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■■■■■ 2015.2.21 ■■■■■


GDP成長率報道を巡って[続]

経済がどうなるか考えるのに、ポジショントークがウリの新聞を読むのはどうかと思うという話をした。[→]

それだけではつまらぬから、経済の話でも。
なにせ、ついに日経平均がアベゾーンを越えたのだから。
アレはなんだったのだろうかと思いだす人も多かろう。
 2014年2月19日 1万8322円50銭(終値1万8264円79銭)
 2007年2月26日 1万8300円39銭・・・安倍第1次内閣
 2000年5月 8日 1万8475円45銭・・・ITバブル期

この株高、日本だけではない。まあ、バブルといえなくもないが、そうではないと見ればそうとも言える。鵺的だが、実際、なんとも言い難き現象だからいかんともし難い。

と言うのは、最低金利を目指し、どの国も驀進中だからだ。今や、マイナス金利も珍しくないご時世。・・・利子ゼロで借りてくれたら、謝礼金さしあげますキャンペーン中ということ。トンデモない事態が発生している訳だが、誰もおかしいとは感じないのだから凄い。

それに比べると、この株高は健全そのもの。
・・・という見方は一理ある。

米国を除いて、全世界で経済減速中とはいえ、それなりのGDP成長を実現している。中国と印度にしても、以前より低くなったとはいえ、2014年は7%をクリアしたようだし。しかも、エネルギー価格高騰も終わった。従って、世界経済はそれほど悪くはないと言えなくもない。(ギリシアがデフォルトに陥ったり、ウクライナを切欠として本格的な戦争勃発となったりすれば別だが。)

当然のことながら、企業の利潤は順調に伸びている。

一方で、リスクフリー指標と見なされている国債の利回りはほとんどゼロ。こうなると、配当利回りが俄然光ってくる。
ダブつくおカネが株式市場に流れ込んで来るのは必然かも知れぬ。

しかし、だからと言って、日本経済が成長路線に乗ったと見る訳にはいくまい。
「中長期的に経済成長率は実質1%弱、名目1%半ば程度」という"長期"ベースラインに乗っているだけでは。
言うまでもないが、内閣府の予測。
  【2019〜2023年度ベースライン】
 ・実質成長率:ほぼ0.9%
 ・消費者物価上昇率:1.2%
 ・財政赤字:-3.0%
まあ、確かに、2023年迄はこれでもなんとか持つだろうが、その先は恐ろしい。
ただ、直近的には、2015年1月の貿易統計では、赤字が前年比で57%減、輸出額17%増となれば、これは2015年の日本経済は好調と考える人が増えておかしくない。但し、原油輸入額4割減と春節需要が加わっている中国向けの2割増があるから、多少値引きして考える必要があるとはいえ。ちなみに、円安による輸入価格上昇は国内需要に結構効いているようで、米国、アジア、中国からの輸入は減少している。当たり前だが、為替と外需頼みでGDP押上げを図っていると見なされれば、すぐに国際政治問題化するから、これを続ける訳にはいかない。その辺りを上手く切り抜けるのが為政者の腕でもあるが。

ともあれ、「岩盤規制」を壊し、「バラ撒き廃止」へ進めない限り、新しい事業が勃興することは難しい。それなくしては、長期的にはこのベースラインに落ち着くしかなかろう。しかし、改革に踏み込もうという政治勢力は不在。野党など、与党に輪をかけた反改革現状維持志向に陥っているのだからどうにもならぬ。そんな状況下では、たとえ口先だけであっても、現政権は「他よりはまし」と考える人が増えていくのだろう。無能な指導者に率いられて沈没した歴史を彷彿させる流れである。まあ、そういう風土をこよなく愛する人だらけの国だから致し方ないが。

そのように見ている人間から見て、面白かった報道といえば、正月挨拶の紹介ではなかろうか。
企業に圧力をかけて、賃上げや設備投資に踏み込ませようという発想での力のこもった発言だったらしい。これでは、どうにもなるまい。まさに、国家社会主義政権が行うような方策であり、経済構造が歪むだけ。
1月5日の生保協会新年会で、麻生太郎副総理兼財務相が企業が利益を内部留保に回している姿勢を「守銭奴」と称した。安倍首相も、経済3団体恒例の新年パーティーで企業経営者達に賃上げと設備投資増額を呼びかけた。
言うまでもないが、言うことを聞けば、法人税減税上乗せの見返りがあるゾという訳で、古いタイプの政治が復活したのである。これには大笑いさせて頂いた。野党など、これに真剣に取り組めとの掛け声で満ちているのだから凄すぎ。

もちろん、優良企業なら、それに乗って動くことも悪くない。しかし、そんな企業は少数派では。日本経済を牽引するほどの勢力になってはいまい。ここの現状認識にズレがあるのでは。
今、企業がやらねばならないのは、グローバルな優位性をいかに実現するかだと思うが。TPP締結とは、明示的なルールを遵守することによる、競争政策開始を意味する。加盟国は、自国の産業の新陳代謝を進める以外に手はなく、それによって大幅な生産性向上と経済成長という果実を手にしようというもの。従って、本気でTPP締結を考えているなら、いかにして競争優位を実現するかに、カネと頭を使うことになる。単純な一律的賃上げと国内設備投資がそれに寄与する可能性は極めて薄いと言わざるを得まい。・・・その観点で見れば、新規事業/研究開発投資や、海外市場での地位向上こそが緊要な課題となる企業は少なくない筈。間違った経営判断は禍根を残すことになろう。

それに、グローバル展開企業にしても、競争力喪失が目立つのが実情。そのような企業が、賃上げだ、設備投資だ、と動くとしたとんでもない勘違いとしか言いようがあるまい。最優先課題は徹底した構造改革であり、借金をしても切開手術で健全化を図る必要があろう。

ドメスティックな企業にしても、本来なら、生産性向上投資をしたいところ。しかし、合理化投資すれば余剰人員を抱えることになるだけ。一方、新規事業に踏み込もうとしても、新陳代謝阻止の社会風土に行く手を阻まれることになる。

ここをなんとかしない限りどうにもなるまい。
   「経済統計数字を聞かされて」 [2015.2.6]

(内閣府)
「中長期の経済財政に関する試算」(平成27年2月12日 経済財政諮問会議提出) http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h27chuuchouki2.pdf
(日経)
"「株高呼ぶ資金「雪解け」、資本効率向上へ使う経営 編集委員 三反園哲治" 2015/2/13 2:00
"1月の貿易赤字1兆1775億円、前年比57%減 輸出額17%増" 2015/2/19 10:17
(ロイター)
"焦点:世界的な株高値更新に4つの背景、金利「消滅」が下支え" 2015年02月19日 13:13 JST
(WSJ)
"マイナス金利政策、その危険性とは" By RICHARD BARLEY 2015年2月19日15:37 JST

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