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2003.4.9
 
 


黎明期の携帯型燃料電池市場…

 携帯型燃料電池の燃料として、水素とメタノールのどちらが妥当か、で意見がわれている。

 しかし、利用者の視点で考えるなら、メタノール型が便利である。この極く自然な見方を支持する結果が、2003年3月の米国化学会年会で発表された。
[メタノール型燃料電池が有望との発表--Yu Seung Kim, et.al./Los Alamos National Lab + Virginia Tech: "Methanol permeation of sulfonated poly(arylene ether sulfone) copolymers (Poly 185)" ]
 日本でも、この分野の研究は盛んである。電気化学会の「Electrochemistry」2002年12月号(70巻12号)には、レビューから、個別技術まで様々な論文が掲載されている。(「論文特集号 携帯機器用小型燃料電池」)

 小型燃料電池は、アカデミズムから産業界まで、焦点分野化している。カーボンナノチューブ利用も加わってきたから、研究開発がさらに加速している。
 すでに、カシオ、モトローラ、サムスン、東芝といった大企業がプロトタイプを発表済みだから、市場勃興間近という感じだ。

 現時点では燃料電池は高コストになるが、リチウムイオン電池に比べれば、長時間連続稼動可能という圧倒的なメリットがある。ケータイやノートパソコンの利用状況から判断すれば、大市場化間違いないといえそうだ。作りこみさえできれば、製品浸透が約束されている市場と考えるのも無理はない。
 一般論では、魅力的な市場である。

 しかし、ビジネスとして成功するかは、全く別な問題である。ビジネスセンスと知恵が問われるからだ。この観点で見ると、携帯機器用小型燃料電池は立ち上げが難しい事業といえる。
 特に大変なのが、消耗品(燃料カートリッジ)の供給体制確立だ。ゼロから始めるのだから、容易ではない。
 膨大な個数の低単価消耗品の販売体制ができなければ、市場拡大どころか、ニッチ商品に終わりかねない。
 というのは、数多くの企業が、この分野に参入を企てているからだ。このままなら、たいして性能が変わらない規格が乱立する。互換性がなければ、消耗品は高価にならざるをえず、市場は低迷する。

 消耗品安価化は市場拡大の絶対条件である。このためには標準確立が不可欠といえよう。
 ところが、今の状況では、寡占化しない限り、規格統一は極めて難しい。標準化に進むインセンティブが働かないのである。・・・消耗品は電池メーカーの収益源であり、「水/メタノールのパック」を他者に安価に販売されると事業が破綻しかねない。

 このような分野の技術開発は極めて難しい。競争力を左右するのは、「要素技術力」ではなく、「技術マネジメント力」なのだが、研究者は技術主導で市場勃興可能と信じ込みがちのため、事業がうまく進まないのである。
 勝利の鍵は、事業構想力なのである。どのように収益をあげるかを考え、それに合わせて全体の技術体系を案出する能力が、研究者に必要なのである。

 もし、そうした能力が研究者になければ、マネジメントの仕組みを変えるか、研究対象を変えるべきである。
 例えば、軍事用途の研究開発から始めて、技術優位性で事業化を図る方法がある。
 軍事市場といっても、小さな市場とは限らない。今や、電池で動く暗視ゴーグルが普遍的に利用されかねない時代である。この分野なら、事業構想の知恵がなくても、技術を磨いて、最良の生産体制構築に注力するだけで、事業が成立する。軍需で事業基盤を作った後に、一般市場に参入すれば、低リスクで最初から大型事業を立ち上げることができる。
 実際、米国では、2001年から2003年まで、軍事研究が行われており、これから利用に入る段階に入る。(http://www.pnl.gov/news/2001/01-13.htm)
 ということは、こうした流れに乗る企業が登場し、圧倒的なシェアを獲得する可能性もある。・・・日本企業はこのような展開はできないから、ハンディを負っていると考えた方がよい。

 ところが、このような状況を全く理解しない経営幹部が多い。
 勝てる根拠が薄弱なままで、優秀な研究者を集め、後発で研究開発を始めた企業がある。すでに技術を蓄積しているベンチャーの力を使って、全体の技術体系を考案するならまだしも、事業構想皆無で、先端要素技術開発から始めるつもりなのだ。
 このような展開がトップの好みらしい。そして、「先端」に賭けたい技術屋集団は、トップの意向に喜んで従うのである。

 このような後発企業の参入で、ますます標準化が遅れ、先頭企業どもども全社苦闘することになる。


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