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2004.5.13
 
 


国策に振りまわされる六ヶ所村…

 2004年5月11日の会見で、原子力委員会の委員長が「核燃料を一度だけ燃やして、そのまま地下深くに処分する直接処分について議論を排除するものではない」と述べたという。(1)

 当然である。
 核燃料リサイクルを考えたのは、20年も昔のことである。当時と状況が異なるのに、そのままの計画で進めようということ自体がどうかしている。
 (1970年代はウラン価格は高騰した。ウランも、遠からず、石油ショック同様の事態が予想されると考えた人が多かった。)

 原子力発電のシナリオは根本から書きかえるしかないのである。高速増殖炉の実用化に疑問符がついている上、冷戦構造の崩壊でウランは余剰で、価格が底に張りついているからだ。その一方で、再処理費用は鰻上りである。業界人でさえ、六ヶ所再処理工場のコストは当初考えていた3〜4倍になると見ている。(2)
 再処理プロセスには、まだ未確定の投資が並んでおり、おそらく、これから湯水のように金を放り込むことになる。3〜4倍との見積もりではきかないだろう。さらに、トラブルが発生し易い分野であり、問題が生じれば、まともな稼動率は実現できないから、資金回収どころではないかもしれない。
 要するに、ウランが安価である限り、プルサーマルのメリットは無くなったのである。

 経済原則で考えれば、再処理を止め、廃棄物保存を選ぶしかないのは、明白なのだ。稼動させるなら、将来の改憲に合わせた、軍事用途と考えて間違いない。

 しかし、六ヶ所村にとっては、処理工場稼動は悲願だろう。
 熱核融合実験炉の方も、いまだに誘致できない。産業振興にとっては、これが切り札なのである。
  → 「史上最高額の実験炉誘致合戦」 (2003年10月30日)、 「熱核融合実験炉建設を何故急ぐ」 (2001年2月15日)

 一方、原子力反対派からみれば、施設稼動を見送り、誘致にも失敗すれば、六ヶ所村の「美しい自然」破壊を止めた、ということで拍手喝采なのかもしれない。しかし、原子力産業誘致に至った経緯を考えると、違和感を感じる。

 下北半島は、原子力行政に振り回されてきたといえる。六ヶ所村のお隣でも、単純な遮蔽ミスで日本初の原子力船が稼動せずに終わった。今は、海洋地球研究船「みらい」の母港を提供するだけで、誰も関心を払わない。先進技術に失敗はつきものだが、失敗に対応した体制はなにもなかったのである。
 無責任な施策の典型例といえよう。

 六ヶ所村も同じである。原子力産業で潤う村を目指して動いたが、結局のところ、たいして進んでいない。とはいえ、原子燃料サイクル施設、低レベル放射性廃棄物埋設センター、ウラン濃縮工場が、広大な敷地にようやく揃ったから、前進したと見る人もいるかもしれない。
 それは村外の勝手な見方だろう。

 ここには、もともと、「小川原工業港の建設など総合的な産業基盤の整備により、陸奥湾、小川原湖周辺ならびに八戸、久慈一帯に巨大コンビナートの形成を図る」計画があった。1969年の「新全総」である。
 と言っても、古い話だからイメージが湧かないかもしれない。
 早い話、産官総力で、世界最大の製鉄/石油コンビナートを構築する目論みだったのである。良港があり、湖から豊富で良質な工業用水が供給でき、広大な用地も提供できるという、素晴らしい条件が備わっており、皆が将来を夢見ていたのだ。
 しかし、結局のところは、僅かな原子力施設と国家石油備蓄基地だけの「工業地帯」しかできあがっていないのである。(3)
 六ヶ所村にとっては大誤算だったが、ビジネス環境が一変したのだから、致し方あるまい。

 おそらく、この地域は、その前から、こうした変化に苦しめられてきたに違いない。

 歴史を見ると、大規模酪農にも挑戦した跡がある。例えば、1968年には、カナダ産肉用牛ヘレフォード種を導入している。(4)政府推奨の酪農業を積極展開したのだろう。しかし、海外酪農家に日本市場を開けば太刀打ちできないのに、酪農業を軸にした産業振興が成功する筈があるまい。
 米作りにも、励んだと思う。もともと、冷害のたびに大損害をだした地域ではあるが、技術が進歩し、政府買い上げが保証されるなら、稲作でもペイすることが見えたからだ。おそらく、努力して稲作が軌道に乗りそうな感触がつかめた頃に、米作抑制策が始まったと思う。

 政府まかせのシナリオに乗って努力してきたが、実りは得られなかったと言えよう。

 原子力産業誘致でも同じことが言える。こうした教訓をどう生かすかが問われている。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20040511AT1F1101K11052004.html
(2) http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/publication/p-t11.doc
(3) http://www.pref.aomori.jp/kigyou/danchi/dku005.html
(4) http://www.rokkasho.jp/gaiyo/sangyo.htm


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