■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[19k釋畜]■■■
釋畜が独立している理由は定かではないが、漢代の官僚にとっては、インパクトが強かったと見てよさそう。そんなお話をしてみたい。・・・

「說文解字」最終巻記載の<十二支>@全部首記述完了は、生肖の欠片さえ全く感じさせない字義が並んでいる。どちらかと言えば、「古事記」型、植物の息吹的で、生育段階的な生命活動表現に映ってもおかしくない。
しかも、最後の文字"亥"から、最初の文字"一"へと繋がることを意味する字義まで記載している。

ところが、突然にして、動物名の当て字使用が始まる。文字はそのママでもかまわず、小篆で設定された字義が生肖へと強引に変更されてしまう。過去は消し去られた如くに。

これほど大胆な変換が推進されたにもかかわらず、表面的には、「爾雅」からも、「說文解字」からも、その辺りに関連していそうな情報が全く見つからない。驚くべきこと。

周辺情報を参考にすると、このことは、生肖化が漢代に突然発生したと見ることもできそうな気がしてくる。・・・そうだとすれば、十二支動物を細々と検討したところで、間違った見方に引き込むだけになりかねない。 
📖十二支文字考@2014年
つまり、グローバルな帝国と自任する以上、天文上の用語を訳のわからぬ表現でなく、正確に伝えることができる文字にする必要性ありと王朝内で衆議一致した結果、動物名化が粛々と進んだということになる。

そうだとすれば、その展開は想像がつく。
理屈では、12動物を選ぶ方法は色々あろうが、儒教国としては、尚古第一。参考にすべきは「爾雅」の動物の取り上げ方しかない。しかし、釋獣がそれに役に立つとはとうてい思えない。分類観など感じられないし、ここから代表などとても選べたものではない。

そこで目立ってくるのが、釋畜の存在。【六畜】で結んでいるから、これを選ばない手はなかろう。

そうなれば、残り6種の選定はそう難しくない。
ただ、現代人の分類観では無理。「說文解字」が示してくれたように、儒教国の分類の基本パターンは<六書>であり、6分類とは樹状にはならず、<A v.s. B + α v.s. β + ━ v.s. |>発想となる訳で、この<陰陽>的見方で選ばれることになる。
但し、六畜で閉じていないから、<牛⇔羊 馬⇔狗 彘⇔鷄>をママ使う訳にはいかない。

言うまでもなく、【畜】と言っても、もともとは野生動物で、それを馴化したにすぎない。従って、それを根幹とするなら、他の6種の生肖も、飼われている動物を当てることになろう。
王朝には、天子の庭たる立ち入り厳禁の立派な植物園があり、当然、それなりの動物飼育もなされていた筈。それができた動物が選ばれることになる。陰陽的2項対比の形式を踏んで6組が編成されることになろう。ただ、魚類の様な水中棲は分離飼育が困難なので、生肖候補からは外される。
特筆モノは雉の回避。(乾為馬 坤為牛 震為龍 巽為雞 坎為豕 離為雉 艮為狗 兌為羊 [「周易」說卦傳 第八章])

①(生贄)直角 巻角----------
【牛】
  …角が立派な犀を並んで選定する訳にはいかない。
  【羊】
  …山羊や羚羊、鹿の一部も含む概念。
②身大 身小----------
  【馬】
  …羆が選定できないのは馬が選定されているから。
   8尺を凌駕する飼育可能動物はいまい。
 鼠/鼡
  …モグラは不可。守宮も不適。
③(肉食)隠牙 脅牙----------
  
  …猫でもある。豹は檻飼育不適。
  【狗】  
  …牙獸的畜。
④嘴 齧歯----------
【鶏】  ≠
  …猛禽、燕、雉、鳩、鴨等々候補だらけ。
   曙/長鳴鳥に限定した訳だ。
   兎
  …月光動物。ただ、大型齧歯類は代替候補。
⑤鱗蟲----------
 龍 (淡水鰐でもある。)
  …龜/亀にしなかった以上、代替動物無し。
 蛇
  …類似と見なせる動物は無い。
⑥家族----------
 猴
  …大/中型の猿。
* 【猪】  
  …畜であるからブタであってイノシシでは無い。
   和語には無いので、飼育のヰの子/ウリ坊。

