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2003.12.4
 
 


発電衛星の本質…

 最近、Solar Power System/Station(宇宙太陽光システム/発電所)が話題にのぼるようになった。技術の目処はついていないと思うが、将来嘱望される技術に格上げされたのだろうか。

 この技術の歴史は古い。
 Arthur D. LittleのPeter E. Glaserが発明したのが、1968年のことである。東欧系米国人のせいもあるのか、この分野としては珍しくインターナショナルな発想で仕事をしていた。1980年初頭から、日本も参加するグローバルプロジェクトを進めたいと考えていたようだが、残念ながら実現しなかった。
  ("Power from the Sun ; Its Future" Science Magazine 1968, IECEC Proceedings 1968)

 歴史的には、1976年-1980年にNASA/DOEが注力、SPS Reference System設計として結実した。約5,000万ドルがつぎ込まれたらしい。5kmx10kmで5万tという巨大な10GW発電衛星の「絵」が有名となった。
  ("Satellite Power System ; Concept Development and Evaluation Program" 1978)

 この頃、建設費は2,500億ドルを越すと言われていたと思う。巨額の投資というだけでなく、収益も期待できそうになかった。その上、実現には極めて高度な新技術が沢山必要だ。
 とんでもないハイリスクなプロジェクトに見えた。
 当時の米国は国内エネルギーだけ考えていたからプロジェクトは中止されてしまった。

 ところが、状況が変わり、突然、復活したのである。

 1995年-1997年にNASAがSPS Fresh Look Programを始めた。
 太陽光エネルギーを利用する、新しいコンセプトを打ち出したのである。宣伝されたから、地上に構築する「SunTower」や「SolarDisk」衛星を覚えている人も多い。
  (http://www.house.gov/science/mankins_10-24.htm)

 このプログラムは、内容はサイエンスだが、グローバルベースでの新事業チャンスの示唆に重点がおかれていたと言える。ソ連崩壊で軍事産業が市場を失っていた時に、ビジネスチャンスが降ってきたのだから、このプロジェクト支持の声が高まった。
 そのため、プログラムは続行することになる。
  1998年にはSSP Concept Definition Study(CDS)
  1999年-2000年はSERT
(Space solar power Exploratory Research & Technology program)
  2001年-2002年はSCTM
(SSP Concept and Technology Maturation program)
   (http://space-power.grc.nasa.gov/ppo/sctm/)

 こうした流れを見てきた、日本の研究者は、「NASAが上手く予算を獲得した」と語ることが多い。
 基礎実験に僅かな予算を要請したら、米国議会が予算を増額。これで味をしめ、翌年の要求では、少し増やした要求を出したら、3倍ほどの予算がついてきた。こんな調子でプログラム予算増額が続いたといった見方である。
 日本なら、予算要求しても、切られることばかりで、米国は大きく違うな、といった実感を吐露する訳だ。

 ・・・これこそ日本の研究コミュニティ文化そのものと言える。

 NASAの提案が奏効したのは、議会が、提案に社会的インパクトを感じただけのことである。提案にチャンスを感じれば、予算増額は当然の動きである。
 日本の研究者は予算増額ばかり主張するが、逆の話しは避ける。米国流意思決定は明瞭である。たとえ僅かな予算要求でも、意味が薄そうなテーマなら、間違いなくカットされる。日本のカットとは予算大幅減額を意味するが、米国ならゼロである。ダイナミックに動く。予算3倍増の裏には、必ず消え去ったテーマが並んでいるのである。
 従って、米国では方向転換が迅速に進む。日本とは正反対である。

 米国型の熾烈な競争環境をきらいながら、米国政府の予算大幅増額だけを褒めるが日本の研究コミュニティの特徴だ。

 このような文化だから、提案理由もおしなべて曖昧になる。
 「この分野の技術は国家にとって不可欠です。こうした研究課題は社会にとって重要です。」といったステートメントを書けば十分なのである。どの分野のプロジェクトでも論旨は大同小異である。
 というのは、プロジェクトのウリは目的ではなく、常に各論なのである。日本の要素技術開発状況を示し、先行状態を守れ、あるいは遅れをとりもどせ、という主張をすることがが重要なのである。要するに、将来役に立つ要素技術を磨こう、と提案する訳だ。要素技術さえ持っていれば負けることは無い、との発想といえよう。

 そうした風土のお蔭で、日本は、宇宙分野にもかかわらず出遅れていない。というより、質が高いと言われている。
  1987年に宇宙科学研究所にworking groupが発足。
  1992年-1994年、NEDOで宇宙発電システムに関する調査研究が行われた。
   (「SPS2000概念計画書」宇宙科学研究所 1993)
  1998年には文部科学省傘下のNASDAにSSPS検討委員会が編成される。
  2001年には発電/送電一体ユニット型SPSのマイクロ波送電基礎試作モデルSPRITZ
(Space Power Radio Integrated Transmitter '00)が作成された。
   (Matsumoto, H. ; "Research on Solar Power Station and Microwave Power Transmission in Japan : Review and Perspectives", IEEE Microwave Magazine, 2002-December)
   (http://www.kurasc.kyoto-u.ac.jp/plasma-group/people/matsumot/opinion/spslecture/jses/jses.htm)

 但し、日本の不可思議なところは、こうした流れとは別にビジネス分野での動きが立ちあがる点だ。
  1991年-1993年 通産省-NEDOのニューサンシャイン計画(2GWのSPS)
  1991年 PowerSAT
  2000年には、経済産業省がUSEF
(無人宇宙実験システム研究開発機構)でSSPSを検討を始め、2001年に研究を開始した。
  2040年にはSPS衛星を打ち上げる計画である。
   (1992年のNEDO「宇宙発電システムに関する調査研究」の総事業費2兆4000億円、出力1000万MW級SPSグランドデザインをベースにしたプロジェクト)
   (http://www.usef.or.jp/project/ssps/index.html)

 一般向けの公表資料が少ないから、技術開発の実態はさっぱりわからないが、実用化のバリアは極めて高いと思われる。
 そもそも、宇宙環境であるから材料の劣化は凄まじい筈だ。これを抑えない限り、商用発電化など夢に過ぎない。しかも、宇宙用は、地上用太陽電池技術とは全く異なる系統であり、転用可能な部分は極く僅かである。その上、衛星に搭載するのだから、発電には直接関係無い、多岐に渡るハイテク技術の開発も必要となる。
 このような技術体系に力を入れることに、本当に意味あるのだろうか。

 太陽エネルギー利用方法は、SPS衛星だけではない。ところが、どの方法がベストかの議論を聞いたことがない。SPSは、なにがなんでも「やらねばならない」という前提のもとに走っているプログラムと言わざるを得まい。

 ということは、SPS衛星プログラムとは、エネルギープロジェクトと言うより、宇宙軍事技術開発プロジェクトなのかもしれない。


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