記述から見ると、異なる動物と見ることもできる。
  麒:仁獸 麋身牛尾 一角
  麟:大牝鹿scaly anteater  狷羚ハーテビーストhartebeest(…アジア圏では絶滅)

  
  "羽"
     

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