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2008.9.10
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味噌汁哲学批判…



 お嬢さんが、お土産に乾燥した湯葉を買ってきてくれたという。
 便利で、美味しく、栄養価も高い、優れた食材である。
 味噌汁に入れるのもお勧めだ。
 そんな料理に子供が興味を示したら、親は大いに嬉しいに違いない。
 掲載されているかわいらしいイラストがそんな生活を想像させてくれる。
 家族で食事を作ったり、話あったりできるのは実に素敵なことだ。
 しかし、味噌汁にとことんこだわる必要はないと思うのだが。


 オジサン的視点で、流行っていそうな料理本を読んでいる。
 著者の方には失礼千万だが、今回も引き続いて、批判的言辞を並べてみたい。今度は、“ふだんのごはんのたのしみ”と記されている本を対象とした。
 この本の著者は、1958年生まれの“暮らしのエッセイストの名手”。(1)
 この分野はまったく無知なので、どのような方かは全く存知あげぬが、プロフィールによれば、自由学園卒業後、婦人之友社で編集者を経て現職という履歴である。一番下の子供が6才ということだから、忙しい物書き仕事を片付けながら、「ふだん通り」の生活に徹しているのだろう。そんなところが、女性ファンをひきつけていると思われる。シンプルで穏やかな色調の装丁から推測すれば、「癒し系」だろうか。

 今回この本をとりあげた理由は、余りにしっくりこなかったから。“ふだんのごはんのたのしみ”との副題がついているが、残念ながら、その感覚は共有できなかったということでもある。
 適当な例えかは疑問だが、ガチガチのマルクス主義者が書いたやさしい解説書を読んでいるような感覚に陥った。独自性を出そうという「思想」が見え隠れするからである。残念ながら、その思想を共有していないのでちっとも楽しくないということ。
 もちろん、食は文化であるから、思想が入ってくるのは大歓迎だ。だが、それは自然に醸し出されるものであって、凝り固まったドグマは別である。どちらかと言えば、この本は後者に属す感じがするのだ。

 ともかく、小生とは、朝食の発想が180度違う。
 例えば、以下のパターンが登場する。
  ・トースト(クロワッサンやバターロールでも)
  ・野菜の味噌汁
  ・ゼリー
 これ以外に1〜2品加わることもあるが、これだけでもOKらしい。
 まあ、好き好きだと言ってしまえば実も蓋もないが、小生の印象は、「メロンパン+ポテトフライ+コーラ」といった朝食と同じで、正直に言えば“見たくない”。
 どうしてかと言えば、このメニューだと、味噌との香りが立ち上ってくるし、煮干の味が口に残るからである。トーストの焼き立ての香りを楽しむ食事ではない。
 パンならスープにしたらよさそうだと思うが、頑として味噌汁。この主張をどう感じるかだ。
 味噌汁が好きなら、パンでなく、炊きたて御飯にすればよさそうに思うが、是非にもパンでもということのようだ。そんな個性の発揮し方が嬉しいものなのか。
 しかも、どうやらゼリーは市販のものを購入するらしい。新製品を試すことが楽しみの一つということでもあるらしい。お茶の代わりでもあるようだ。子供の大好物だから入れたのではなさそうである。市販品とは基本的にデザート系で甘味がきついと思うのだが。それが心地よいということなのだろうか。

 実は、この食事パターンを見ていて、大学生のころを思い出した。
 仕送り無しに、自分の力だけで、高物価の日本で生活している留学生とよく話をしたのだが、彼の朝食に対する考え方がつい思い浮かんでしまったのである。
 子供の頃からパンは好きだったそうだが、彼の朝食には登場しないのである。あくまでも、御飯、卵、納豆が基本。それに醤油系のスープを付けるという食卓なのだ。香りの基本は醤油である。ただ、時に、スープに変わって牛乳になることがあるそうだが。
 おそらく、故郷の料理が恋しかったに違いないが、ほとんど毎日のこの手の食事だが、飽きることはないと語ってくれた。
 どうしてこんなメニューになったかは想像がつくだろう。健康を保てる栄養価があって、安価で日持ちする食材といえば、この選択しかなかっただけのこと。彼にとって、パンは贅沢品だったのである。
 ただ、お気に入りのカップでお茶を飲むことは絶対に忘れることはない。故郷のお婆さん好みの煎れ方があるのだそうである。
 おわかりだと思うが、朝、炊きたて御飯をお腹におさめ、ほっとするとともに、お茶の香りで一息つき、ここから勉学の一日が始まるのである。
 朝食とはこういうものなのではないか。

 発展途上国でも、皆、朝食はしっかり摂ると、語っていた姿を今でも思い出す。日本の学生がいい加減な朝食を食べ、ろくに勉強もせず、夜は酒を飲んで騒いでいる様を批判的な目で見ていたのである。今、彼は日本にはいないが、もし上記の朝食メニュー見たら、どう映るだろうか。自家製梅干を作る人の食事とは思うまい。

