■■■ 小篆文字検討@「說文解字」「爾雅」[風]■■■
辞書には<風冠>と名付けられた部首があるが、「說文解字」では、"風"は[虫+凡]の合字とされている。字義的には八方の風と記載されているだけで、末尾にかろうじて虫の意味を示しているものの、この文字の立ち位置は極めて分かり難い。
  ≪風≫   【八風】
   …明庶 東南…清明 …景 西南…涼 西…閶闔 西北…不周
   …廣莫 東北…融 北風謂之𩘁[京(涼)] 小風[朮] 扶搖風[猋]
       風動蟲生 故蟲八日而化
自然現象として雨風は基本概念。その割に、雨
📖と比べると風文字解説には力が入っていない印象を与える。しかも、この文字は系譜上ではあくまでも虫groupの合字であって、風groupを形成していない。所属文字もあくまでも風の1種で、字義が引伸された創字の例も上がっていない。これでは、虫の特徴を説明するための文字にしか見えまい。
 虫
 ├┬┬┐
 䖵蟲風它
    ├┐
    龜黽
    │
    卵


そんなことをついつい感じてしまうのは、風は極めて重要な文字の筈との想いがあるから。

今もって大陸では、日常的な風水信仰が続いており、そこから脱する流れはほとんどゼロだからでもある。"風"の説明など、すでに漢代の時点で、不要ということなのか、と考えざるを得なくなる。(そうなると、風水は、本来的には、儒教的秩序には不適合ということかも知れない。)

風水の大流行は「說文解字」成立頃と目される。おそらく、崑崙からの气の流れを、中華帝国樹立の根拠と見なす思想が勃興したのだろう。そこには、「山海經」所収の、中華帝国圏内の総邑、つまりすべての(山水毎の)土着部族の誕生を寿ぐ意味が含まれているとも言えそう。

・・・儒教国化すると、アイデンティティとしては、漢語"民族"を掲げるしかなくなってしまうから、そんな流れが奔流化したと見てよいのでは。

擬制的な宗族という枠組みの中で生きることを余儀なくされると、個人精神発露の余地は無くなってしまう。その結果としての風水勃興ということ。(絶対神が存在する社会では、支配的な教団や政治的権力機関が存在していようが、信仰自体は極めて個人的なもの。天帝への祭祀は天子が行う社会とは大きな違い。)
換言すれば、天子独裁-官僚統治のラインから外れた補完的な信仰が求められる事態になり、それに応えたのが風水となろう。

要するに、古代の自然信仰起源の"統合"民族観が拡がって来たことになる。もちろん、その底流には、崑崙(天帝下都)不老不死信仰が被っている訳で。(宇宙の中心でもある、帝都から発せられ、海に入っていく龍的气脈によって大陸全土が覆われているとの観念と表裏一体。当然ながら、中華帝国外にも流出する龍脈が存在していることになる。)
(日本国が導入した風水では崑崙は捨象される。ミクロな視点で、<北岸南麓が邑の適地>型の地勢的見立てが主となる。このため、合理的解釈と縁起担ぎ的応用の混淆との印象を与えることになる。)

そこらの特徴が、文字形成にも見て取れる。・・・
≪風≫ 回風[㶾] 翔風[立] 高風[翏] 疾風[忽] 大風[胃] 大風[日]
   風所飛揚[昜] 風雨暴疾[利] 烈風[𠛱] 涼風[思] 颼飂[叜] 風吹浪動[占]
≪二≫:最括[二…偶 𠄎…古文及]
≪艸≫:艸盛
≪鳥≫:神鳥
≪非収載≫凰皇femal phoenix(Heavenからの風)
        …[五方神鳥]=天子瑞兆(皇 黃鳥@「爾雅」)

≪人≫:大帶佩
≪水≫:浮皃
≪車≫:車軾前
≪非収載≫凧凩凪

・・・🅱㊎🆂の楷書異体字(𠘴/凨/凬/𠙄, 檒/𩙐)と甲骨の字体は参考になる。

🅱甲骨は、よくある冠的標章を佩びた上部の動物的部分と、その下の鳥形から成る文字。
どう見ても"ノ+虫"とは無縁で、"鳳"と相似。

㊎金文はゴチャで訳がわからぬが、偏部分は鳥の頭部に"業"に似た冠が付いた形。

🆂小篆は、明らかに[凡+蛇的虫]だが、"𠘨"の右垂に凹み部分を作っている。

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