■■■ 小篆文字検討@「說文解字」「爾雅」[吠哭器]■■■ #022≪口≫吠:犬鳴 犬部首に所属している訳ではない。 #377≪犬≫【犬】🅱 当然ながら、犬以外の口部首の"ほ-える"文字があり、都合4種存在することになっている。 そのためか、暗記が推奨されていそうだが、使用場面が僅少化している文字だらけだし、字義の定義に概念性が欠落していて曖昧なので、早晩、1つに集約されることになろう。例えば、<咆哮>シーンを見ることなどおよそ考えられない訳で。 吠/𠲎…犬(狗叫) 吼…獸 咆…猛獣 or 包声(口をつぐんでこもった音) 哮…大声で"さけぶ"如く("たける") or 太い声 others…吽@阿吽 嘷/嗥/噑 虓 英語と比較すると、オノマトペ由来という点では大して変わらないが、音と並行に、動詞語彙化されているのでどうしても差を感じさせる。 bark "bow wow"…ワンワン growl…ウーウー(低い唸り声) howl…ウォーウォー(遠吠え) whine…クンクン yelp…キャンキャン(小型犬の興奮声) roar…ガオー(低くて力強く吠える声) 和語の場合は、重畳型擬声語を好む社会文化が定着している以上、致し方ないが。 現代では、すでに犬は家族の一員化しており、様々な音で意思表示することを十二分に知っていながら、それを言葉上で分類する抽象化に進めるつもりは無いと見てよさそう。馴化育種に精を出した英語圏とは、表面的には同一に見えても、東アジアのペット扱いとは文化的に異なっている可能性もあろう。 ・・・こんなことを、ついつい書いてしまうのは、犬文化を読み取るのは簡単では無いという、おことわりを書いておきたかったから。 すでに触れたが、"臭"と云う文字は、日本国の文字官僚創成文字。常識で考えればわかるが、下部が大文字な筈がなく、犬文字の"臭"である。知識として得たというより、"嗅ぐ"という言葉を習えば気付かない訳が無い訳で。 もっとも、もともと出自的に可笑しな文字である。Mouthで食中に感じる意味ではないから、齅が正字の筈なので。 同様に、と云いたいところだが、知識として得たのが"器"こと"うつわ"である。まさか、これが大でなく犬文字"器"とは。こちらは、どうして犬にしておくのか、とえらく立腹するお方がいて当然。そりゃ、大にするしかなかろう。 そういう状況であるだけに、この字についての解釈は論理性を欠くことになる。 Mouthという文字を祭祀容器と見なせる必然性皆無と語る人は少なくないようだが、そんな人達が、どういう訳かこの文字になると様々な容器の存在を意味すると見なすらしい。・・・ただ、間違えてはいけないのは、こうした見方を"間違い"とすべきではない。文字とは、王朝毎に体系化され、字体と字義が確定されるもの。語源解明とは、当該王朝の字形字義の設定に役に立てば満点。それだけのこと。 見るべきなのは、個々の文字ではなく、各王朝が築こうとした体系の本質。それを見極めることができて、ようやく字体と字義がどう形成されているのか分かるのである。(例えば、簡体字とは、毛沢東の<表音文字化>は歴史的必然という一言に忠実に進めた成果。できる限り表意性を薄めながら、楽に継承するとの離れ業。しかし、流石に、日本の紅衛兵の様に、慶応を{广+K}{广+О}と化す所までは踏み切らなかったから大成功。お蔭で、繁体字は早晩不要と化す。この流れは、日本国が進めた、犬→大の1画省略の方針とは、似て非なるもの。こちらは、あくまでも<字形印象⇒字義>を保持しながら、書体筆順上の統一規格確立を優先した減画のようだから。) そもそも、{mouth+dog}が、何故容器の意味になるのか説明に窮するのは当たり前。その手の文字がはたして甲骨に存在するものかさえ、はなはだ疑わしい。それなら、この文字は一体なんなのか。 もっとも、字体論者はそれなりの解答を提供してくれている。100%納得できるとは言い難いものの。・・・ ①#045≪㗊≫器/𬑀:皿(犬所以守之)[象器之口]receptacle 「爾雅」釋畜を踏まえて、犬文化を十分に検討していることがわかる解釈と言えよう。番犬が皿を監視していると言われると違和感を覚えるだろうが、絹の道とは違い、山森域の茶の路では20世紀迄普通の風習だった。(いかにも獰猛そうで近寄り難い4頭一組のチベット系大型犬がキャラバンに加わる。宿泊地での荷物番とされるが、毒薬を盛られかねないので、食卓準備の見張り訳もこなす。) ②口は祝詞を納める器。 (金文の字形によると、)犬は殺されている形である。 犬牲を以て清めた器は、 祭器・明器・礼器として用いられる。@「字通」 一般に、お清めとは、液体で洗い流す行為を意味し、聖水や牲血が用いられる。(煙を用いることもある。倭人は鹽水。)牲は神や精霊に奉げることを指し、降臨あるいは何らかの代替が下賜されることが目的だから、概念が異なると見たがそうでもないらしい。 器とはもと彝器をいう。 彝は鶏血を以て清める意の字である。@「字通」 器 猷 就 軷などに従う犬は みな修祓のために用いるもので、 その血を以て釁礼を行うもの・・・ およそ祭器として用いるものは、 みな獻という。@「字通」 もっとも、この文字自体が、犬牲と数々の呪的容器を用いる祭祀の存在を指すならわからないでもないが、犬が第一義的牲とも思えないので広範過ぎる印象は否めない。(殷代、ただならぬ数の犬牲儀式が、墓制に関係して行われていたことは考古学的にはわかっている。それまでの、捕虜を生贄にする慣習が捕囚不足で突然変更になっただけの可能性もあるが、なんとも言い難し。犬牲と祭祀容器群との関連性は不明。) "吠"と"器"を採り上げたら、"哭く"(≠鳴く 泣く 啼く 亡く)もということになろう。 口┐ ├┬┬┬┬┬┬┬ 凵吅哭品㗊・・・ ↓ ↓ 吠 器 <吅─哭>という系譜にしないのは、その後続に毛色が異なる走〜疋の大グループが設定されているから。これを吅系ではなく哭系としたいだけ。 #025≪哭≫【哭】:哀聲[獄省] 哭は葬に臨んで哭泣することをいう。 …(祀廟の家≒宊であるから、その声と推定。)@「字通」 「古事記」では雉が鳴女かつ哭女とされており、犬の出番は無いので、違和感を覚える文字である。ただ、犬の悲哀の感情表現"クゥーン"はよく知られているから、それを比喩的に使う程度ならありえそう。と云っても、そのレベルでの文字創成は考えにくいから、深いところで埋葬儀式と関係していると見なさざるを得ない。・・・ #025≪哭≫喪/𠷔/𠸶🅱 #014≪茻≫葬/𦽱:藏 ここまで来ると、おぼろげながら全体の状況が見えてくる。 要するに、犬が培葬される慣わしが定着していたということだろう。「說文解字」は良い所をついてくれたので、その意味がわかる。被埋葬者は墳墓の中で生活しており、そこで祭祀を執り行っているとの観念が確立しており、埋葬用品類以外に、祭祀器具と犬は不可欠。従って、哭とは培葬されつつある犬の別れの声ということになろう。(前方後円墳の設計思想でわかるが、後継者は墳墓での祭祀を挙行することで全権を委譲されたことになる。)これこそが宗族宗教の原点かも。 (C) 2026 RandDManagement.com →HOME |