 何が問題か考えてみた。

 先ず、組み合わせがおかしい。
 御飯のよいところは、塩分が入っていない点にある。だから、塩の塊を溶かしたような味噌汁が合うのである。一方、パンには塩は不可欠であり、味噌汁を合わせたら、塩の摂り過ぎになってしまい、健康に悪すぎる。スープにするのは、ハーブや肉の旨みを効かせることで、薄塩にできるからでもある。
 工夫した味噌汁を作る位なら、台所にある根菜を適当にサイコロ状に切ったものを具にして、コンソメスープの素で味わう方がよい。口に含めば、野菜の味がわかるから嬉しい料理だ。それに、古い野菜ほど味わい深いものだし、それこそキュウリでもよいのである。
 しっかりした野菜なら、コンソメの素も不要。バターで炒めて良質な塩味しただけのスープで十分美味しいものだ。野菜エキスとはそういうもの。それに、味噌汁に比べれば調理に気を使う必要もない。

 次の問題点は、安価で良質な蛋白質をとろうとしない姿勢。
 これは真似るべきではなかろう。コンチネンタル・ブレックファースト的な朝食を追求している可能性もあるが、その場合は、夕食はステーキのレベルにしないとバランスが悪い。全体のカロリーを考慮していれば、この手の食べ方も決して悪くはない。ただ、魚好きがこの生活スタイルを採用すると、どうしてもカロリー不足になりがちだし、偏った栄養摂取を避けるのは難しい。
 そんなことを言うと、カロリーを減らした方がよいのではと考える人もいるかも知れないが、適正な摂取量というものがある。体を動かさなくても、五感を使う職業は、思った以上にエネルギーを消費するものである。筋肉運動は一時的にエネルギーを使うからいかにも大消費に映るが、コンピュータと同じで、脳みそで、始終複雑な情報処理している人は結構エネルギーが必要なものだ。そういう人は、朝食をしっかり食べるべきだ。特に、良質な蛋白質を抜いてはいけない。
 朝はパン一枚、昼は蕎麦、夜は軽い一汁三菜で済ませたのでは体がやられかねないということ。高年齢層ではないのだから。

 何を言いたいかといえば、目玉焼や、醗酵製品のヨーグルトをつけるべきというだけに過ぎない。味噌汁を作る位なのだから、面倒というものではなかろう。もちろん、好きならハムやソーセージでもよいのだ。恣意的にこのような料理を外すことで、自己主張したところで何の意味があるのだろう。

 ゼリー食だが、食がすすまないので、朝のさっぱり感が欲しいということかもしれない。それなら、好きな果物ジュースを一杯飲むのも手である。種類も価格も様々あるから、小生は、こちらをお勧めしたい。
 そして、朝は、ゼリーではなく、新鮮な果物を食べるようにしたい。残念ながら、果物は安価ではないが、それだけの価値はあると思う。

 まあ、御飯が好きなら、パン食は止めるというのが最善の選択ではないか。まさか、御飯茶碗は洗うのが面倒になった訳でもないだろう。
(高年齢層で、トースト+ジャム、ハム、カップヨーグルト、インスタントコーヒーという朝食は結構多いと聞いたことがあるが、おそらく、準備と片付けがほとんどいらないことが選択の決め手だろう。これは洗い方の技術を身につけてこなかっただけだと見ているのだが。)

 実は、こんなことを書いているのは、この本が余りに不可思議だったから。上記の朝食メニューは理解しがたいのだが、書いてある主張には100%同意できるのだ。引用しておこう。
 「食べることばかり考えて生きてるわけではないけれど、食べることに関わることは、わたしの支え、杖のようなものです。」

 しかし、多分哲学が違うのである。

 最初、緑茶、紅茶、コーヒーが朝食メニューに登場しないのには心底から驚いた。そんな食卓が楽しいとは思えないからだ。しかし、よく読むと状況がわかってくる。
 著者は起床し台所に入ると、御飯を炊き、お茶をひとすすりするのだ。お茶が無い訳ではないのである。そしてその台所で、共稼ぎ夫婦の会話がかわされ、昆布と煮干の出汁の味噌汁ができあがっていくのだ。もちろん弁当作りも行われる。
 何故、味噌汁に力を入れるかといえば、“時間がなくても、食欲がなくても、味噌汁一杯飲んでもらえば・・・親の責任の大きな部分も果たせるから。”
 たしかに、心情的にはわからないでもない話だが、余りに強烈なイデオロギーでとてもついていけないのである。

 --- 参照 ---
(1) 山本ふみこ: 「わたしの献立帖 ふだんのごはんのたのしみ」 大和書房 2004年
(味噌汁の写真) [Wikipedia] photo by Ish-ka http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Miso_Soup.jpg


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