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■■■ 「古事記」解釈 [2021.6.15] ■■■
[165] インターナショナル視点での海神
冒頭に顕れる神々は海人の観念であることを示唆する記述はあるものの、海神ではない。

海神は、伊邪那岐命と伊邪那美命の神生みで登場する神の中の1柱に過ぎない。
  [海神]大綿津見神

"大"との尊称もつくから、海の主宰神かと思いきや、そういうことでもなさそう。

もともとが、古代の観念がわかっていないから、定義が曖昧であり、説明上都合のよいように情緒的同一観を当然視されているからいかんともしがたい。(淡水域と海水域や、海洋と陸水といった地形を峻別するのか否かさえ明確にしないのが普通。)・・・
  水域(統治)海神…海神 河川神 湖沼神
  水行(守護)…航海神 湊神 湖泊神 船神
  水源神 水分神
  漁撈神

多くの場合、なんでもかんでも竜神であるとの理屈で説明されるので、素人にはとんと理解しがたいものになる。
おそらく、中華帝国で死滅させられた海神信仰の道教的残渣で考えるからだろう。・・・
○"四海龍王"…玄宗が751年に封じ、称号を授与。
 広徳王@東海
 広利王@南海
 広潤王@西海
 広沢王@北海
○河伯@黄河
 竜母@西江
 娥皇(堯の娘)⇒川神@湘江
○鲁班/公輸盤…工匠師祖(船を含む。)

ということで、大綿津見神を考えてみよう。
【付記】綿津見="わだ"ッ霊と考え、朝鮮語"海pata"が語源か同根とする説を見かけることが多いが、面白いから取り上げてもよいが、それ以上ではない。・・・
朝鮮語の古代文献資料はなにも存在していないから、まともに議論する意味はほとんどない。残念ながら、倭語に近かった済州島語も韓国によって絶滅させられてしまったから、言語的な紐帯を調べるのは不可能と言ってよかろう。
朝鮮語も一番の近隣の筈のアイヌ語も、日本語とは基本語彙が全く一致していないから、参考にする姿勢自体が理解を越えるもの。朝鮮半島に樹立された国々は、倭と違って、古くから儒教を取り入れると共に、中華帝国の属国化を図って王権維持を図って来たから尚更である。始祖は中華帝国側の部族とされている訳で。
支配者階級の言語も漢文漢語であったのは明らかで、このため古代朝鮮語を辿れる訳がない。しかも、早くから儒教国となったため、古代信仰抹消が図られた筈で、小中華思想で制作された史書をもとにして、変節した現存呪術や用語から古代を想定する手法を用いた話を取り上げる必要はなかろう。


ワタを「広辞苑」では、"遠ヲチ"の転訛とされているようだが、「古事記」はあくまでも"綿"としているのだから、いくら海にそぐわない漢字だと言っても。素直に読みとるのが筋だろう。

植物の棉はインド原産と見られており、木綿伝来は古事記成立後の筈。しかし、綿をワタと読むことが出来上がっていたのである。呉音・唐音ともにワタと読む霊があるとはおもえないからか、この訓はサンスクリット語:bādara/vārdaraという解説もよく見かけるが、水としても使われるらしいが、その言葉を倭人が用いる必然性は薄すぎる。(乳海はKṣīra Sāgaraであり、綿とは無縁であるし。)
それなら、渡・渉を指すが、その文字はなんらかの理由で使いたくなかったとした方がましだろう。ただ、渡・渉の意味は海という概念とは全く異なるから、海人の信仰を異なる信仰に習合させるようなもの。

と言うことで、ハラワタ腹綿[≒腸]という単語のワタという概念(充填されている、こんがらがった糸状のモノ)と見るのが自然だろう。

そう考えるのは、綿は比較的新しい文字だから。太安万侶なら百も承知。
  緜=帛[白色絹]+系[糸筋] ⇒ 綿
  e.g. 緜緜葛藟 在河之滸 [「 詩經」國風 王風 葛藟]
細く長く繋がる意味以外にはなさそうな文字だったのだが、それは真緜/繭綿の絹材でのこと。
ところが棉(木綿)に糸材が変更になり、被服材料のワタ状繊維の表記文字として、糸偏に変更されたようだ。

ワタ状になっていると、沈水させてもその中に空洞がうまれるので、深海の海神の宮はその中にあり、海上に浮かんでくることもあるといったイメージがあったのだろうか。

あるいは、漁民としての経験から、途轍もない数の魚の群れが岸辺に集まり、一筋の糸の様になって海の底へと泳いで行く情景から生まれた観念かも。その魚影はまさに竜そのものである訳で。
【参考】山田巌:「綿の語源について」駒沢短大国文 2, 1, 1971年
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❶冒頭。クラゲのような"原始の海"的世界に神が顕れる。
  造化三神
  📖インターナショナル視点での原始の海観念
 その世界の名称は高天原。
 海に囲まれた島嶼社会に根ざした観念と言ってよいだろう。
 栄養豊富な海辺での水母大量発生のシーンが重なる。
 天竺なら さしずめ乳海に当たる。

❷神々の系譜が独神から対偶神に入り、
 神世の最後に登場するのが倭国の創造神。

  伊邪那岐命・伊邪那美命
  📖インターナショナル視点での神生み
 高天原の神々の意向で、矛で国造りをすることに。
 矛を入れて引き上げると、
 あたかも潮から塩ができるかの如く、
 日本列島起源の島が出来てしまう。
 島嶼居住の海人の伝承以外に考えられまい。

❸交わりの最初に生まれた子は蛭子。
 
葦船に入れ流し去った。海人の葬制なのだろう。
 しかし、子として認められていない。

 葦と言えば、別天神で"葦牙因萌騰之物"として
 唯一性情が示されるのが
  
宇摩志阿斯訶備比古遅神
  …いかにも河川デルタ域の神。
📖葦でなく阿斯と記載する理由
 そして"国生み[=嶋神生み]"で、
 日本列島の主要国土を生成する。
 📖インターナショナル視点での嶋生み
❹最初の海神とされるのは、神生みで登場。
 最初の10柱のうちの8番目。
  [海神]大綿津見神
 鳥之石楠船~/天鳥船
 須佐之男命
❻ 安曇連祖神
  底津綿津見神
  中津綿津見神
  上津綿津見神
❼ 墨江之三前大神(住吉神)
  底筒之男神
  中筒之男神
  上筒之男神
❾ 伊都久三前大神(宗像神)
  多紀理毘賣命(胸形之奥津宮)
  市寸嶋比賣命(胸形之中津宮)
  田寸津比賣命(胸形之邊津宮)
❿天孫降臨後
  綿津見大神

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