五行陰陽に当て嵌める算段としては以下が知られている。儒教学者お得意の"理論化"。・・・
[五行] 水  濕土 木  火  燥土 金
[陰]  子  辰  寅  午  戌  申
[陽]  亥  丑  卯  巳  未  酉
尚、上記の畜的分類を方位対向軸として取り入れると、十二支の順番が乱れてしまう。順番に合わせた2項分類は無理があろう。ただ、半分は当て嵌まる。
 子─丑─寅─卯─辰─巳
 午─未─申─酉─戌─亥
面白い詩もあり、説明不能ということでもあるが。・・・
 朱熹:「十二辰詞卷掇其餘作此聊奉一笑」@「欽定四庫全書」宋詩鈔卷六十
  夜聞空簞齧饑鼠 曉駕羸牛耕廢圃 時才虎圈聽豪夸 舊業兔園嗟鹵莽
  君看蟄龍臥三冬 頭角不與蛇爭雄 毀車殺馬罷馳逐 烹羊酤酒聊從容
  手種猴桃垂架緑 養得鵾雞鳴角角 客來犬吠催煮茶 不用東家買豬肉

漢代墓からは"石六畜+石魚"が出土しているように見える。以前からの墓制ではなさそうだから、「爾雅」釋畜の影響かも。石像の伝統としては、あくまでも"石龍"と"石虎"。石食材像あるいは石生贄像の伝統があったとは言いかねるせいもある。尚、この9石以外に、"石象"や"石駱駝"等も出土しているから、天文的な発想の石像ではなさそう。・・・但し、こうした石像情報は僅か。従って、母集団は余りに小さい。しかも、網羅性不明の出土リストに"石六畜"が含まれている程度の記載からの推測なので、常識的には、極めて偏っている見方。間違いの可能性もある。


*"亥"[一人男一人女]は"猪"とは無縁。「說文解字」では、十二支文字は、ヒトに関係する表現との統一性から各文字の字義を推定しているが、最終文字"亥"の字体を<亥⇒一>的循環コンセプトに繋げる上で、男女ペア文字との見方がどうしても必要になったと言えそう。この見方はよくできてはいるものの、12文字に適応すると、かなりの無理も目立つ。<亥⇒子>循環の見方の方が自然だろう。この場合、植物の一生を当て嵌めるだけでよいから、容易に説明できるし。

【付記】中華帝国は完璧な官僚統治を目指すので、尚古事大主義の統治システムが隅々まで浸透している。従って、分類に基本理念や西洋的論理など不要であり、当該王朝のドグマに合わせたご都合主義で決められるに過ぎない。天子のご意向とあらば、儒教道徳(宗教)に反しない限り独自ルール確立は当然のこと。逸脱が酷いと認定したなら、革命の道に進むだけの話。・・・英才と自負する官僚の知恵は、理屈創出と詳細化に注がれ続ける。従って、素晴らしい出来映えになるのが普通。しかし、邪魔な理屈と見なされた途端に跡形もなく消去されることに。
例えば、象や犀は常識からすれば以下に当て嵌まらないが、だからといってそこに何の問題もない。・・・
以土會之法辨五地之物生:
 一曰山林 其動物宜毛物 其植物宜阜物 其民毛 而方
 二曰川澤 其動物宜鱗物 其植物宜膏物 其民K 而津
 三曰丘陵 其動物宜羽物 其植物宜核物 其民專 而長
 四曰墳衍 其動物宜介物 其植物宜莢物 其民皙 而瘠
 五曰原隰 其動物宜祼物 其植物宜叢物 其民豐肉而庳
   [「周礼」地官司徒 第二 大司徒之職]

  
     

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