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2015.5.16

第二次朝鮮戦争への流れ

北朝鮮に関して、「Calling for an attractive policy」などとのんびり議論している場合ではないという気がするが。
と言っても、金王朝の内部崩壊が近いと見ている訳ではない。

たとえ、軍のNo.2が粛清されていたとしても、それが政権の不安定さを示しているとは思えないからだ。独裁政権である以上、王朝一族内で跡目争いが生じている場合は別だが、粛清自体は驚くようなことではない。
ソ連や中国でも、ついこないだ迄、先ずは粛清ありきだったのを忘れたい人達には言っても無駄だが。
それに、隣組体制による首領様領導の挙国一致的動きも特段珍しいものでもなかろう。儒教国なら、国家創生者とその跡継ぎは天子扱いになる訳で、それに楯突く輩は死罪というのは古代から綿々と続く伝統。態度が不遜と告げ口されれば即左遷の社会。韓国には、国家創生者がないから、北朝鮮だけが目立つにすぎまい。

しかし、米中が、政権崩壊を本気で考え始めているのは確か。そのまま放置という訳にはいかなくなってきたからだ。
そう考えると、習近平独裁政権の虎退治の意味も見えてくる。当たり前だがそれは権力闘争。と言っても、利益分配のチンピラの戦いとは違う。それは大胆な政策転換を図る行為でもあるからだ。意思決定プロセスに構造的な欠陥があるため、それは不可避なのだ。

それでは、習政権がどの方向を目指しているかといえば、明らかに中華帝国路線。そのためには、冊封國的状況を拒否する近隣国や、勝手な振る舞いをする資源国との蜜月体制を打破する必要がある。ところが、これが内部事情から存外難しい課題。
なかでも、厄介なのが北朝鮮。毛沢東を始め、近親者を失った朝鮮戦争という歴史を抱えるため、北朝鮮の金王朝との関係を表立って悪化させる訳にいかないからだ。しかも、突然、国家崩壊でもされたら迷惑千万ということもある。軍人百万人への対処だけでも大事だが、下手すると難民一千万人流入もありえるからだ。従って、それだけは避けねばとの主張がまかり通っている訳だ。だが、そんな主張を掲げる勢力とは、北朝鮮に梃入れすることで膨大な利益をあげてきた一派でもある。言うまでもなく、それは北朝鮮軍部とツーカーの仲である人民解放軍首脳部の利権ということ。抜本的な手術無しには、この状態から抜けられそうにないのは自明。
従って、ここに手を付けるには、先ずは、瀋陽軍区一派の大掃除から。薄熙来から始まった虎退治の動きとはコレ。

金王朝の粛清も、こうした動きに呼応したものと見ることもできる。中国は北朝鮮内部情報を持たないが、北朝鮮は中国の内部情報を豊富に持っており、早くから対処しているだけのこと。
要するに、中国が、安全保障体制をなし崩し的に消滅させ始めたということ。そうなると、金日成の「先軍」路線からの転換止む無しである。この路線は、常時戦時体制下にある軍に、時々ガス抜きの挑発行為をさせることに特徴がある。それによって、戦争を回避している訳で、後は、ただただ核兵器+ミサイル開発に勤しむという方針。これが奏功してきたのは、中国の人民解放軍が金王朝を擁護してきたから。核兵器を持つことができれば、米国との平和条約締結にこぎつけることができると踏んでいたということでもあろう。それに成功しさえすれば、南朝鮮人民も国家創生者につき従う筈と考えたと思われる。
従って、金日成側近の軍部首脳は、口では攻撃的だが、「戦争」回避勢力そのもの。強硬派とは、そのなかで、ギリギリの挑発活動を繰り広げるべしというにすぎない。
ところが、中国が同盟関係を骨抜きにし始めた。しかも、敵国たる米国は平和条約締結交渉の気が全く無いのだ。こうなると、先軍政治のシナリオは続けられなくなる。南朝鮮解放を存在意義にしながら、常時戦時体制下に置かれた百万人の人民軍将兵から見れば、従来型の先軍方針は負け犬路線に映りかねないからだ。
つまり、金正恩が採用可能な路線とは、「本気で」戦争に踏み切るための準備一色とならざるを得まい。質的に全く異なる、戦争遂行という観点で、機能的に優れた軍への衣替え方針が打ち出されたことになる。おそらく、軍部再編が進んでいる筈だ。
その一方で、儒教の天子としての務めである「人民を飢えさせない」方針を打ち出す必要もあるから、外部からは矛盾しているように映るかも知れぬが、論理的は素直そのもの。
要するに、3代目首領様のご意向であろうとなかろうと、軍部は、戦争に向かってひた走るしかないと言うこと。それは金正日時代のブラフとは本質的に異なる。軍部若手は、好機と思えば、南進を進言するに違いないからだ。それに反対しそうな高齢層は次々とパージされ続けていると見て間違いない。

軍部の古手一掃を見て、政権崩壊が始まったと予想する人がいるようだが、このように考えれば、それは期待感から眺めているだけと言わざるを得ない。王朝内で権力を巡って揉めない限り、政権が倒れることはまずあるまい。
その代わり、軍部若手の進言に押され、戦争に打って出る可能性は十分あると言えそう。進言を打ち消す理屈が見当たらないからである。
結局のところ、北朝鮮における軍部粛清の対象者はもっぱら高齢世代となるのでは。早晩、若手の戦争開始論者だらけになると言うこと。

そんなことを考えると、米軍にとっては、横田、岩国へのオスプレイ配備は当然の動きとも言えよう。
おそらく、日米首脳会談がスムースに運んだのは、安全保障条約締結時の密約を遵守すると安倍総理が約束したからだろう。まあ、それ以外に対処策が無い以上、そうならざるを得ないだけだが。同時に、多くの兵力を引き上げている米軍に変わって、それなりの役割を果たす姿勢を見せたから、オバマ政権にとっては恵みの雨でもあった。パワーバランスが崩れ始めている状況下だから、日本にとっては、それ以外の選択肢の方がリスクが大きくなるからこれも致し方あるまい。
もっとも、その感覚が湧かない人だらけだが。

それこそ、第二次朝鮮戦争に巻き込まれないようにするなら、韓国との外交頓挫状態をさらに続けて欲しいとも言えるのである。まさか、そんな主張をする訳にはいくまい。しかし、それが冷徹な現実。

(記事)
白墨[BBC 中文网記者]:「中国将軍:中国不必再為朝鮮“擦屁股”」2014年12月2日
JANE PERLEZ:「中国対朝鮮的不満逐漸公飼開化」2014年12月22日 NYT亜太版(中文網)
王洪光[人民解放軍南京軍区原副司令員]:「朝鮮軍力為何被厳重夸大」 環球時報@china.com 2013-05-31
Richard N. Haass[米国外交評議会]:"Time to End the North Korean Threat There are signs that Beijing is viewing the regime in Pyongyang as more strategic liability than asset."Dec. 23, 2014 WSJ
Kori Schake: "Pushing for Regime Change in North Korea Is a Bad Idea Why aggressively trying to topple the Kim regime could backfire -- badly." December 29, 2014 FP


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