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2003.12.5
 
 


砂漠発電の位置付け…

 2003年5月、「Energy from Desert」が発刊された。黒川浩助東京農工大学工学部教授が編集した砂漠太陽光発電の研究報告書である。
  (http://www.jxj.com/catofpub/energy_desert.html)

 IEA PVPS Task 8プログラムの成果をまとめたものだ。このプログラムは、日本が幹事役で、韓、スエーデン、スイス、伊、蘭、西、米、イスラエルが参加している。

 壮大な計画である。
 最終発電目標は1GWだ。まず25MWの太陽電池パネルを砂漠に設置する。その電力で毎年5MWの太陽電池パネルを12年間増設し続けたら、電池増設量を年間50MWに拡大、といった進め方である。もちろん、発電コストは10円/kWh以下が目標となる。
 この共同研究グループでは、1999年から経済性や技術問題を検討してきたのである。

 こうした大型プロジェクトの欠点は、技術の焦点がぼやけ易い点だ。
 様々な考え方が同居しがちだから、無理に統合すると、他に転用できそうにない独特な技術を作りかねない。

 例えば、一見、電池パネルの大量生産技術開発プロジェクトにも見える。しかし、砂漠の真中に立地する工場で生産技術を磨けるとは思えない。製造装置市場を生み出す効果はあるだろうが、技術開発には不向きだ。

 しかも、砂漠発電だからといって、発展途上国向けの装置とは技術系列が異なる。
 発展途上国用はメインテナンスフリーが望ましい。そして、スタンドアローン型小規模発電がメインになる。規模は1kWもあれば十分だろう。仕様が全く違うのである。
 (発展途上国用市場は、世銀やUSDPから「村落開発」資金で成り立つ。そのため日本企業は無視しがちだが、政治を活用することに長けた欧州企業にとっては、魅力的といえよう。)

 もともと、日本市場から見れば、スタンドアローン型は無意味である。互いに電力を融通する仕組みがなければ、役に立つまい。太陽電池パネル開発もさることながら、電力の系統技術が、日本での普及の鍵を握っているのである。もちろん、砂漠プロジェクトは、電力の系統技術とは無縁である。

 しかも、遠隔地の砂漠で発電するのだから、電力送電ロスが相当発生する。その場での発電コストは低くても、送電インフラの償却費/運営費/メインテナンス費は小さなものではない。従来型送電なら、消費地で低コスト電力を入手できるとは思えない。
 太陽光発電とは言っても、分散型発電の流れでは時代に逆行しているのである。この点では魅力的とは言い難い。
 従って、砂漠地域でのエネルギー利用か、エネルギーを輸送し易いものに転換する必要があろう。時代の要請からいえば、水素輸送が望ましいが、水の無い砂漠では無理筋であり、斬新なアイデアが求められていると言えよう。

 しかし、よく考えれば、このような夢を追うより、現実の動きを支援する方が意味があるのではないだろうか。

 太陽光発電技術研究組合(PVTEC)のビジョンは、2010年には住宅用の発電コストが家庭用電灯料金なみにするというもの。実現したい市場規模は別として、太陽電池普及のシナリオはほぼ共有されている。この動きを支援すればビジョンをもっと早く実現することもできる筈だ。

 鍵を握る技術もわかっている。バルクSi型では極薄化と生産技術の向上だし、薄膜Siなら薄膜製造装置開発である。
 焦点を絞って開発資源を投入すれば、成果は約束されているともいえる。
  (http://www.pvtec.or.jp/sangyo_vision.pdf)

 ところが、砂漠プロジェクトは、どう見てもこうした技術の流れとは整合しない。といって、革新的な新技術を狙う訳でもなさそうだ。
 政府は、バラバラな太陽電池利用構想を次々と進めるつもりらしいが、日本にそれだけの研究開発キャパシティがあると考えているのだろうか。欧米が電池パネル製造技術革新を狙っていることを知りながら、このようなやり方を続けるのである。

 これが日本の産業政策の現実である。


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