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2005.2.21
 
 


制裁は冒険主義ではないのか…

 北朝鮮の核兵器保有宣言に対する様々なコメントが登場したが、違和感が残るものが多い。
 たいていは、騒がず冷静に対処せよ、というもの。対話と圧力で外交的解決に結びつけよ、という誰が聞いたところで常識を一歩もでない意見ばかりである。
 宣言の意味付けの論議が決定的に欠けている。

 にもかかわらず、北朝鮮を動かすために制裁は不可欠と主張する人が多い。

 何故、今になって、正式に核保有宣言をしたのかわからん、しかし、とりあえず制裁に動こう、という発想には恐れ入る。

 状況判断できる能力がないと告白しながら、自信を持って対応施策を語るような人はリーダーとして不適である。
 リアリズムから遠ざかり、イデオロギーや心情だけで政策を決める人に舵取りを任せるべきではない。ステレオタイプの見方しかできなければ、この先、視野の狭い政策を展開し、道を誤りかねない。

 この宣言は今までとは質が違う。国家として、核兵器を何時でも「使える」と対外的に正式に表明したに等しいからである。

 従って、協議開始前に緊張を煽ることで、交渉での優位性を確保しようとの戦術を踏襲しただけ、との見方が当たっているとは限らない。
 今回は、危機勃発の可能性は低い、とは言い切れまい。

 ・・・と考えてしまうのは、2004年4月に胡主席と金総書記の会談が行われているからである。この場で、朝鮮半島問題に関して、両者の合意が形成されたのだと思われる。
 会談内容に関する報道は少なかったが、両者で取引が成立した、との報道コメントが多かった。

 と言っても、記載されていた『外交交渉』結果とは単純なものだった。
  ・北朝鮮は6カ国協議に参加する。
  ・中国は無償援助を供与する。

 そして、この流れに合わせるかのように、韓国は太陽政策を強化した。北朝鮮の核兵器所有を是認する立場である。長々期的には、南北統合で核武装国家になるつもりかもしれないが、ともかく、やっかいだから、金体制崩壊だけは防ごうと動いている訳だ。

 北朝鮮はこの時点で、中韓の支えを確保したと言えそうである。
 はっきり言えば、今後も金政権を支えると、中国政府が約束し、それに韓国が拍手を送ったのである。

 しかし、こうした中韓の姿勢とは逆に、全体としては、金体制への圧力が急激に高まっていると見てよいと思う。
 日本海にはイージス艦が張り付いているようだし、海上交通監視による密輸や武器輸出防止の多国間協力体制はできあがっている。
 おそらく、北朝鮮は、後が無い状況に追い込まれた、と感じているだろう。

 こんななかで、2月11日、Dick Cheney 副大統領(安全保障チームメンバー)が韓国外相と会談した。
 ここで、副大統領は韓国は北朝鮮の肥料支援要求に応えるな、と要求したという。(1)

 外交取引するな、との米国政府の姿勢を明確に示したといえよう。換言すれば、有無を言わせず、北朝鮮に核廃棄を迫っているのである。
 6カ国協議とは、北朝鮮が核放棄をどのように進めるかを議論する『外交交渉』の場であり、取引の場ではない、と言っているのに等しい。

 しかし、北朝鮮は、今まで通り「取引」外交を進めようと考えているかもしれない。そうなると、北朝鮮から見れば、6カ国協議はそもそも『外交交渉』の態をなしていない。

 米国と北朝鮮では、『外交交渉』の考え方が根本的に違うのである。

 従って、北朝鮮の6カ国協議不参加表明は当然だろう。取引無しの、核放棄を前提とした参加しか道が用意されていないからである。

 この状況で、核兵器保有宣言をせざるを得なかった理由はなんだろう。

 常識的に判断すれば、軍事独裁政治体制を維持するための、国内向け発表と見なせるかもしれない。多少時間をおいて、中国政府を仲介役として、協議再開に踏み切るというシナリオである。中・韓からのより多くの支援保証をとりつければ十分ペイすることになる。

 しかし、この常識が通用するだろうか。
 ・・・余りに思料不足だと思う。

 独裁国で一番難しいのは権力継承だが、北朝鮮は、今、その時期に当たっている。権力闘争が繰り広げられるのは間違いあるまい。

 そんななかで、核兵器を武器にした徹底抗戦を訴えて次期権力奪取を図る勢力が存在する可能性は高い。歴史を紐解けば、追い詰められた状況にあると、好戦派が勝利することが多い。そうした勢力が力を持ちつつあるのかもしれないのである。
 好戦派にとって、世界に対する核兵器保有宣言は最高のデモンストレーションである。そして、この宣言が、権力奪取にプラスに働きそうなら、動きはさらにエスカレーションしていくだろう。
 こんな流れのなかで、我々は北朝鮮制裁を論議しているかもしれないのである。

 どう見ても、米国は解決を急いでいない。近々に、事態が大きく変化するような問題とは見ていないのである。
 そのため、北朝鮮の方も、中韓の支援が続く限り、基本的には問題解決を急ぐ必要などない。
 しかし、北朝鮮の国内状況を考えれば、状況は急変しているのかもしれないのである。窮鼠猫を噛む状態では無い、と断言はできないのだ。

 もし、従来通りの推定が成り立つなら、制裁は有効な手段だ。北朝鮮の対応を迫る上で、効果抜群だろう。もしも、日本の制裁を、中国が黙認すれば極めて強いメッセージになる。北朝鮮は動かざるを得まい。
 しかし、窮鼠猫を噛む状態なら、制裁は禍根を残す方策になりかねまい。戦争しか道が残っていない、と考え始めているのに、さらに圧力を増せば、結果は見えている。

 そもそも、軍隊を持たない国が、軍事独裁の好戦国に対して制裁を行うことは、冒険主義そのものではないのか。
 しかも、米国が、日本の安全保障の責任をどこまで負うのか、はっきりしていないのである。

 リアリズムに徹するなら、まずは、原油流出事故保険が担保されてない船の入港禁止を徹底し様子を見るしかなかろう。
 北朝鮮への制裁とは一切無関係と発表し、厳格に施行するだけで十分である。
 もちろん、すべての産品について、原産地表示の徹底を同時に図る必要がある。

 中国が保険取得の支援か、代行貿易に踏みきらなければ、北朝鮮の漁業は壊滅する。これは、国の仕組みを揺るがしかねないインパクトがある。

 中韓が金政権を支持しているのだから、このような細かな施策を次々と打つのが、日本が取るべき道ではないだろうか。

 制裁の大騒ぎこそ、冷静さを欠いた動きに映るのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nytimes.com/2005/02/12/international/asia/12korea.html?oref=login


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